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最低限!刺激的ビフォーアフター(姉のはなむけ日記/第12話)

弟の体験入居の日が、目前まで迫っていた。

一ヶ月間、グループホームでためしに暮らしてみて、やっていけそうなら本入居になる。まずは週に二泊三日から、少しずつ増やして、慣れるのだ。


別府でみつくろってもらった送迎車(セレナ)は、馬〆社長の

「本入居が決まってからの契約でいいですよ!それまで大切に預かっておきます」

というお言葉に、ベロンベロンに甘えた。


体験入居に持っていくものをたずねると、最低限の家具や布団はレンタルしてあるから、着替えや小物だけでいいよとのことだった。

一応、気になったので、聞いてみた。

「お部屋っていま、どんな感じですか?」

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This is the 最低限。


月刊 ていねいな暮らし 7月号 〜布団とカーテンだけで生きていく〜

贅沢は言ってられんし、わたしは置かれた場所で咲くどころか羽根つき扇子を振り乱して踊れるタイプの人間なので、余裕で生活できてしまうが。

問題は、弟だ。

これでは実家の弟の部屋の方が、居心地がよすぎてしまう。圧倒的に。

弟はわたしと違って、無類のきれい好きで、こだわりが強い。これが実家の彼の部屋だ。

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雑多なように見えるが、よく見ると、いろんなものがピシッとそろってる。弟にしかわからない特別なアルゴリズムにより、すべての置き場所が決まっているのだ。

ところでこれは実家の玄関。

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どちらが姉の靴で、弟の靴か、だいたいお察しの通りである。

そんな弟が、グループホームのあの部屋を見たら。

「あっ、僕、帰りますんで」


片手をジャッとあげて、言い放つ未来が8K画質で浮かんだ。

東京パラリンピック聖火ランナーに選ばれたときも、テレビカメラとスタッフに囲まれるなか「僕、お腹が減りましたので、走りませんので」と言った男だ。素直さが忖度を音速でブッちぎっている。

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わたしが……わたしが、最高の体験入居ライフを……演出しなければならない……!


鼻の下を伸ばすのは許容したとて、出鼻をくじくのだけはいけない。なぜならこれは、姉のはなむけ日記なのだから!はなむけとは、馬の鼻からきてるのだから!花じゃないのだから!いま調べて、はじめて知った!

体験入居の一週間前の深夜。

俺たちのニトリで、家具を注文した。ギリギリ間に合わないかと思ったが、配送がものすごく早く、さすが俺たちのニトリであった。

家具を一式そろえると、なんやかんやで7万円近くかかった。

わたしがベンチャー企業社員時代、東京で一人暮らしするためにそろえた家具代より高い。なぜだ。

弟が選んだ部屋が、広すぎるのだ。


十畳だぞ。東京で一人暮らししていた、わたしの部屋の二倍だぞ。わたしは竹馬しか入らんような収納しかなかったのに、弟にはウォークインクローゼットまでついている。

あんたいつも、ランニングと半パンで、裸の大将スタイルやん。裸の大将にウォークインクローゼットはいらんやろ。ウォークイン食料庫ならまだしも。

7万円の決済ボタンを、なかなか押せなかった。

なにせ、体験してみて入居を取りやめたら、この家具代は一ヶ月でパアになるのだ。実家に余分な家具を置く場所はない。

ふと気になって、グループホームの責任者、中谷のとっつぁんにLINEを送った。

「そういえば、弟の部屋の入り口の横幅ってどれくらいですか」

夜が明けて、返事があった。

結論、入り口が狭かった。


60cmもない。これだと、組み立てがいらない家具は入らない。お手軽だと思っていたのに、泣く泣くキャンセルした。

全部、組み立てるしかない。

ベッド、デスク、ソファ、テーブル、本棚を。

組み立てるしかない!

姉が!

半日で!

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(ギャンッ)

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。