給湯器はなぜ年末に壊れるのか?(漏水ビチョビチョ日記)
思わず「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」みたいなことを言ってしまったが、令和のベストセラーを狙いたいほどの切実さである。
天井が落ちるほどの漏水で、実家に避難してきたはずが、実家の給湯器がブッ壊れてしまった。
えらいこっちゃ!
▼ これまでに書いた経緯
1日目|天井から今も雨が降り続いている人間の記録
2日目|32歳にもなって土下座で大号泣
3日目|止んでる間に詰めろ詰めろ
4日目|君たちはどう濡れるか
5日目|水道ミステリー、解明編
(6日目)12月23日 9:00- 四冠受賞
「あったかいご飯と、あったかいお風呂はあるから」
……と、
マザーパワーを爆発させていたはずの母、ションモリ。
顔面のあらゆる顔のパーツが ハ の字になってた。
給湯器が、ブッ壊れてしまった。
きゅ……給……湯……器……?
一瞬、わけがわからなかった。なんだそれは。そんな装置がうちにあったのか。
「給湯器とやらが壊れると、どうなるん?」
知らんのか。
お湯が止まる。
脳内でコブラがささやく。
お湯って、お湯って、水道屋が作ってんじゃないんだ。給湯器が作ってんだ。
「まあ、まあ。壊れたもんはしゃーない!買いなおそ!」
ネットで調べた。
ティファール買い替えるぐらいのノリで調べた。
20万円。
「にっ……」
数えた。ケタを数えた。指でなぞって数えた。
何度見ても、20万円だった。
母を見た。
「うちのマンションはオール電化やから、エコキュートやねん」
40万円。
イスから転げ落ちた。
スッテーン!
尻からいった。
車買えるやろがい。中古のワゴンR買えてまうやろがい。
そんな家電あるわけないだろ。10年間ずっと不調もなく動いてたのに、いきなり糸切れたみたいに壊れて、家計に一撃必殺を与える家電なんて。
壊れるにしても、もっとこう……こう……ちょっとずつ、調子悪くなるっていうかさ!
「おいおい、こいつも換え時かもな。よーし、今度の週末、パパと電気屋のぞいてみっか!」
みたいな段階を踏んでくれよ!弁慶みたいな死に方をするんじゃない!もっと吐け!弱音を!
ネットには、やはり年末に給湯器が壊れた者たちの嘆きであふれていた。
冬が深まると、あっついお湯をバンバン使うため、事切れる給湯器が多いらしい。一番頼りになる時期に……お前……お前!
この時点で、給湯器選手。
年末に壊れる家電 No.1
存在を忘れてる家電 No.1
壊れたら困る家電 No.1
値段が高すぎる家電No.1
の四冠を受賞。
2023年の暮れの暮れに、破竹の勢いで追い上げ。
(6日目)12月23日 10:00- うんともすんとも
一晩待って、もっかい、給湯器の電源を入れた。
もしかしたら、直ってるかも。
「オユ ガ ワカセマセン エラーコード ヒョウジ」
淡い期待、夢と散った。
40万円。
家が漏水してんのに。住む場所も決まってないのに。帰ってくるお金も、これからかかるお金も、なんぼかわからんのに。
母が卒倒しそうになっていた。
40万円を、ドラム式洗濯機に払うなら、わかるんだ。食器洗浄機に払うなら、わかるんだ。
「くぅ〜〜〜っ!金のかかるヤツめっ!うりうりぃ!」
なんて困ったフリしながら、財布の紐をゆるめてる顔は、みんなちょっと誇らしげなんだ。
「ついに買っちゃいましたよォ。でも便利さには叶いませんねェ!」
どこか照れながら、札束、はたいてんだ。
清水の舞台から飛び降りるにしても、華麗な高速4回転半からのノースプラッシュで飛び降りるって感じなんだ。10点、10点、10点、10点ッ!
けど、給湯器はさ、
給湯器はさ……!
握った財布の紐に、なかなか手をかけられない。食いしばった歯が砕け散りそうである。
ああ。
わたしは、なんてひどい女なんだろう。
見えないところで、存在を忘れられても、家族のために黙々とお湯を作りつづけてくれた給湯器。心から感謝をし、お暇をあげて然るべきである。
なのに、どうしてこうも、惜しいのか。
言うなれば、ミュージシャンの下積み時代を、甲斐甲斐しく支えてくれた、なんなら夜勤バイト明けも鶏そぼろとか炊いて待っててくれた彼女。ちょっと売れたらその彼女を捨て、ポンギロッでデルモやってるサラダしか食わん女と結婚するようなもんである。
「くううっ……」
給湯器の!
給湯器の地位向上を!
家電芸人もこの現実から目をそらすな!ヘルシオを披露すな、ルンバをなでるな!給湯器をねぎらえ!給湯器を格付けせえ!戦国BASARAとコラボせえ!
そしたら、そしたら、もっと普段から給湯器への覚悟を。
「……やけど、給湯器って、どれも一緒っちゃ一緒よなあ」
「そうなんよなあ」
人類は、このカルマから逃れられない。
(6日目)12月23日 11:00- 給湯器は大人気
とりあえず、いくつか目星をつけて、電話をしてみた。
「新規のご購入ですと、三ヶ月から半年ほどお待ちいただきます」
「へっ?」
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