虚無のベルトコンベア陶芸教室(もうあかんわ日記)
毎日だいたい21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。
イラストはaynさんが描いてくれました。
今日はいろいろもうあかんかったので、しばらくぶりに、家から離れて、ひっそりと好きなことをした。
自由にレコードを選んでかけていいブースで、偶然見つけた矢野顕子さんの「ごはんができたよ」を聴いたり。
思いたって京都の山の方へ行って、ろくろを回してお茶碗を作ったり。
とりあえず救われようと国宝の千手観音坐像をじっと見てきたり。
想像の30倍くらい肉体がチルッてスリープモードになってしまったので、ぽうっとした頭で、とりあえず考えついたことを支離滅裂にみじかく書いていきます。
家に帰ってきたら、なぜか新品のスリッパ5組がすべて神隠しにあっていたけど。チルッているのでダメージは少ない。
できるだけしっとりした土に触れたいと衝動にかられたのが急だったので、お茶碗をつくる工房は、観光客向けの体験プログラムがあるところを選んだ。
そんなに大きくなさそうな店のたたずまいだったのに、予約できる時間帯には「残り20枠」と書いてあって、20人も一斉に体験できるの?いやそんなまさかな?と思っていたら、本当に20人くらい一斉に受付してた。
ソーシャルディスタンスなので、密にはなれない。どうするか。回転寿司のごとくものすごい流れ作業で、パッパと客がさばかれるのだった。
「はい、最初の三人はこっちでエプロンつけて」
「なに作るか決めたら、横にずれて紙に書いて」
「その奥に色見本があるから、5色から選んで」
「できました?じゃあ、ろくろの前に座って」
「ほとんど僕が作るんで、軽く伸ばしてってください」
「はい、じゃ、あっちで郵送の紙書いて、お金払って」
一事が万事、こんな具合である。すべての工程で、担当者が変わるので、ほんとにわれわれはただ言われたことをやり、スムーズに隣へずれていくまで。
まあそんなもんだよね、観光客向けの体験だし。
これはどういう土なのか、なんで水を足すのか、いったいなんのためにこの作業をしてるのか、あまりよくわからないまま進んでいった。虚無のベルトコンベア陶芸。
聞いてはいけない雰囲気をばしばし感じつつ、さみしかったので「これってどこの土なんですかね?」と聞くと、エプロン装着担当のお姉さんがめちゃくちゃ早口な棒読み(安田成美が歌う風の谷のナウシカAメロを思い出した)かつ死んだ目で教えてくれたが、なにも頭に入ってこなかった。虚無。
しかし陶芸は自分との対話なので、虚無くらいが丁度いいのかもしれん。
集中できたし、少し力を入れると自由自在に変わる土の手触り、コントロールしきれない不安定さが、心地よかった。
「さっき三十三間堂で観音様を見てきたんですよ」
ろくろを回しながら、ろくろ監視担当のお兄さんに話しかけた。
「そうですか」
「お兄さんも行ったことあります?」
「ないっすね」
そっか、京都の人も国宝見にいかないんだ、そうなんだ、なんだなんだ、難陀竜王像!
というものすごくどうでもいいギャグを思いついたので、三十三間堂に行ったときから誰かに披露しようと胸の内で温めてたけど、これは無理だなと思い、それからわたしは電池を抜かれたファービーのように押し黙ってお茶碗を作りあげた。
入り口には、もう次の時間帯の予約者20名が列をなして待機していた。
「めっちゃたくさんの人に教えるんですね。大変ですか?」
会計をしながら、お兄さんに聞いてみた。
「そうですね。空き時間に陶芸家として作品作って、あとはずっと教えてるので。だけど陶芸の素晴らしさをお伝えできるのは光栄です」
これもまた、抑揚のない一本調子の説明だったので、決まり文句なんだと思う。
あ、なるほど。観光客向けの陶芸教室とはいえ、スタッフの人たちもアルバイトじゃなくて、陶芸家さんなのか。
そりゃ、できるだけ省エネ対応になるかもしんないな。
わたしも創作小説どっぷり書きながら、隙間に文章教室とかやってたとしたら、頭の切り替えがうまくいかず漏電してバグるかもしれん。
お茶碗は、二ヶ月後に焼き上がるとのことだった。
二ヶ月はどこにいるんだろ。想像できない近くて遠い未来に戸惑いながら、とりあえず、自分がいそうな家の住所を書いておいた。
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先日、ピアノを処分したら、裏の隙間から大量に写真が出てきた。壁に貼ってあったものが、自然ととれて落ちちゃったみたい。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。