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写真の持ち主を探しています

2024年9月。

フランス旅行中に、一枚の写真を買いました。

買いましたってーか、気づいたら買ってました。


あの有名な、クリニャンクールの蚤の市にて。

ズラーッと3,000店以上のアンティークショップが並ぶ市場をね、わたし、歩いてたんです。

蚤の市といえど、骨董品が多くて、かなり高い。

食器も雑貨も、日本ではなかなか売ってへんぐらい、状態がよくて、ごっついオシャレなんやけどね。

なんもかんも高くて、買われへんなあ。
円安やしなあ。

うおーっ、ヴィンテージのテレビめっちゃほしいけど、30万円かい。

言葉も通じへんし、スリも多くてビクビクするし、なんかさみしいなあ、などと思いながら。

スススーッと歩いてたところ、

「……えっ?」


目が合って、すぐさま戻った。

強烈な親近感。
実家のような安心感。

ジャパニーズ夫婦のめでてえ写真が、売られとる。


フランスの高級アンティークショップで。
しかも、超一等地の棚で。

この感じの写真が売りさばかれることって、ある?

瞬時にいろんな状況を想像したけど、ルートがわからなすぎる。まだスプラッシュマウンテンで撮られた、滝壺へお陀仏する写真の方が、売れるような気がする。

よく見たら、大阪 松坂屋写真館 って書いてる。中山正一さんというのが、カメラマンの名前っぽい。

「大阪に松坂屋なんてあったか……?」

調べたら、2004年に閉店してた。
81年間の歴史に幕。すげえ。

遠いフランスの地でまさか、古き良きなにわの夫婦(めおと)に巡り合うとは。健やかなんやろか。いまも健やかにしてはるんやろか。いや別に、健やかやなくとも、ええんやけど。

っていうか、めちゃくちゃお似合い。ええ顔。もしかして、ほんまの夫婦やなくて、写真館のモデルなんかな。

気になって、気になって、仕方ない。

おもむろに裏返してみると、さ……佐野……。

気づいたら、買おうとしてた。


フランス人の店主が話してくれた。

「この写真はねえ、フランスではめずらしいんだよ。なかなか手に入らないよ」

日本ではめずらしくないんですよ。

「くわしい日付はわからないけれど……鑑定によれば20世紀頃の写真ではないかと言われているね」

見たらわかるんですよ。
ド昭和ですよ。

「ヨーロッパのオークションで見つけたのさ。これは良いものだとピンときて、ぼくが落札したんだよ」

「へえ」

「値引きして19ユーロ(約3,000円)にしてあげよう」

値引きしてくれんのかい。


高いのか安いのか、わっかんねえ。まさか自分の結婚写真よりも先に、他人の結婚写真を買うことになるとは。

あれから帰国しまして、写真は机の横に飾ってます。連れ帰っちゃった感がすごい。

もし、この素敵な夫婦(めおと)にピン!と来る方がいらっしゃいましたら、メールフォームから教えてください。


以下、夫婦の写真がどうしてヨーロッパの蚤の市で売られていたかはわからないけど、なんとなく、そういうことはありえるんだろうなと思った話と、わたしが遭遇した廃品の怖い話。

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