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飽きっぽいから、愛っぽい|カニサボテンの家を売る@大阪市中央区谷町

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代8月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

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ついさきほどの家族会議で、祖母の家を売りに出すことが決まった。

祖母の家は、大阪の谷町にある。大阪駅や難波駅にほど近いが、そのわりに古い寺院が多く静かなところで、暮らすには人気の町だ。

わたしが物心ついたときから、祖母の口癖は「あんたが嫁に行くとき、この上等な土地は全部あんたのもんや。ばあちゃんが祝儀にあげたるさかい。ひゃっひゃっひゃっ」だった。

祖母は笑うときも、泣くときも、この小気味いい引き笑いをする。

子どもだったわたしは、土地の価値がよくわからなかったが「ばあちゃんは太っ腹だなあ」と、薄ぼんやり思っていた。祖母は太っ腹なわけではなく、見栄っ張りだったと気づいたのは、この二、三年のことである。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。