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君こそスターだ!の巻(ドラマ見学7日目)

5月14日(日)22時からNHKBSプレミアムで放送『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』撮影現場の見学レポート、前回の話は↓


「今週末、沖縄でロケがあるんですよ」

プロデューサーから聞かされたとき、わたしは小学館の会議室で取材を受けているところだった。

「へえー、沖縄で!」

「みんなのスケジュールがさすがに合わないかと思ってたんですが、やっぱり行こうということに」

「それはそれは」

カメラのレンズ交換を、待っている間。

スッ。

スマホを取り出した。

「行きたかったなあ」

ちょうど新刊の告知で、一日に取材を5件もお受けすることはめずらしくなく、むちゃくちゃ忙しかったのだ。

諦めながら、カレンダーを見た。

行け……る……?


土日の2日間だけ、なにも入ってなかった。

「春休みだし、飛行機が満席だろうなあ」

航空会社のWEBサイトを開くと当然、完売していた。ように思えた。ページを更新する。あと1席△、という表示が出た。

乗れ……る……?


シュッ!(飛び立つ音)

パッ!(降り立つ音)

ド……

ドーン!!!!


「へえ〜、ここが2023年の沖縄かァ!」と、思わず口にしてしまいそうなワープっぷり。

プロデューサーの

「えっ、えっ、本当に来るんですか……?」

に、何度も無言の笑顔でうなずいたが、行動力の高さで人を怯えさせることってできるんだな。

なにがなんでも行きたい理由もあった。

撮影場所が、かりゆしビーチだったからだ。

名前を聞いただけでわりと涙腺がイーヤーサーサー状態なのだが、ここは、母が車いすに乗るようになってから、初めて訪れたビーチだ。

車輪が砂浜にハマるので、決してビーチには近づいてはならぬのが岸田家の掟だった。

かりゆしビーチだけは、車いすで行けるように整備されていたのだ。

しかも、

絶対に乗れへんやろと諦めてた、グラスボートにも力技で乗っけてくれた。2011年のことだ。母はここで、生きてゆく力を取り戻した。

「死にたい」と母から打ち明けられてから、バイトをして必死で貯めたお金を注ぎ込み、ふたりで沖縄を目指したのが懐かしい。イーヤーサーサー。

思い出の地で、ドラマのロケがある。

こんな偶然、逃さずにいらいでか!

あとから聞いたけど、偶然ではなく、脚本家さんが熱心に調べたからだろうということだった。泣いちゃう。

かりゆしビーチリゾートのプールで、草太役・吉田葵くんの撮影をしていた。今作品、期待の超新星である。

豪快に浮かんでいた。海の子がおる。

晴れてはいるけど、この日の気温はまだ20℃ほど。助監督さんと音声さんも、お腹まで浸かったままだった。過酷。

「よーい!」

カメラがまわる。

スーッ。

葵くんが、発射された。


水面をウニョウニョと蹴って、気持ちよさそうに進んでいく。

本当はうきわで泳ぐ予定だったが、葵くんは水が苦手らしい。

そこでジンベエザメが投入されたというわけである。救いのジンベエザメ。マリオにおけるヨッシー的な役割。葵くんを乗せ、大海原を駆けろ!

どうしても顔に水がかかってしまうが、それは、お風呂でお父さんと猛練習したらしい。撮影の直前まで、一緒に湯船でブクブクと。

「カーット!もう一度、進む方向かえて!」

やりなおしになると、

尻尾をつかまれ、ジンベエザメごと引き戻されていく。うなだれる葵くん。シュールすぎて、笑いをこらえきれない。

長引きそうだなと思っていると、大きな声が響いた。

「あのう、これって、足をバタバタさせたほうがいいですかー?」

誰の声だ。

葵くんの声だった。

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