スッキリに出演させてもらい、優しさのパスを学んだ
2月16日の今朝、日本テレビ「スッキリ」にコメンテーターとして、出演させてもらいました。
母の入院や、祖母と弟の暮らしのことで、えらいことになっていたので、4日前くらいまで「これ、出演できるのか……?」と思ってました。
だけど、コロナ対策で一切、顔を見て話すことができない母(親の顔が見てみたいという言葉をマジの用法で使った)が、病室からテレビでわたしの顔を見ることを楽しみにしていました。地上波を使った面会て。
それに、いまこういう類まれなる経験をしてるからこそ、伝えられることがあるんじゃないかと考えなおしました。
起こってるペースこそめずらしいけど、こまかく見ていくと、みんながいつも苦しんでいることだから。
そんなわけで、元気に出演させてもらいました。
超絶に夜型のわたしが。
4時30分起きで。
「スッキリ」って8時から放送なんだけど、6時にはスタジオに入って、メイクやら打ち合わせやら、するのね。
早起きすると、頭もスッキリするわ、言うてやかましいわ。
わたしはここぞとばかりに前の晩はやく寝たけど、レギュラーで出演されてる加藤さん、近藤さん、水卜さん、森さんや、スタッフの人たちは毎日やってんのか……。
すんごい頭使って疲れてるだろうから6時間くらい寝るとして、22時半には床に入るわけでしょ。ってことは、21時半にはお風呂でしょ。ご飯は20時くらいにはすませないとでしょ。家族と同居されてる人もいれば、もっと早いでしょ。気が遠くなりそうだけど、慣れたら、平気なのかな。
じゃあみんな朝型になれば、緊急事態宣言で飲食店が閉まる前にご飯行けるし、なんか健康になりそうだし、いいことづくめでは?
世の真理に気づいてしまった。ああ、でも、深夜ラジオは好きだから捨てがたい。
お家までタクシーに迎えに来てもらったんですが、わたしが日本で一番信頼しているMKタクシーさんでした。
MKタクシーさんというだけでもすごいのに、なんか見たことないくらいでかくて、見たことないくらい席の少ない車両で、どう過ごしたらいいかわからず、とりあえず限界までリクライニングさせて、寝たまま運ばれました。もはや移動というより、輸送。
んで、これ出演者控室〜〜〜〜!ぜんぜん住める〜〜〜〜!
なんか、あの、控室っていうと中田カウス・ボタン師匠が団扇持って座って待ってる鏡だらけの和室のイメージ(そんな部屋はない)だったのに、違った。
おいしいお弁当も運んできてくれたり、ゴムまりくらいむくんでる顔やパサパサの髪をヘアメイクさんが岸田史上、七五三以来の美しさにしてくれたり。
わたしにしては待遇がよすぎるので、このあと帽子とコートを脱がされたり、壺に入ったクリームを塗られたり、酢の香水をふりかけられたりするんじゃないかと怯えた。高速で宮沢賢治が頭をよぎっていく。
テレビ局内で別室を用意してもらってのリモート出演だったので、ほかの出演者さんとは打ち合わせできなかったんだけど、おなじくリモート出演の高橋真麻さんとは先にお話できた。
母が入院してるんだけど、お見舞いに行けなくて、こういうつらい思いしてる人って世の中にいっぱいいると思うんですよねという話をしたとき。
「岸田さんはさ、本当にご家族のこともいろいろあって、自分が思うよりずっと傷ついて疲れていると思うよ。番組でもそういうお話をもっとしてもらえたらいいんだけどな」
えっ。
わたしの書いてるアレやコレやを、読んでくださっている……!?
わりと衝撃すぎて「いやあ、あはは」とデレデレしてただけなんですが、こういうのをさらっと言ってくださるのすごく嬉しいなと思った。
出演後に、森圭介さんとお話したけど、森さんはなんとずっとnoteを追っかけてくださっていたらしくて「やっと会えた!」と出演室に飛び込んできてくださったので、あったけえ愛のデカさに吹っ飛ばされそうになった。
嬉しいなあ。
noteとTwitterを、ワクワクする日も、ネチョネチョする日も、書き続けてたら、そうやって世にニュースを伝えている人たちにも届くんだなあ。よかったなあ。
さて、本番。
なのですが。
わたくし、地上波の生放送、しかも2時間の情報番組なんて初めてでございまして。
これはなにかを間違えると、いつも応援してくださってる人にも、呼んでくださったスタッフさんにも、事務所のみんなにも、迷惑をかけてしまうと。一族郎党にいたっては村を追われてしまうかもしれない。
今回、番組に呼んでくださったプロデューサーの藤森さんからも「岸田さんらしく、生き方や経験談を落ちついてお話してくだされば大丈夫です」と真綿で包み込むような優しいアドバイスをいただいていたのですが。
ふと思いついて、知り合いのプロデューサーに連絡をしました。
「プレバト!!」の総合演出を務める、水野雅之さんです。以前スマホが割れた女として特集を組んでもらいました。
MBSです。他局です。
しばかれるかと思いましたが、水野さんは「面白そうだから、手伝う、手伝う!」と喜んで手を貸してくれました。ありがてえ。
「岸田さん、あのね、みんなが納得する正しくてかしこそうなコメントはしなくていいですよ」
「じゃあどういうコメントを……?」
「バルセロナやバイエルンのサッカー選手になってください」
どういうこと?
ある?
コメンテーターのアドバイスがほしくて、サッカー選手になれって言われたこと、ある? 脳裏で川平慈英が微笑んでいる。
「つまりゴールを決めるようなコメントではなく、パスを出すようなコメントをするんです」
「ほう……」
「『スッキリ』の加藤さんは、もう日本一といっていいくらい、MCの達人です。場回しも、コメントも、なにもかもが上手い。だから、まず加藤さんにいいパスを戻せば、いいゴールを決めてくれる人を選んでまたパスを出してくれる。そうやって、スタジオにいい空気が生まれるんです」
「つまり?」
「一言。たった一言だけ、岸田さんの本音をコメントしてください」
「でも、一言で、ニュースにちゃんとしたコメントってできます?言葉足らずで、誤解を生んだりしません?」
「大丈夫です。岸田さんらしい言葉を、その一行だけでエッセイのタイトルになるようなコメントを出せば、加藤さんが『どういうこと?』って深く聞き返してくれたり、話題が膨らみそうな人にまわしてくれます」
「な、なるほど……」
「岸田さん、とにかくパスです!」
これは……これは、日本のあらゆる会議やイベントでも、徹底したほうがいい話ではないだろうか。いい番組は、いいチームが、いいパスが作るのだ。それは出演者だけではなく、スタッフさんも、視聴者さんも。
そして、あんな時間がガッチガチに詰められた番組を、おもしろいリアクションしつつ、難しい専門家の話も聞きつつ、コメントもしっかり捉えつつ、場回しもするって、加藤さんは化け物かと思った。
ほかにも、水野さんからは、「大きなニュースは大阪のおばちゃんくらい親しみやすい近い目線で、小さなニュースは逆に世界の真理くらいの遠い目線で話す」など、有意義すぎる話をいただいた。コメンテーターに抜擢されて慌てふためいてる人は、水野さんの門を叩くといいと思う。
そうは言いつつも、やっぱり緊張してしまったので、なにもかもがうまくいったわけじゃないけど。
ひとつだけ、たぶん、エッセイのタイトルになりそうな一言を口に出せて。それでそれは、わたしがずっと心の底で思ってたことで。
「コロナで夫婦の仲がよくなった」という特集で、夫が優しくなったってアンケート結果を見たとき。
「優しさを受け取ることも、優しさですからね」
これは、弟からわたしが受け取ったパスだった。実家に帰ったわたしを、弟はよく助けてくれる。料理も一緒にしてくれる。もちろん、慣れない彼が手伝うと時間はかかるし、台所はぐちゃぐちゃになる。
それでも、彼の「姉ちゃんを助けたい」という気持ちが嬉しかった。その気持ちを、まっすぐに受け取る、心の余裕を忘れてはいけないと思った。
人が人に優しくできるのは、その優しさを受け取ってくれる人がいるからだ。つまり、お互いの歩みよりがないと、この世界は優しくならない。
弟から受け取ったパスを、加藤さんが「ああーっ!それはいい言葉だ!」とぱあっと明るい顔で返してくださって、また返ってきたパスで、わたしは弟のことも話すことができた。
春菜さんから「岸田さん、優しさ受け取らせていただきます!」と、ユーモアあふれる感想をもらえた。わたしのあとに、真麻さんがご家族の話もされた。ロバートさんも、終わってから「すごく楽しそうで、お母さんに伝えてるんだなあ」ってわざわざ優しく伝えにきてくれた。
これはすんごく、すんごくわたしの身勝手な妄想かもしんないけど、でも、出演者のみなさんが、パスを受け取って、その優しさを増幅させて返してくれたという温かさを経験できただけで、ここに来てよかったと思えた。
このあと、番組が終わってから、櫻井翔さんのアレでお世話になったディレクターさんや、先日テレビ朝日でボルボの取材をしてくれたディレクターさんも連絡をくれて。
他番組や、他局のことなのに、こうやって気にかけてくれるのも優しさでしかない。
番組の最後で見た、誕生日月占い「スッキりす」では、わたしの7月の結果「周りの人たちの助けでうまくいく予感」だった。
現在進行系で当たりすぎているから、スッキりすの占いはみんな信じた方がいい。
病室の母からも「ひさしぶりに笑ってる奈美ちゃん見て、元気出てきた」とLINEが入っていた。嬉しかった。
ただ、ひとつ、めちゃくちゃ後悔してることがあって。この場を借りてお詫びしたいんだけど。
わたし、最後のコメントのとき、腕組んじゃってたの。
ぜんぜん気づかなくて。あとから知人に教えてもらって、録画を見返したら、ガッツリ組んでた。ラーメン屋の大将のごとく。
なんでや。
わたし、緊張してるときにしゃべると、手が動く。せわしなく動く。指さすし、ろくろ回すし、腕も組む。それに気づいた。
これはほんとにダメ。
腕を組むのって、自己防衛の潜在意識があるんだって。守ろうとしちゃってるんだな。ああ、パス回すことだけに必死になってた。
自分じゃぜんぜん気づかなかったけど、わたしの仕草で、「なんかこわそう」って変な緊張を相手に与えてたらそれはものすごくもったいないことなので、気をつけていく。
「作家だから、ペンとか持てばいいんじゃない?」
って言われて、なるほどと思ったから、こういうペンを持てばいいというアイデアをお待ちしています。
観てくださったみなさん、呼んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。あと水野さんのことも、藤森さんのことも、紹介してくれたのはGOの三浦さんなので、稀有すぎる縁を繋いでくださって嬉しい。
イラスト……近藤茜さん