岸田奈美|NamiKishida

100文字で済むことを2000文字で書く。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった(小学館)』『もうあかんわ日記(ライツ社)』『傘のさし方がわからない(小学館)』『飽きっぽいから、愛っぽい(講談社)』|コルク所属|関西大学客員教授

岸田奈美|NamiKishida

100文字で済むことを2000文字で書く。『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった(小学館)』『もうあかんわ日記(ライツ社)』『傘のさし方がわからない(小学館)』『飽きっぽいから、愛っぽい(講談社)』|コルク所属|関西大学客員教授

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  • 岸田奈美のキナリ★マガジン

    新作を月4本+過去作400本以上が読み放題。岸田家の収入の9割を占める、生きてゆくための恥さらしマガジン。購読してくださる皆さんは遠い親戚のような存在なのです!いつもありがとう!

  • 漏水ビチョビチョ日記〜天井から汚水が止まらない人間の記録〜

    年末のある日とつぜん、部屋の天井が落ちて、上階の汚水が流れこんできたときの限界記録。

  • 【無料】よく読まれる記事

    比較的多くの方の目に触れてしまったnoteを集めました。

  • もうあかんわ日記〜2ヶ月間の限界家族〜

    母が心内膜炎で入院、祖母は認知症が悪化、犬は大暴れで……岸田家の危機に、祖父の葬儀、鳩の襲来などが続々と!「もうあかんわ」と嘆きながら毎日更新した2ヶ月の記録。ライツ社から発刊した同名の書籍に収録していないエピソードも。(イラスト:水縞アヤさん)

  • 家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

    NHK BSプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の原作エッセイ・撮影現場レポートのまとめ。ドラマは“岸本七実”が主人公のトゥル〜アナザ〜スト〜リ〜なので、読んでから観ても楽しめること大請け合い!

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[小説]声

これが最後の仕事になる。 できることなら、最後になんてしたくない。でもだめだ。日を追うごとに、働き続ける自信が腐り落ちていく。 総合病院の受付の裏側、患者からは見えない事務室がわたしの仕事場だ。デスクの上に積み重なっている手紙を、一枚、そっと手に取る。 ひどい字だ。 差出人の名前もない。 『待合室の金魚の目つきが悪い!通院のたびに動悸がする!』 知らんがな! そう言いたい。もう捨てたい。ああ泣きたい。それでもわたしは、この紙の折り目をていねいに伸ばして、ペンを取ら

弟は笑えない

家族写真をくださいと言われ、困っちゃう時がある。 記事やポスターを作ってもらう時なんかに、ホイホイ送ってみれば、 「すみません、別の写真はありませんかねえ?」 申し訳なさそうな返信がくることはめずらしくない。 「別の写真ってーと」 「弟さんが笑ってる写真で、どうかひとつ」 やはりか。やはりそうきたか。岸田家の最大とは言わんが、中くらいの難題がここにある。弟が笑っている写真は枯渇している。 岸田家の集合写真に鎮座する弟は、たいがい仏頂面なのだ。 ジャングルの奥地

【11月の岸田奈美】ベランダの寿命はあまりにも短い

ごきげんよーコ・チャン! 寝て起きたら、朝と昼の温度差が10℃とかになっちゃってて。とっさにね、小学校の理科を思い出した。恒温動物ってこれ大丈夫なんでしたっけって。命を試されてるんですっけって。 それはそうと、嬉しすぎて、いろんなところで話してるんですけど。 最近、ベランダにテーブルセットを置いたんですよ! ひとり暮らし10年目にして、やっとですよ。引っ越してIKEAに行くたびに、終盤のゾーンを見ながら、疲れ果てた頭でみんな憧れるやつですよ。 パリの街角でテーブルセ

遊園地特化型貧乏症

わたしの父は、遊園地が好きじゃなかった。 行列にも、騒音にも、絶叫にも、いちいち腹を立てていた。とりわけ、父の地雷といえば、子どもだまし、だった。 無駄によくできたホラでわたしをだましてはゲラゲラ笑うくせに、自分がだまされることには、めっぽう我慢ならん男なのだ。 新幹線に乗れない弟を喜ばせようと、父は神戸から東京まで夜通しボルボ940を走らせ、ディズニーランドへ連れて行ってくれたことがあった。 好きではなくとも、そういうことは、やってくれる男なのだ。 ところが、到着

漏水ビチョビチョ日記〜天井から汚水が止まらない人間の記録〜

年末のある日とつぜん、部屋の天井が落ちて、上階の汚水が流れこんできたときの限界記録。

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  • 12本

汚水を得た魚のように(漏水ビチョビチョ日記|完結)

年末の深夜に天井が落っこちて、汚水がなだれこんできた人間の記録、これでおしまい! 果たして補償は、いかほどか……? 漏水から、1ヶ月が経った。 住居も変わり、年も変わり。まだ怒涛に揉まれる昼下がり。 『保険会社です。損害金の査定が終わりましたので、ご報告します』 きた、きた、きたー! ビッチャビチャの部屋で、瞬く間にお亡くなりになってしまった家具たちのことを思い出す。総額で100万円は超えていた。 『鑑定人が調査させてもらいました結果……』 ごくり……。 『

よおく考えるまでもなくお金は大事だよお(漏水ビチョビチョ日記)

住む家が決まったら、息つく間もなく、引っ越しだ! 果たして、新年が明けるまでに越せるのか!? 12月29日 11:30- 待ちに待った引っ越し引越会社で眠っていた段ボールの群れたちと、感動の再会。 マインクラフトのCGみてえだ。 汚水に追われて、とにかく詰めまくったので、中身はわけわからん。写真の三倍ぐらいあるし。 引っ越し屋のタイ人のお兄さんがやってくれたであろう、 クシの箱。 開けたら、ギッチギチの靴(クツ)だった。 弟が荷ほどきを手伝いにきてくれることに

お導きマンション(漏水ビチョビチョ日記)

西宮は、住んでみたい町だった。 わたしの父は西宮の甲子園球場のすぐそばで生まれ育ち、神戸の山の裏にできたニュータウンに家族の住まいを構えても、西宮を忘れられなかったみたいで、そこへ仕事場も構えていた。 ざっくりいうと住宅の仕事だったが、町おこしにも奮闘していたらしい。父は亡くなったあとも、父の仕事仲間は西宮にいる。 西宮という町がなぜ、父を引き止めたのかはわからない。 知りたいとは思っていた。西宮の大学に通ったのも、甲子園球場でバイトしてみたのも、まあ、そういう理由も

生活する人、仕事する人(漏水ビチョビチョ日記)

汚水がふりそそぐ部屋から、あわてて引き上げた家財たちは、まだ引っ越し屋の倉庫で眠ってる。 トラックごと眠ってる。 そんなんじゃ生活も仕事もままならんでしょうと、思うなかれ。 積んでっから。 全部、積んでっから。 パソコンも、服と靴も、すぐ読まなくちゃいかん本も。 ベッドも。 ギッチギチに。 すごくない? あまりにも積めすぎている。 車一台あればそのへんの野ッ原で暮らせてしまう。 ドラマの撮影で使われたボルちゃん、引き取らせてもらうって決めた時はバクバクしたけ

【無料】よく読まれる記事

比較的多くの方の目に触れてしまったnoteを集めました。

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  • 22本

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

高校から帰ったら、母が大騒ぎしていた。 なんだなんだ、一体どうした。 「良太が万引きしたかも」 良太とは、私の3歳下の弟だ。 生まれつき、ダウン症という病気で、知的障害がある。 大人になった今も、良太の知能レベルは2歳児と同じだ。 ヒトの細胞の染色体が一本多いと、ダウン症になるらしい。 一本得してるはずなのに、不思議ね。 「良太が万引き?あるわけないやろ」 ヒヤリハットを、そういう帽子だと思っていた母のことなので。 「ちゃうねん!あるんやて!」 ニコラスケイジ

一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた

※下着のお話なので、苦手な方はご注意ください。 わりと、こだわりの強いタイプです。 でも、これだけは決めているんです。 「モテている女」のアドバイスにだけは、一切のプライドをかなぐり捨て、従うことを。 東にパーソナルトレーニングジムがあると聞けば、私財を投じて馳せ参じ。 西に3kg痩せ見えパンツがあると聞けば、半月間もやしをすすることになろうと手に入れる。 情報に振り回されすぎて、5日間絶食ダイエットをした直後、コラーゲン鍋をかっ込んで東梅田の真ん中で吐いた時は、どう

車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

2016年11月。 土埃と魚醤の匂いがするミャンマーの市場で。 私は立ち尽くしていた。 車いすに乗る母の背後には、何人ものちびっ子托鉢僧たちが、連なっていた。 逃げようとすれば、ついてきて。 そしていつの間にか、増えていて。 君たちは、あれか。ピクミンか。 母・ひろ実は困り果てた顔で「どうしよう」と、私に助けを求めた。 私は、見て見ぬフリをした。 私という人間は、理解できない状況に遭遇したら、たとえ実の親であろうとも迷いなく他人のフリができるんだなあ、としみじみ思った

櫻井翔さんと密室で30分間、対面したら2kg太った

2016年、3月。 私は密室で、櫻井翔さんと対面していました。 30分間も。無言で。 いや、本当だから。こじらせてないから。現実だったから。 ……たぶん。 説明いたしますと。 我が社が総力を上げて取り組んでいる「ユニバーサルマナー検定」をね。 受講しにきてくださったんです。 嵐の櫻井翔さんが。 NEWS ZEROの担当者さんから 「櫻井翔さんが、ユニバーサルマナー検定の取材をしたいそうです」 とお電話いただいた時。 「なんで?」 っていうタメ口が飛び出た。心からのタ

もうあかんわ日記〜2ヶ月間の限界家族〜

母が心内膜炎で入院、祖母は認知症が悪化、犬は大暴れで……岸田家の危機に、祖父の葬儀、鳩の襲来などが続々と!「もうあかんわ」と嘆きながら毎日更新した2ヶ月の記録。ライツ社から発刊した同名の書籍に収録していないエピソードも。(イラスト:水縞アヤさん)

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  • 41本

命を守ろうとしたあとの、折り合いって(母の入院)

熱が出てる母、回復しつつあるってこの前は書いたんだけど、ふりだしに戻って、というか戻るどころか悪い方にいっちゃって、おとといから入院してる。 まだ病名すらわかってないし、ぜんぜん落ちついてないので、こんなもん書かんと寝ろよって感じなんだけど、なんか寝れないんですよ。 わたしの頭はピンチのときに急速回転して、自己修復して整理するようにできてるので、回転しっぱなしで言葉と景色ばかり、ポンポン生み出されて、頭でかかえきれん。 ヤマザキパンの工場のベルトコンベアから無限に薄皮ク

みんな、会えなかったひとがいる(母の入院)

2月6日(土)の夕方に、母は大学病院に緊急入院した。 そこから9日(火)の夜まで、病院には五回足を運んだけど、一度も母の顔は見ていない。見れない。 コロナ対策で、患者さんとの面会は一律、禁止だから。 つまり最後に見た母は、グッタリして「ほな、さいなら」とつぶやく、とてもシュールな光景だった。新喜劇の幕引きとちゃうねんぞ。 入院した母は、まず病名を特定させなければということで、いろんな抗生剤を入れたり、あちらこちらを検査したりすることになった。 「食道カメラが、想像の

十二年ぶり、二度目の生還 (母の入院)

photo by 幡野広志 14日間の原因不明の発熱のあと、重度の感染性心内膜炎という診断を受けた母が、11時間もの心臓手術を終えて、集中治療室に入りました。 いまは安定していて、合併症や後遺症などもありませんが、これから起こることもあるので、2ヶ月程度は経過観察で入院です。 でもひとまず、命が助かった。ほんとうによかった。 手術は、とても厳しい状況だったようです。 感染症心内膜炎は、歯や傷口から入ったばい菌が、血液で運ばれて、心臓に巣をつくります。 12年前に母

喪に服したいけど、喪服がないっ! 〜祖父の大往生2021〜

祖父が亡くなった。 「いつ呼吸が止まってもおかしくない」と叔母から電話があり、三日前にお見舞いへ行ったばかりだった。 お見舞いといっても、祖父は外せない酸素マスクの下でモニャモニャと口走り、ごろごろと寝返るだけで。二重に鍵のかかった病室、ミトンをはめられた手、マスクで擦れて赤くなった鼻の下を見ていたわたしは、ああ、ついにこの日がきて、きっとよかったねと思った。 祖父は岸田家のなかでも、いちばんしんどい人生を終えたと思う。 島根で五人兄弟の長男として生まれた祖父は、曽祖

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

NHK BSプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の原作エッセイ・撮影現場レポートのまとめ。ドラマは“岸本七実”が主人公のトゥル〜アナザ〜スト〜リ〜なので、読んでから観ても楽しめること大請け合い!

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  • 15本

絶対に、だいじょうぶの巻(ドラマ見学最終日)

「だいじょうぶ」って言葉は、不思議だ。 大好物のウインナーが品切れだったときに弟がボソッとこぼす「だいじょうぶ、だいじょうぶ」は、「しゃあない」っていう意味で。 三者面談でさんざんな通知表を見せながら先生が放った「だいじょうぶでしょう」は、「どこでもええから進路をはよ書け」っていう意味で。 この世に生まれるありとあらゆる「だいじょうぶ」は、言った人にしか、言われた人にしか、訳せない。 そして言った人も、言われた人も、それぞれ違うふうに訳してる。 あの日もらった「だい

君こそスターだ!の巻(ドラマ見学7日目)

「今週末、沖縄でロケがあるんですよ」 プロデューサーから聞かされたとき、わたしは小学館の会議室で取材を受けているところだった。 「へえー、沖縄で!」 「みんなのスケジュールがさすがに合わないかと思ってたんですが、やっぱり行こうということに」 「それはそれは」 カメラのレンズ交換を、待っている間。 スッ。 スマホを取り出した。 「行きたかったなあ」 ちょうど新刊の告知で、一日に取材を5件もお受けすることはめずらしくなく、むちゃくちゃ忙しかったのだ。 諦めなが

耕助パパと愛しのボルちゃんの巻(ドラマ見学6日目)

とても、かなり、すごく、忘れっぽい。 わたしというやつは。 小学生のときは、忘れ物をしない日のほうがめずらしかったのではないか。絵筆やトイレットペーパーの芯やらをボンボン忘れ、図工の怖くて嫌味なオバチャン先生にいつも怒られ、泣いていた。 「絵筆持ってへんような子は、なにしに学校来たんかしらね。あー、なるほど、先生がバカやから見えへんだけやね。バカには見えへん筆ってね。ほな、続けましょ」 こっわ! 父が亡くなったときだけは、忘れるという才能が、身を守ってくれたように思う

大いなる愉快な第一歩の巻(ドラマ見学5日目)

ダウン症の役者さんの撮影がはじまるとき、プロデューサーが「ライブ感のある現場ですよ」と、意味深なことを言っていた。 その深い深い意味が、やっとわかった。 岸本家が車で出かけるシーンの撮影前。 ここはミニ草太を演じる小倉匡くんの見せ場だ。 あまりの愛くるしさに、心臓をワシッと掴まれていたら、 「……あれっ?」 ピタッと凍りつく、匡くん。 靴を履き替えなければいけないのだが、足があがらない。やむを得ず、カメラが止まった。 匡くんのお母さんが、一喜一憂しながら見守っ