水道ミステリー、解明編(漏水ビチョビチョ日記)
▼ これまでに書いた経緯
1日目|天井から今も雨が降り続いている人間の記録
2日目|32歳にもなって土下座で大号泣
3日目|止んでる間に詰めろ詰めろ
4日目|君たちはどう濡れるか
(5日目)12月22日 9:00-一本の電話
天井から上階のきちゃない水が、3日間にわたり、雨季のジャングルのごとく降り続けた自宅。
そろそろ新たな生命が誕生してもおかしくない。
降り続けた原因も、引っ越し中に突然止まった原因も、なにもかもわからなかった。
入れ替わり立ち替わり、いろんな水道業者が来てくれては、
「こりゃ上の階の人が漏水させたんじゃ?」
「パイプの亀裂やろ?」
「上水にサビが混じっただけちゃう?」
熱き推理を繰り広げていた。錯乱した金持ちの洋館に招かれた名探偵たちかよ。突如、自宅を舞台に開幕した水道ミステリーは、迷走をきわめていた。
もう、このまま、ずっとわからんのちゃうか。
住む家を失ったわたしとしては、原因なんかどないでもいいわ!と投げやりになっていた。
しかし、そういうわけにもいかん。
保険会社に補償の相談をしたら、
「原因がわかって、責任の所在が明らかにならないと、どこの保険会社が負担するかのお話はできないんです……」
と門前払いをくらったのである。
た……
た、探偵を呼べ!(錯乱した金持ち)
錯乱はしているが金持ちではないので、探偵は呼べない。
祈り続けた、その時だった。
「岸田さん!聞いてください!」
管理会社からの電話だ。
「原因がわかりました!」
「つ、ついにわかったんですか!」
希望の光がさした。
「原因がゴニョゴニョわかりました!」
なんか言うとる!
「なんか言うてません!?」
「原因がゴニョゴニョ」
「なんてなんてなんて」
「原因がわかったような気がします!わかったっていうか、もうこれしかないやろっていう見解が出て、もうわかったような感じです!」
わかってないだろ。
(5日目)12月22日 9:30-又聞き推理ショー開幕
関係者をロビーに集めてください!謎を解き明かしてご覧に入れますよ!みたいな勢いで連絡してきているのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
聞かせてもらおうか。
きみたちの……推理ってやつを。
「結論から言うと、今までの仮定はぜんぶ間違ってました。パイプの破裂でも上階の漏水でもなく」
「ちゃうんかい」
「原因は、オ……オー……え、なんや?ちょっすんません、なんて言うやつでしたっけ?」
スマホを叩きつけそうになった。電話口の向こうで確認すな。ちゃんと裏取ってから連絡せえ。心臓おかしなるやろ。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。