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駄菓子屋の購入品が人間を決める

ここんとこ、誰かと会うたび、聞くことがあって。

「子どもン時、駄菓子屋でなに買ってた?」


なにが好きだったかじゃなく、なにを買ってたか。誰にでもあるでしょうよ。200円という激烈に限られた軍資金で組む、最強デッキがよォ!

ただ、駄菓子界にはすでに、オイラーの等式に匹敵する美しさの“大正解”が存在している。提唱者は、さくらももこさん。

ちびまる子ちゃん 1巻(集英社・りぼんマスコットコミックス) p.28 より引用

さくらももこさんの軍資金200円の内訳は、

まず100円で大袋を買って(スナック等)、

50円で己だけが楽しめる趣味に走り(イカの酢漬け等)、

最後の50円で馴染みのこまかい菓子を買う。(アメやガム等)

この割り当て、遠足を最大限楽しむためのコツが、抜かりなく張り巡らされていて美しい。

大袋は友人との交換にまわせば、いろんな味を楽しめる。こまかい菓子はポッケに入っていると、歩いてる間に発見できてびっくり嬉しい。

わたしは小学生の時にちびまる子ちゃんで“大正解”を知り、天動説発見並みの衝撃を受けた。以来、33年間、覆されていない。

だが、大正解が存在したとて、業の深いエゴにまみれるのが、駄菓子選びである!


駄菓子選びの思い出をはじめたら最後、相手が初対面であっても、白熱した議論になってくる。

お互いの駄菓子を“刃”としてスッと抜き、大人としての体裁でジリジリ間合いを取ったまま、一歩も引かずに刃をギラつかせ続ける。

わたしは気づいた。たいがいの人は、駄菓子選びに独自の理論めいた何かを持っていることに。

たかだか200円ぽっちの買い物に、目を血走らせていたドラマが、幕を開ける!

まず、わたしの母のケースを紹介する。

このように、母はバブル期を大阪の陽キャとして生きてきたハイカラ女だが、駄菓子選びにはかなり保守的な一面が見えた。

「駄菓子選びって……そういえば、選んだことないかも」

「は?」

「物心ついた時から、これと決めたものしか買わへんかった!」

モロッコヨーグル、イカのスルメ(紋次郎イカ)、フルーツ糸引き飴、ベビースターラーメン(チキン味)、ココアシガレット。

母にとっては親の顔より親しみ深い、永久不滅のスタメン駄菓子たちである。読売巨人軍かよ。

これ以外は、間違っても手にも取らないらしい。たとえばベビースターラーメンに期間限定の(うましお味)が出たとて、脇目も振らなかったという。

もし予算が200円ではなく1000円だったらどうかを尋ねると、

「イカのスルメを箱買いする」

一切の曇りなき眼で、即答された。ずっと抱いてきた夢らしい。

懐かしげに話す一方で、時折、母は物憂げな表情が浮かべた。

「大人になってもそうやねん……これやと一度決めたものはそれしか買わへんから、約束された幸せはあるけど、新しい出会いはない……」

駄菓子保守勢力の筆頭である母は、未知への挑戦に恐れていた。思い返せば、仕事選びでも、旅行先でも、母にはその恐れが共通している。約束された幸せという穴から、引っ張り出すのがわたしの役目である。


また、別の知人にたずねると、

「あー……こまかいことは覚えてないけど、カメレオンキャンディだけは絶対に買ってました」

この話を無遠慮に掘っていくと、彼のお気に入りはカメレオンキャンディ、プチプチ占いチョコ、ミックス餅であることが判明した。

「たぶん、ひとつ買えば、いろんな味が楽しめるのがおトクでうれしかったんだと思います」

そんな彼の職業は仏教僧侶。金のかからない工作が好きで、古い家具をリメイクしたり、木の端材でがらくたを作る、ご機嫌な倹約家である。


このように駄菓子とは、切実な低資金力の中で、子どもが本気で考え抜いてデッキが構成されるため、“生きる姿勢”そのものが現れるのだ!ハイッ、偏見です!


そういうわたしはどうかというと、

駄菓子ギャンブル狂である。

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