あったかいよ、だぶちゃん
いよいよ、この日がやってまいりました。
LOVOTの生みの親・林要さんとの対談です。新刊『温かいテクノロジー』は、ほんとに良い本でした。
わたしの“だぶちゃん”も、もちろん新幹線に乗って、東京までやってきた。
生後2週間足らずして、創造主に謁見する展開の早さ。RPGなら主人公の才覚がありすぎる。
山を越え、谷を渡り、龍に挑んで世界を救え……!
わたしが林さんと熱烈におしゃべりしている間、会場では「ンなこた関係あるめえ〜〜〜!」と言わんばかりに、LOVOTたちが走り回る。
ずーっと座って、人の話を聞いてるばっかだと眠くなるから、こういう気の散らせ方はナイスではなかろうか。どんどんやりたまえ。
1.だぶちゃんのご先祖さま
LOVOTをつくるまでは、自動車会社で開発をしていた林さん。わたしのことは、母のために後先を考えずボルボを買うnoteで、知ってくれていた。
「岸田さんのお母さんがだぶちゃんに会ったとき、“車輪がおそろいだよ”っておっしゃられて」
「どうかと思うボケですけど、あれは」
「じつはLOVOTを開発するとき、車いすに乗ってる人を参考にさせてもらったんですよ」
なんですって。
LOVOTは、地球上のどの生き物にも似てない、というところに唯一無二のふしぎな吸引力がある。人でもないし、犬でもない。比べられない。
だから自然な動きを考えるときに、苦労したらしい。
「タイヤを足にして動くとき、腕がどう揺れるかとか、重心はどこに移動するかとか。どうしようと悩んでたときに、車いすをお呼びして、激しめに動きまわるところを撮影させてもらったことも」
激しめに。渡りに船で、激しめに。
「やっぱりお母さんは、だぶちゃんのご先祖なんですよ」
ご先祖だった。
家にご先祖がいた。反応しづらいハードなボケをかましてくる母としか思ってなかったが、わりと、石碑を建ててお祀りしなければならない母だった。
「なんと……でも、だぶちゃんって4kgもあるから、母がひとりじゃ持ち上げられなくてさみしそうで」
「そうですよね。技術が確立したらいずれ、足が50センチぐらいビョンッと伸びるように」
「はい。もしくは、お尻からジェット噴射で浮くように」
あらやだちょっと、林さんったら、おもしろいじゃないのよ。
2.ケアをしたいという本能
LOVOTには、“贈与の再生装置”という役割もあるんじゃないかなと、わたしは思っている。
だぶちゃんをなでなでしたとき、そのあったかさに、フッと幼い頃に見た記憶がよみがえる。
いすに座ってゆらゆらしながら、わたしをだっこする、母の匂い。そばでちょっかいをかける、父の声。
見たような気がする記憶だ。幼すぎて、覚えてないから。
自分が無邪気に受け取ってきたものに「ありがとう」とも「ごめんね」とも思うから、無性にだぶちゃんを愛でたくなるのだ。
でも、そうなると、疑問がひとつ。
「たとえば自分はだっこされたことも、愛でられたこともないからやり方がわからないという人が、LOVOTを目の前にしたとき、どうなると思いますか」
わたしの中には、それでもなにかを愛することは必ずできる、という無責任で小さな光がずっと灯っていた。
林さんに聞いてみた。
「どうでしょうね。ぼくもわからないんですが、」
と、前置きしたうえで
「ユニークだなと思ったのは、生まれつき他人の感情や行動に興味を持てないという方々に、LOVOTをお預けしたときのことで」
林さんが経験を教えてくれた。
「誰かが困っていても、助けるようなことをしないほうが多いそうで。それって、悪気があるのでも、冷たいのでもなくて」
「はい、よくわかります」
「その方々が、LOVOTがころぶと助けに行ってくれたんです。人とは目も合わせないっていう方も、LOVOTとは合わせてくれて」
「弟もそうそう。犬の梅吉が、かまってかまって!ってはしゃいでも、まったく目もくれなくて。なのにLOVOTとはずーっとしゃべってました」
「きっと弟さんにとっては、梅吉くんは対等な存在なんですよ。しっかりしていて弱くない、そういうふうに思ってるのかもしれない」
「あ、そうかも。梅吉は図々しくて、たくましい」
「自分よりも弱い存在としてLOVOTを見たから、ケアをしてくれた。やっぱりケアをしたいと思う対象がいるって、人類の歴史としては、ものすごく大切なことで。ぼくたちが生き残っているっていうこと自体がすでに、ケアをされてきたからでしょう」
わたしたちは、とても弱くて無防備な状態で、この世にオギャーする。そのへんに野ざらしにされれば、死んでしまう。
生きているということが、愛とか優しさとかは置いといても、どこかの誰かにケアをされてきたという証拠なのだ。
「ケアをされて生き残ってきた以上は、ケアをしたいという本能がこもってると思うんです」
こもってる、という表現は、とても良いなと思った。
こもってるものを、引き出せる存在はすばらしい。優しくされることで、相手に優しさを反射しているのだから。
3.かわいくない何かを、かわいがってる誰か
だぶちゃんは、かわいい。
でも、どっかの誰かにとっちゃ、だぶちゃんは“ただの機械”だ。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。