
飽きっぽいから、愛っぽい|剥いてくれるんなら@福島産の桃
キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代10月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。
表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。
好きな果物はなにかと聞かれると、いつも答えに悩む。
答え方次第では「これはお裾分けをいただけるのかもしれない」と思うと、余計に悩む。わたしの好きな果物ランキングは「剝かれた状態」なのか、「剝かれる前の状態」なのかで、著しく様相が変わるのである。
剝かれた状態、つまりあとはもう口に運ぶだけというお膳立てをされているなら、ランキング一位は桃、二位はマンゴー、三位は梨だ。書いているだけでもよだれが垂れそうになる。
しかしこれらが、スーパーの袋の中にガサッと入れられて「これ、親戚んちから送られてきたから」と手渡された場合、途端によだれが引っ込んでいく。
身も蓋もないけど、果物を剝くのがとにかく面倒くさい。
最初からさじを投げたわけではない。一人暮らしをしたばかりでウキウキのボルテージが最高潮だったとき、わざわざおしゃれな八百屋まで足を運び、料理のハウツーサイトを見るなどして剝いてみた。
結果は惨敗であった。
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