岸田 奈美
250万円握りしめたとて新車がない(姉のはなむけ日記)
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250万円握りしめたとて新車がない(姉のはなむけ日記)

岸田 奈美

グループホーム入居を目指し、ダバダバと奮闘する姉と弟の記録。前回のお話はこちら。

新しいグループホームに弟を送り込む不安は消えねど、中谷のとっつぁんの思いに心を打たれ、注意深く様子を伺いながらも、勇気を持って前進するぞ!メタルギアソリッドを思い出せ!岸田!

そうと決まれば、早速。

最大の課題である、送迎車の確保である。

「わたしが車を用意します」

伝えたら、中谷のとっつぁんは困惑していた。銀行強盗が逃走者を用意するくだりにしか聞こえないよな。もしくはメタルギアソリッド。

グループホームは、立ち上げだけでもずいぶんお金がかかる。

車は、ポンッと買ってプレゼントしてしまったら、それで済むわけではない。

自動車税。車検代。保険代。ガソリン代。運転する人をあらたに雇う場合は、その人件費。

っていうか、車ってめちゃくちゃお金かかるんよな……。小さい頃から、実家に車があるのは当たり前だったけど、急にオトンとオカンがセレブに思えてきた。マッチのマーチがあなたの街にマッチしても懐にマッチしない。つらい。

「安心してください!維持にかかるお金もぜんぶ払います」

マッチのマーチがあなたの懐にマッチしないのであれば、力ずくでマッチさせるまでである。

わたしは昨年10月に「傘のさし方がわからない」という本を出し、「奇跡体験!アンビリバボー」で再現VTRを放送してもらったことで、増刷が決まったところだった。

うちはnoteのキナリ★マガジンの月額購読料で家族4人と1匹が生計を立てている。

本の印税は、全国をまわって無料のサイン会を開くお金に使い、残りは手をつけていなかった。

とはいえ税金がドカンと引かれるので、貯金とあわせて、初期費用にブチ込めそうなのは250万円……!

250万円あれば、車一台なら、なんとかいけるやろ。


維持費は毎月、積み立てるとして。無理なお話ではない。たぶん。

「傘のさし方がわからない」という本のなかで、メインになっているエッセイは、わたしがデビュー作の本の印税で手に入れた財産を使ってボルボを買ったときの話である。

本を出して手に入れたお金で車を買い、そのことを書いた本を出して手に入れたお金でまた車を買うのだ。車界のマッチポンプ王。

運転免許すらないのに。

当然、娘のどんぶり勘定と唐突なマッチのマーチ話を聞いた母は、大心配した。岸田家の家計には、認知症のはじまったばあちゃんの介護費用 月15万円というバケモンみたいなサブスクが強烈な打撃を与え始めたばかりなので。

「あんた、ボルボはうちの車やから、最悪生活に困ったときは売ったらなんとかなるけど……グループホームにあげる車は、そうはいかんのやで」

めずらしく弟も心配した。

「なみちゃん、だいじょうぶ?」

「わからん」

わからんのだ。本当に。

ただ、こう、わたしがいつもぼんや〜り思っていることを、正直に話すと。

わたしが受け取るお金のほとんどは、どこかの会社や組織がくれるお金ではなく、“ひとりの人”が、がんばれ岸田という“意志”を込めて、投げてくれるお金なのだ。がんばれ岸田、もろたで工藤!

noteの有料購読も、サポート(投げ銭)も、払う人はかならず名前を登録する。

「○○さんが購読をはじめました」「○○さんが○○円をサポートしてくれました」

毎日のように届くその通知を、わたしは全部読んでいる。知らない名前だとしても、そこには、人がいる。

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生きているわたしを励ますために届いたお金は、生きているお金だと思う。生きているお金が、たまたまわたしのところに流れてきたのだから、わたしはその先へ、流さねばならない。

ずっと銀行の金庫の底でただの数字になってるのを見るのが、マジで気持ち悪い。この感覚を、あまりわかってもらえないのだけども。

その理論でいくと桃太郎は桃を割られることなく下流までドンブラコッコしてしまうのだが、ここでは日本昔ばなしのスキームは適用されないものとする!

まあ、ややこしい話を、いったん全部取り去らうと。

250万円あれば、とりあえずなんとかなりそうなので、送迎車を買います。


どんな車を買おうか。わたしは調べはじめた。

グループホームでは最大4人の障害のある人が暮らす。それに運転手を入れれば、5人乗りでいいのかな。SUVとか、大きめの車もあるし。

いや、日々の福祉作業所との往復だけじゃなくて、週末はグループホームから家に帰りたいという人もいるだろう。

そうなると、4人分の数泊分の荷物も積まなければならない。

パソコンから目を離して、当該弟を見る。

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肥えてきたんよな……。


愛する家族が、地球上で占めている体積が増えたと考えたら、喜ばしくはあるが。それより健康が心配である。

もちろん他の入居者が太っているとは限らないが、最悪の場合を想定しよう。この弟が4人、泊まりの荷物持って、車に乗るとして。

ぎゅう詰めでは……?


弟の寝床の本棚に飾ってあるトミカのパンダでも、もうちょい快適にのびのび乗車している。夏場なんて地獄じゃなかろうか。

神戸市北区は、山に囲まれていて、悪路や急な坂道も多い。

定員パンパンまで積載した車だと、心もとないかもしれん。

5人乗りじゃなくて、7人乗りにしよう。

有名どころで言うと、ヴォクシー、ノア、アルファード、セレナ……えっ、ステップワゴンってもう生産されてないのか。へーえ。

どれにしようかな。

検索してすぐ、ニュース記事が目に入った。

『買ったのに乗れない!ミニバンの納期が大幅納期遅れ!』


なんて?


わたしにとっては寝耳に水だったのだが、車業界、いまえらいことになっていた。世界的な半導体不足、感染症による工場の操業停止で、そもそも車が作れない。

そして、最悪のタイミングで、ロシアのウクライナ侵攻である。原材料が高騰し、物流が乱れた。

メーカーに車がないというのだ。

「そんなわけないやろ」と、地元のカーディーラーに電話したら、わたしがほしがってるミニバンは一年待ちがザラとのこと。

「トヨタのランドクルーザーなんて四年待ちですよ……」

四年待ち。30年待ちのコロッケを笑えなくなってきた。わたしはコロ助ではないのでコロッケの納品(納コロッケ)待ちは我慢できるが、今回の車は我慢できない。

グループホームで暮らすには、送迎が必要なのだ。

「いいや、この際、中古でも……国産車で3年落ちくらいなら、ほぼ新車と同じっていうし。知らんけど」

むしろ、中古の方が安いし。余ったお金は、維持費に回せば。

気を取り直して、中古車サイトを見た。

3年落ち、5万km走行で、すべて250万円を越えていた。いや新車買えるやん。


ビビり倒した。中古とは一体。血迷ってメルカリで検索した。売ってなかった。

どうやら、あまりにも新車の納期遅れが続いているので、中古車市場も高騰しているらしかった。

呆然としていると、中谷のとっつぁんから電話がかかってきた。

「お姉さん、すみません。送迎車の件なんですが」

「は、はい。大丈夫です、なんとしてでも買います」

「いえ、そうじゃなくて……あの……」

不穏な空気。

「役所から、送迎車はダメとストップが入りました」


なんて?


・「姉のはなむけ日記」の後半は、キナリ★マガジン(月額1,000円)の購読者さんのみが読めます。詳しくはこちらを。
・購読料はすべて弟が入居予定のグループホームに寄付するお金(送迎車の購入費、支援員の人件費など400万円程度)に充てます。
・連載期間中、一度でも購読すると、数ヶ月後に同人誌が無料で届きます。記事最下部のフォームからお申し込みください。

おどろくべきスキーム

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岸田奈美の人生を応援してくれる親戚のような人たちが、読むことのできるマガジンです。わたしはnoteが収入源なので、このお金でゴリゴリに生き…

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しばらくは弟のグループホームの送迎車にかかる費用や持ってゆくお菓子に使います。毎月、家族で楽しく暮らすいろんなことに使わせてもらっているので、使いみちはよくnoteで紹介します。

岸田 奈美
小学館「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」ライツ社「もうあかんわ日記」発売中! キナリ★マガジンという有料定期購読noteで月4本エッセイを書くほか、役に立たないことを披露しています。 Official WEB→https://kishidanami.com/