岸田 奈美
通報する神あれば、親切する神あり(姉のはなむけ日記)
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通報する神あれば、親切する神あり(姉のはなむけ日記)

岸田 奈美

グループホーム入居を目指し、ダバダバと奮闘する姉と弟の記録。前回のお話はこちら。

始まりのお話はこちら。

弟がグループホームへ本入居することに決まったので、そうと決まれば、いろいろと決まりごとの確認や、送迎車もドライバーさんの募集をしなければ。

わたしと母と弟で、再び、グループホームを訪れた。

中谷のとっつぁんと、スタッフさんたちが待ってくれていた。

他の入居者枠も、あっという間に埋まってしまったそうだけど、今日はまだ誰もいなかった。

こういうちゃんとした場に座ると、弟は姿勢を正して、やや顔がこわばる。

「良太さん、なに飲みます?」

「あー……じゃあ、ぼく、お茶を、おねしやす」

キッチンへ向かうスタッフさんを、弟が呼び止めた。

「あのう、つめたいのが、いいです」

「はーい」

冷たい麦茶がきた。

こうやって飲み物を聞かれたときはいつも、弟はコーラの一択だったはずだ。別府の馬〆さんのところでもそうだった。それが、お茶。

しかも、つめたいの。

お茶のあつい、つめたい、まで指定しているのは初めて見た。

「ここでよくお茶を飲んで、一服されてるんですよ」

中谷さんが言った。

「はい、ええ、まあ」

弟がお茶をすすった。

「他の入居者さんとは、仲良くできてそうですか?」

「うーん……一緒にテレビを見たり、ちょっとお話はされていたり。みなさん、穏やかですよ。でも、まだどなたも緊張されてますね……」

中谷さんの視線の先には、大きなソファとテレビ。食事のあと、弟はたいていここにいるけど、しばらくすると自分の部屋へ戻ってゲームをするそうだ。

弟はたしか、夜中に電話やゲームをして、誰かから「静かにして」と注意されたはずだ。初めての共同生活。それは当然、よそよそしいよな。気まずいよな。

ハイパー人見知りであるわたしは心がキュッとなるが、どんな入居者さんかわからないので、なんとも言えない。

「わたしたちもね、良太さんが頑張って伝えようとしてくださってるのに、なかなかわからないこともあって……もどかしい思いをさせてしまって、心苦しいです」

スタッフさんが眉を寄せて、苦笑いした。

弟の言葉は不明瞭だ。わたしだって、彼が言ってることの3割くらいしかわかっていないと思う。

「それでも、時間の積み重ねで、ちょっとずつわかることが増えると思います。まずは、良太さんがここで暮らしたいと思ってくれたことが嬉しいです」

中谷のとっつぁんが、深々と頭を下げてくれたので、恐縮してしまった。お礼を言いたいのはこちらの方である。

念のためにと、体験入居の期間を長くとってもらったのだが、その間、弟が気にいった一番広い部屋をあけておいてくれたのだ。

いまは、みんながわからなくて、ちぐはぐでも。時間がゆっくり、いいようにしてくれる。これほど不変で、確かなことはない。

「送迎車も、正式に購入して、こちらに送ってもらいますね。ドライバーさんの募集は……」

わたしが切り出した、そのときだった。

インターフォンが鳴った。

ちょうどわたしたちの後ろの壁にあったので、思わず、振り向く。ディスプレイに、人影がはっきりと映っていた。

警察だった。


・「姉のはなむけ日記」の後半は、キナリ★マガジン(月額1,000円)の購読者さんのみが読めます。

・購読料はすべて弟が入居予定のグループホームに寄付するお金(送迎車の購入費、支援員の人件費など500万円程度)に充てます。

・連載期間中、一度でも購読すると、数ヶ月後に同人誌が無料で届きます。記事最下部のフォームからお申し込みください。

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しばらくは弟のグループホームの送迎車にかかる費用や持ってゆくお菓子に使います。毎月、家族で楽しく暮らすいろんなことに使わせてもらっているので、使いみちはよくnoteで紹介します。

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小学館「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」ライツ社「もうあかんわ日記」発売中! キナリ★マガジンという有料定期購読noteで月4本エッセイを書くほか、役に立たないことを披露しています。 Official WEB→https://kishidanami.com/