壊れものたちの鎮魂歌(漏水ビチョビチョ日記)
2月10日〜18日の間、岸田奈美は休業期間で閉店ガラガラになります。noteの更新、番組やイベントの出演などもありません。またね。
▼ これまでに書いた経緯
1日目|天井から今も雨が降り続いている人間の記録
2日目|32歳にもなって土下座で大号泣
3日目|止んでる間に詰めろ詰めろ
4日目|君たちはどう濡れるか
5日目|水道ミステリー、解明編
6日目|給湯器はなぜ年末に壊れるのか?
7日目|アドバイスに溺れるがお湯は出ない
給湯器はなんとかなったが、住まいの方はなんともなっていない。壮大な回り道をして、元の迷い道に戻ってきただけである。
曲がりくねった……道の先に……!
待っている……!いくつもの……!
壊れた家電……!
12月24日11:00- アイドンワナロッタクリスマス
街がマライアとキャリーに染まり、ひしめくカップルをかき分け、「京都やねんから寺行けや寺!」などの罵倒を飲み込み、わたしが向かったのは。
わが家だった。
あらかた荷物を運び出した後、もう見たくもない、帰りたくもない、そんな場所だったが、そういうわけにもいかない。
保険の請求が待っている!
突然、襲いかかる汚水に殉職した我が同胞(家具・家電)の無念を晴らすべく、せめてその亡骸を金に変えるのだ。
正直、忘れてて。
失ったものが多すぎて、なんか、得られるものとか、眼中になくて。
「もういいよォ……お金なんて最後で。まだ新居決まってないし」
ぼやくと、編集者さんが
「なに言ってんですか!請求は早いうちにやっとかないと、あとあと大変なんですよ!ほらっ!立って!行って!権利を行使して!」
とケツをブッ叩いてくるので、泣く泣く、帰ってきた次第で。
保険の請求には、家財品のリストと、写真がいるそうだ。
とっとと撮って、かーえろ。
玄関を開けた。すえた匂いがした。
12月24日11:10- たけのこニョッキッキ
天井はむき出しになっていたけど、水は止まっている。
がらんとした部屋は、なんだかもう見覚えがない。
土足でリビングを歩いていると、
「えっ」
ころんだ。
めちゃめちゃ、ころんだ。
ベチャッと鼻から床に倒れこむ。痛い。大人になってから転ぶと本当に痛い。涙が出る。
なんか、つまづいた。
「えっっっっっっ」
た……たけのこ……?
三日三晩降り続いた汚水が、新たな生命を……?
えっ。どうしよう。一句詠むべきか。俳句って家で詠んでいいのか。松尾芭蕉も落ち込む大惨事。松尾芭ションボリ!
台所でも生命が芽吹いていた。ダイレクトキッチン家庭菜園。雨後のたけのこを、今夜はそのままお味噌汁に。
モリモリモリ……と、今にも音が響いてきそうだったが、どうやら水を吸った床材が、乾いて膨張したみたいだ。
この無垢材の床が気に入って、入居を決めたんだよな。
淡い記憶がよみがえる。
12月24日11:15- 撮影開始
ひたすら、お亡くなりになった家財品の写真を撮る。
つらい。
汚水に打たせ湯くらっているところを見るのもつらかったが、時間が経ってからも全然つらい。置き去りにした罪悪感もある。
八百万の神よ……!
12月24日12:00-ソファの亡骸
部屋の奥の方にある、巨大なビニールシートに手をかける。
フーッ……フーッ……。
はがす前に、何度か深呼吸した。だめだ。心を強く整えねば、失神してしまう。精神を統一。
「せーのっ」
バッ!
あああああああああーーーーっ!
清水のステージからフライ&ダイブするつもりで、買ったばっかの、Unicoのレザーソファが!
真っ白!くっさい!カッサカサ!
まだ、ローン残ってるのにーーーーーっ!
失神した。
12月24日12:30-シュレディンガーの冷蔵庫
冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器。
キッチンは天井が落ちてきて、ナイアガラの滝状態になったので、ほぼすべての家財品が全滅だった。
黙々と写真を撮る。すべては保険のため。
「ちべたいっ」
冷蔵庫をあけようして、ドアのくぼみに溜まった汚水をまともにくらった。ドアを開けると、水が襲いかかってくるはずだ。
中にまだ、サバとか入ってんだよな。どうしようかな。
開けなければ存在しないのと同じ。シュレディンガーのサバである。考えるのをやめた。
12月24日15:00-鍋のフタ
終わらない。
撮っても、撮っても、終わらない。
たかだか濡れたものの写真撮るだけだと思うじゃんか。
濡れたものが、ありすぎて。
栗原はるみさんの鍋のフタは、まともに汚水シャワーをくらったので、使えないんだけど。これ、二枚にわけて撮らないといけない。
ちなみに、鍋本体は。
これです。
管理会社の人が、漏水はじまって飛んできて、真っ先に言ったのが、
「早く!この鍋で汚水を受けてください!」
だったからね。あの時は気が動転してて、渡された鍋をハイッつって設置したけど。
おかしいだろ!どんだけ大切にしてた鍋だと!ちくしょう!
鍋もボウルも、ひとつずつ撮らんといかんわけです。一生分のブツ撮りをしている気がする。
12月24日16:00- 偽装工作の誘惑
水炊き鍋をやる時に重宝していた、IHクッキングヒーターを前に。
わたしは、唖然としていた。
濡れて……ない……!
かぶったはずの汚水が、すっかり乾いていた。
おそるおそる、スイッチをつける。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。