自信を持ちたきゃ!ボールを投げて!ジャムを煮れ!
わたしはライブ配信とかよくやってるもんで、
「なにをやっても自信が持てなくて、毎日が不安です」
これ!
これを相談されること、めっちゃ多いねん!ばく然とした不安たちの寄合所みたいになる時がある!
ふむふむ、よくぞ送ってくれやんした。あなたの不安をバシッとたくすために、この岸田奈美が華麗に答えてしんぜ……
わかる〜〜〜〜!
自信とか、持てへんよな。
わたしは以前、大人になったら自己肯定感はどんだけ頑張っても上がらないから、諦めて、自信を増やそうって話をしました。
でも、自信かて、そう簡単に増やせへんことに気づいた。
なんかわたしの自信って、生搾りソフトクリームと同じやねん。バケツ持って牧場まで走って、牛をなだめ回して後ろ足で蹴られながら、やっとこさミルクをもらって、汗だくで練り練りして、うずまいて完成するソフトクリーム。甘い。
舐めたらなくなる、なんにもパア!
溶けるし。あんなに苦労したのに。甘いの一瞬だけやないかと。
なるべくがんばって、食べてきたソフトクリームの味と数を思い出すようにしてるけどもね。ちょっと体調とか悪くしたり、こう急に寒くなると、不安にもなるね。
……ですが、この“自信”について、新しい知見を得ました。希望とともに話したくてたまらんので、聞いてください。
今月、NHKラジオ『ふんわり』にゲスト出演した時のことです。
2024年11月30日(土)22:00放送の、わたしの初脚本ラジオドラマ「春山家サミット」の宣伝も兼ねて、呼んでいただきまして。
リスナーさんからたくさんお便りが届いたんですが、
「なにをやっても自信が持てなくて……」
き、きたーっ!ここでもか!ここでもくるんか!
もうこれウチらだけの課題やないて。きっと、どえらい人数が朝から不安でたまらんのやて。国策として一人ずつから不安を徴収してくれ。
生放送なので、早朝の頼りない脳みそを死ぬ気で回転させて、答えを考えました。
「それは……もう……わたしも……なんぼやってもうまくいかんので、もう己の脳を騙すしかないんじゃないかって思いはじめてます……」
コンフィデンスマンの世界へようこそ。
世の中にあふれる真っ当な研鑽や成功のすべてを諦め、脳に一点突破させるストロングスタイルに転じた岸田。一瞬、生まれる静寂。
「やっぱ、だめですか?」
静寂を切り裂き、わたしは苦し紛れの助け船を求めた。
『ふんわり』金曜パーソナリティの黒川伊保子さんに。黒川さんは人工知能の研究者である。きっとなんとかしてくれるという淡い期待と、急にゲストが予定にない話を振ったことによりスタジオ内で走る放送事故の緊張!
「ええと……」
黒川さん……。
「うん、それはあると思いますよ」
黒川さァん!!!!!!!!
微笑みを浮かべて、すらすらと話し出してくれる黒川さんは女神に見えた。出演ではなく、もはや降臨。そしてわたしは、黒川さんの咄嗟の答えに救われるのであった。
「自信を持ちたいなら、壁にボールをぶつけてみたらいいんですよ」
ははーん。
黒川さんといえばベストセラー『夫婦の壁』の著者だ。ここから自信という得難い経験を掴むための苦難の数々を、壁に例えて、突破するための解説をしてくれるとみた。
「そしたら、跳ね返ってくるボールをキャッチしてください」
……えっ?
あっ、壁にボールをぶつけるって、マジの話?
比喩とかではなく!?!?!?!?!
バスケ部に入部したての、中学1年生のわたしがやってたやつやんけ。レギュラーになれるならまだしも、なんでそれだけで自信が持てるんだ。
「壁に投げた。跳ね返ってきた。キャッチできた。これは全部、脳から身体へ電気信号がうまく伝わったということですから。伝達できたという成功体験を積み重ねて、脳に覚えさせることができます」
黒川さんは、なんかだいたいこんなことを言っていた。
「やればできる、っていう自信になるという」
わたしは呆気に取られてしまった。そうか、脳は意外と単純で賢いのだ。知ってたけど、うっかり忘れてた。
例えば何年もグチを言って生活してると、グチを言うことで脳が幸せを感じるようにもなる。死なないように適応する。
不安ってばく然としてるけど、本当はただ、わたしはわたしの身体すらうまく動かせなくて、この先、どこへ行けるのかもわからないというだけのことかもしれない。
わたしは今まで、自信を持てるだけの成功体験を作ろう、と考えてしまいがちなところがあった。
おそるおそる、スタジオで打ち明けた。
「それなら目標はできるだけ難しい方がいい!って思って、ドラム教室に通ってみたり、中国語を習ってみたり、するわけですけど……」
「続かない?」
「はい。大体のことが三日坊主で」
「続かなかった!挫折した!っていう経験だけ覚えちゃうと、また自信をなくしちゃいますよねえ」
そうなんです。
「脳に覚えさせるのが目的だから、ボールを壁に投げるぐらいでいいよね。できるだけ簡単で、できるだけ続くこと!」
わたしは最初からデカすぎる間違いをしとったことに気がついた。オンエア中だというのに、ほぼ上の空で、家の中でぶつけてもいい壁だけを全速力で思い浮かべていた。
同時に思い出したのは、わたしの母のことである。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。