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桜島で秘湯を掘りつづける

ごきげんよう、岸田奈美です。

わたくし、鹿児島にいます。

行ったことのない街で、ひとりこもって、
文章を書くことになりました。

まあそのへんの経緯は、別にて追々。

5日目の今日はですね、
やっと、桜島に向かってます。

知り合いの信頼できる温泉マニアが

「桜島にはすごい温泉がある」

と言ってたのを、思い出したので。

そりゃ行っときましょうともさ。

鹿児島港から、桜島めざしてフェリーに乗ります。

20分から30分ぐらいの間隔で、
なんと24時間も航行しているらしく、びっくり。

丑三つ時に桜島へ向かう人の想像が……つかない……。

わたしが港についた時は、出港1分前だったので、

「あー、次の便に乗るか」

と思ってたら、係員のおっちゃんが

「あと40秒で出るよ!急いで!運賃後払いでいいから!」

つって、まあまあ長いタラップを二人で爆走した。

「これいけます!?ほんまにいけます!?」

「いけるいけるいける!!!!!!」

汽笛の音とともに、飛び乗った。

パイレーツ・オブ・カリビアンみてえな乗り方!
完全に船長の首を取りにくるやつのスピード感!

エレベーターありました。
ひろみも来れるね。

座るところを探して、船内をうろうろ。

ここ空いてるやんと近づいたら、

先客がいました。

20分ほど海の上なので、お弁当食べました。
港へ帰る船が、すれちがっていく。

桜島、到着。

見上げてみたら、

おもてたんと景色が違う。

上陸したらふもとの一合目にドーン!って来るんかと思ってたけど、まだ、ぜんぜん遠い。

レンタカーとレンタサイクルで迷ったけど、まだ島でブイブイいわせるほどのドライビング勇気が出ないので、ここはレンタサイクルで。

「あんたどこまで行くの」

「なんか、有村海岸ってとこの温泉まで」

「あれは坂道きついよ!普通の自転車じゃない方がいいよ!」

「えっ、そんなに?」

「あっちのレインボーってホテルで、電気のやつ貸してもらえるから、そっちにしなよ」

クエスト感、出てきた。

「有村海岸って有名な温泉ですか?」

「なんかあるらしいけど、行ったことないね」

お礼を言って、ホテルまでとことこ歩く。

そういえば桜島のローソンとファミマ、看板が茶色かったんだけど、こういう景観を守るタイプの彩度って京都以外で初めて見たな。

デデーン。

われ、電動自転車、得たり。

「3時間で有村海岸まで行って帰ってこれますか?」

「大丈夫だと思いますけど……えっと、何しに?」

「温泉に入れるって聞いて」

しばし、フロントの人が沈黙して、思い出したように

「ああ、はい、はい」

「今日って温泉入れますかね」

「ちょっとわかんないですねえ。ここからちょっと行ったところに、ビジターセンターってのがあるんで、そこに寄ってください」

クエスト感が強まってきた。

「ところで、行かれたことありますか?」

「……ない……ですね……」

地元の人は、なかなか入らないのだろうか。
不安になってきた。落ち着け。
神戸の民にとっての異人館みたいなものかもしれない。

教わったとおりに、ビジターセンターに寄った。
外国人の団体客でいっぱいだった。

窓口でひとりさばいてるお兄さんに、

「有村海岸の温泉に行きたいんですけど」

「ええ、はい」

放心状態のお兄さんと、しばし見つめあう。

「ここに寄れって言われて」

「ああ、なるほど、ちょっとお待ちください」

お兄さんがどこかへ引っ込んでいき、
テープで口が閉じられた白いビニール袋を持ってきた。

「1000円です」

な、なにが……?

「中に温泉セットと、指南書が入ってますんで」

閉じられた隙間からのぞくと、なるほど、タオルが入ってる。桜島のイラストで、お土産になるから地味にうれしい。

「えっと、今日は11時半から14時半ぐらいまでは、たぶんお湯が出ます」

なにやら貼り紙を見ながら、お兄さんが教えてくれた。

不穏な感じにドキドキしてきたが、わたしはこの旅では、やたらめったら調べないことを決めたのである。

さあ、行くぞ、温泉!

気温26度の中を、50分はこぐことになるので、飲み物を買って行く。

この、次はいつ水分を手に入れられるかわからない緊張感、嫌いじゃないぜ。

おつりをとったら、ジャリって鳴った。

こんなところまで火山灰が入ってる。

ひたすら、桜島を東に回り込むように、走る。

坂道のアップダウンが激しいので、
普通にハアハアした。しんどい。尻が割れる。

だましだまし、休み休み、止まりながらこぐ。

ふと桜島を見ると、噴火していた。

「ギャーッッッ!」

身構えたけど、別に、音も石も降ってこない。
噴火に馴染みがなさすぎて、どう受け止めればいいのか戸惑う。

ハア、ハア。

足も腰もミシミシ言いはじめたころに、

桜島の中学校の看板がちょうど刺さる。
やればできる。それはそう。

そんなこんなで、

「ここ!?ここ曲がるの!?」

を何度か繰り返したのち、着きました。

有村海岸。

……滅びた……地球……?

こんなこと言っちゃナンだけども、最果ての海岸って感じがすごい。

明らかに誰かが並べであろう形跡のある岩も怖い。

砂浜なのに真っ黒。
生き物がまるでいない。

誰もいない。
観光地ではなかったのか。

「アーッ!アーッ!」

足場が崩れて、すべり落ちた。

身体が真っ黒になった。

温泉に入りたい欲がMAXまで急上昇する。

でも、どこに温泉が……。

白い袋を開けて、中身を取り出した。

掘れと。

薄々、そんな気はしてたけど。

掘るところからやと。


ってか、スコップ、ちっちゃ!
潮干狩るやつじゃん!

これ一本で……わたしったら……温泉を……?

自転車ですでに身体がガタピシ言うてる。

覚悟を決めかねている間に、
後ろから、だれか走ってくる足音。

「おーい!おーい!そこのお姉さん!」

砂浜と同じ色の作業服を着たおじさんだった。

「あの、国土交通省なんですけど」

逮捕!?
温泉密堀者!?

「ちょっとこのへんをドローンで定期調査してて、15分で終わるから待っててくれませんかね」

おじさんもびっくりしてた。
まさかこんな場所に人が来るとは、みたいな顔してた。

ドローンを操縦するおじさんの隣で、
体育座りして、静かに待ってた。

遠くから見たら、無人島で漂流した者たちって感じ。
助けの船が遠くに見える。

「ここ、温泉、出るんですかね」

「ああなんか、掘ったら出るらしいですね。見たことないけども」

国土交通省ですらウワサにしか聞かない国土の温泉。

沈黙。
響き渡るドローンの羽音と波音。

「……待っててもらって申し訳ないんで、穴掘るの手伝いましょうか?」

おじさん、いい人だった。

どこからどう見ても疲れているおじさんだったので、丁重に遠慮させてもらい、ひとり孤独に温泉掘りスタート。

指南書によれば、波打ち際から2〜1メートルの砂浜を掘るらしい。

このへんかしら。

ザクッ。

こんなん、温泉なんか出るわけ……

出た。

触ったら、あったかい。
ちゃんと硫黄のしょっぱい味。

温泉だわ。

ザクッ、ザクッ。
掘った。
べらぼうに掘った。

今までまともに掘らざる人生だったから、
この時、わたしは初めて知った。

掘るって、めっちゃ、しんどい。

自転車の比じゃない。

しゃがんで腰を入れないと、土にぶっ刺さらず、
掘った土を外に投げるのも絶妙なコントロールがいる。

そこそこ重い岩がゴロゴロ出てくるので、
砲丸投げみたいにして次々に放り投げる。

今すぐ都会に、穴掘りジムを作ったほうがいい。
ホットヨガより、暗闇ボクシングより、絶対に痩せる。

砂で部屋を埋めて、たまに遊び心で宝でも隠したら、
大人気のジムになる。絶対に痩せる。

ああ、痛い。全身が痛い。
悲鳴を上げている。

この痛みをいたわるために温泉を掘る。
マッチポンプ温泉である。

ザザーン、ザザーン!
やけに大きな波の音に、あわてて顔を上げると

「うわああああああああああ」

満潮!満潮!
波がもうすぐそこまで!

30分かけて掘った穴が、パアになってまう。
わたしは脂汗をかきながら、倍速で掘った。

この手が……どうなろうとも…!

そして。

秘湯・岸田温泉、誕生。


そこはかとなくハート型なので、縁結びの効能もあります。

ここに、こうして、

……ふう。

すっげえ。
活火山って、すっげえや。

足がほどけるような温かさに、太古の地球を思う。
人間なんて、お湯すらも手でわかせない。
しょせん地球に抱かれている。

良きかな、良きかな。

もうそこまで、波、押し寄せてきてるけどな。

岸田温泉、5分で海の藻屑となった。

帰ったら、1.5kgも痩せてました。
皆さんもいかがでしょうか。

健康におすすめ、温泉掘りダイエット。


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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。