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比較的多くの方の目に触れてしまったnoteを集めました。
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#岸田奈美

魂をこめた料理と、命をけずる料理はちがう

魂をこめた料理と、命をけずる料理はちがう

ラーメン屋の行列に並んでいた。

京都の自宅へ遊びにきた母が
「ラーメン食べとうて、しゃあない」
と、眼をかっ広げて言うのである。

母はたまに、そういう猛烈な天啓が下る。

車いすなので、こぢんまりした店にはひとりでフラッと入れないからだ。

ならば、どうしても食べさせたいラーメンがある!京都の名店!

麺屋猪一!

いつ来ても行列で、ミシュランにも載り、外国のお客でごった返してる。

おっ。

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24歳の弟は、字が書けない(はずだった、怪文書を読むまでは)

24歳の弟は、字が書けない(はずだった、怪文書を読むまでは)

わたしの弟・岸田良太には、生まれつき知的障害がある。ダウン症だ。(詳しくは「弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった」に書いた)

言葉がうまく伝わらない、発音もわかりづらい、みんなと同じことができない、いつもぼーっとしている。

でも、だめなところばかりじゃない。

玄関に靴を脱ぎ散らかし、母からいつも「あんたはムカデか」とお叱りを受けるわたしに比べ、よっぽど弟の方がきれい好きで、しっかりし

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ワクチンを打ったわたし、心臓を止めない薬

ワクチンを打ったわたし、心臓を止めない薬

お下がりの洗濯機をいつ持っていけばいいかという連絡を母にしたら、いま病院のレントゲン検査にきているとのことだった。

心臓に人工弁を入れている母は、“念のため”の検査がやたらと多い。いつも飄々とした外科医の先生が「うん、今日も異常なっしーん」と壁に貼りつけた検査の書類を見ながら、もう当り前に決まってたことかのごとく言ってくれるのだが、超弩級な心配性の母は、いつもあれこれと質問をする。

その質問が

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パラリンピックのコメンテーターになったら、櫻井翔さんと再会した

パラリンピックのコメンテーターになったら、櫻井翔さんと再会した

9月2日から9月5日まで、NHKが中継するパラリンピックのコメンテーターをさせてもらうことになったら、初日から情緒がボルケーノした。

文章が混乱が伝わってくると思うけど、誰かに向けてこれを書くことによって、一旦わたしは落ち着きを取り戻しつつあるため、“読んで積めるタイプの徳”として我慢していただければと。

なによりもまず、選手のみなさん、サポーターのみなさん、本当におつかれさまでした。とんでも

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いなくなった、あの人のこと

いなくなった、あの人のこと

今年の3月ごろ、足を運ぶのにダントツで気が重い場所は、役所だった。

母が感染性心内膜炎というやばい病気で入院。

祖母の物忘れが急加速し、介護認定。

ダウン症の弟と祖母が一緒になるとトム&ジェリーからユーモアを抜いたような様相になることが増えたので、弟のグループホーム入居。

十年も精神病院で過ごしていた祖父が亡くなったので、相続。

わたしが東京から神戸へ出戻ることになったので、引っ越し。

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弟が大金を稼いだので、なにに使うかと思ったら

弟が大金を稼いだので、なにに使うかと思ったら

岸田家の歴史を揺るがす大事件が起きた。

わが弟が、莫大なお金を稼いだのである。
大金とは、彼が三十年働いて手にするはずの金額だ。

それを数時間で。

田舎の片隅にある剥がれたフローリングの我が家から、絶世の富豪が爆誕した。血統書のない梅吉(犬)も、高貴なチャウチャウに見えてくる。

弟は生まれつきダウン症なので、障害のある人が集まる福祉作業所で、平日の朝から夕方まで働いており、日給は500円だ

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「死ね」と言ったあなたへ

「死ね」と言ったあなたへ

※この記事は、後述の理由により、11月8日(月)23:59まで公開していました。しばらくマガジンのアーカイブとして読めます。
※死を煽る内容ではないですが、「死ね」という言葉が頻出します。

2021年11月8日(月)15:02追記:わたしが一番祈っていた形で、ここに登場する方々のもとに届きまして、もしかしたら先方の優しさかもしれないですし、そりゃそうだと思うんですが、ものすごく、ものすごく深い理

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家を出るダウン症の弟にはなむけをしたら、えらいことになった(総集編)

家を出るダウン症の弟にはなむけをしたら、えらいことになった(総集編)

ゾッとした。

この二年間で、ばあちゃんは認知症になって施設で暮らしはじめ、車いすに乗っている母は心内膜炎で死にかけ、わたしは会社をやめて作家業についた。

ダウン症で4歳下の弟だけは、実家で暮らし、福祉作業所へ通って手仕事をし、マイペースを貫いていた。

ふと立ち止まって、ゾッとしたのは。

この先、わたしや母の身になにかあれば、弟がひとりぼっちになるということ。
わたしですら、ばあちゃんの介護

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#ジブリパーク で失った言葉の置き場

#ジブリパーク で失った言葉の置き場

ジブリパークの凄みは、どこにあるのか?

2022年11月1日、愛・地球博記念公園のなかにオープンした「ジブリパーク」へ、弟と行ってきましたレポート。

オープン初日のチケットを、運良く買うことができまして。

入場できたのは「ジブリの大倉庫」エリアのみでしたが、とてつもなく大切で切ない何かを、ドドドと怒涛のように受け取り、たまらなくなってしまったので、言葉にしておきます。

「ジブリパーク」のち

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神様

神様

今日、たぶん、神様に会った。

よく澄んで晴れた、秋の午後だった。

総胆管結石で入院している母からLINEで連絡があった。

「退院、来週明けやって」

もともとは何週間か入院するかもと聞いてたので「あらま!」と弾んだ返信を打っていたら。

「肝臓が回復したらすぐに、また入院やって」

わたしは「あらま!」を「あらま…」にサッと打ち直した。

3日前に内視鏡での手術を終えたばかりの母だったが、結

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消えた1500万円

消えた1500万円

「ほんまにあかん話は、人に言えへんのや」

母の言葉である。

最近になってようやく母の腹の底から煮えくり返ってドボンヌと出てきた話があり、わたしが「なんで今まで言ってくれんかったん」とたずねたら、返ってきた言葉である。

以前、このnoteでわたしは大学の奨学金を返済したと書いた。

今までに背負ったことのない額の借金だったが、父を亡くし、アルバイトひとつで生計を立てる母子家庭であれば、そんなも

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