バグ桃
床に入ったら足先が冷たかった。うおっ、冬だ。冬がきた。
ふるさと納税をしなければ。
暗闇の中で、スマホを手に取った。
ふるさと納税とは、住んでいる自治体に納めるはずの税金の一部を、好きな自治体を選んで、寄付できるという仕組み。
たぶん、もともとは「おら東京さ出てきて働いてっけども、おらを育ててくれた小さな村やウサギ美味しいかの山にも、感謝のお金をわけたいべな」って人が活用してたんだと思う。知らんけど。
自治体へ寄付をすると「俺たちを選んでくれてありがとうな」と、寄付した金額の何割分かのお礼の品が送られてくる。
地域の特産品が多いけど
大漁旗という、ナイスなブツもある!
夢のマイホーム暮らしを彩りたい。そんなあなたに必要なのは、ベランダに掲げる大漁旗ではないでしょうか。手軽に一家の多幸感を演出できます。防炎加工なので、家が全焼したとて大漁旗だけは手元に残りますよ。
こちとら納めなければならない税金を泣く泣く納めてるだけなのに、豪華なブツをもらった上に“寄付”という大義で感謝までされるなんて。
ふるさと納税、いったい誰が考えたんだ。
ブツは何が良いかを、退院したばかりで病床にふせって布施明している母にたずねたところ
「桃!」
と即答された。
桃、ねえ。
ここ数年で、ふるさと納税のWEBサイトは群雄割拠。むちゃくちゃある。大抵「ふる」か「さと」がついてる名前なので混乱する。陣内孝則と陣内智則ぐらいの差しかない。
わたしは愚かなので、その中から、一番お得そうなキャンペーンをしているWEBサイトを迷わずに選んだ。
結局ひと晩では決められず、11月28日から30日まで悩み、3万円の桃5kgと、3万円の苺4パックに決めた。
スーパーで買うより割高なのは、購入額の約7割が自治体への寄付になるから。
同じWEBサイトからでも、自治体が違えば、別々に手続きしなければならなかったので、桃を購入したあとに、苺を購入した。
「あれ?」
購入履歴のページを見ると、未決済、という表示がある。
さっき確かに購入したはずなのに、決済できていなかったんだろうか。お買い物カートの中身を見ると、桃と苺がまだ残っていた。買えてない。
買えないのかなあ、これ。
「……桃以外やったら、なにがほしい?」
「ぶどう」
病床の布施明から、即答された。ぶどうね。
2万円のぶどう2房を購入した。
「ぶどうは、あればあるほど良い」
もう2万円でシャインマスカット2房を購入した。あとは面倒な確定申告を逃げずにやれば、ぶどうの到着を待ちわびる一年の幕開けである。
そして、夜が明けた!
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