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退院ドナドナ(もうあかんわ日記+エライコッチャなお知らせ)

毎日だいたい21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。

こちら岸田地検特捜部。

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午前8時30分……の予定だったけど、午前9時00分。(寝坊した)

感染性心内膜炎で約2ヶ月にわたり入院していた実の母を……

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連行〜〜〜〜!

ドナドナドーナードーナードーナー、オカンを乗ーせーてー。

入院期間が長く、しかも感染予防対策で外出や面会がだめだったので、病室はまるで熊の穴蔵だった。

まず、荷物が多すぎる。

かっぱえびせんと、たべっこどうぶつの、なんか小分けになった袋がビラッとつながってるあれが丸ごと置いてあって、なんで食べてへんねん。

「病院のコンビニに行くと、なんかハイになって買ってしまうんやけど、病室に戻ると食べる気がなくなるんよね。分ける友だちもおらんし」

二人でも持ちきれないので、コストコみたいなカートを借りた。

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コストコみたいなカートでも荷が重すぎたので、残りは弟に背負ってもらった。穴蔵からの大引っ越し。

入院したのが2月だったので、病院に駆け込んだとき着ていたコートやマフラーもあった。母は「病室から桜も見えないし、春なんて信じられへん」と、それらを半信半疑で畳んだ。

化粧の仕方がわからなくなった母は、ファンデーションと下地クリームのどっちを先に塗るかをしばらく迷っていた。外界でやっていけるのだろうか。

ナースステーションを通るとき、いちばんよくしてくれた看護師さんが

「岸田さん、退院でーす」

とおおきな声で言ってくれた。申し送り中で忙しそうなみなさんが一斉にこちらを向いて「お大事に!」「大変でしたね!」「お疲れさまでした!」と、送り出してくれる。

そのなかに一人だけ、青いスクラブの着た人がいた。

「な、中井せんせ〜っ!」

母の執刀医だ。

10時間もの手術を成功させてくれた、ゴリッゴリの関西弁で、飄々とした先生。

ナースステーションにいるところは見たことなく、何日も家に帰らないくらい忙しい先生なので、もしかしたら母を待っていてくれたのかもしれない。

「なにかあったらいつでも連絡くださいねえ」

母はぼろん、と漫画みたいな涙をこぼしかけた。感謝で胸が張り裂けそうとはこのことだが、本当に胸を裂いたので、半永久的にこの表現は使えなくなった。

「なにかあったらどうしましょう……」

「なんもないから、大丈夫やて。今までどおり、たのしーく暮らせますから」

グスグスしながら見送られる母を、わたしと弟でドナドナした。

命を救ってもらったという嬉しさと、家でなにかあったらどないしようという心細さで、病院の看板やらなんやらを見るたびに、母は泣いてしまうようだった。

「元気にとか、仕事復帰してとかならわかるけど、楽しく暮らせるってはじめて言われたね」

「今まで楽しそうに見えたんやろうね」

目の玉が飛び出るような入院費の会計を終えて、外に出た。ドキュメンタリーのディレクターさんが、重いカメラを抱えて待ちかまえてくれていた。

われわれはとても楽しそうな顔をしていると思うので、撮ってくれてよかったと思った。

「あっ」

タクシーに山のような荷物をテトリスのように詰めていたとき、母が声をあげた。

振り返ると、そこには病院の駐車場に詰めている警備員さんがいた。

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「最近見いひんから、どないしたかと思ってたんですよお」

「わーん!実は入院してたんです」

「ええっ!ほんまですかあ。ははあ、それは大変でしたなあ」

この警備員さんは、定期的にこの病院へ通っている母の顔と車を覚えて、いつも声をかけてくれたり、空いているところを優しく教えてくれるのだった。

母がいつか「たぶんリッツカールトンでバリバリのドアマンやってたけど、わけあって病院の警備員を頼まれて転身した人やと思う」と絶賛していたのがこの人か、と思った。

「でも今日はええ天気で、よかったですねえ」

わたしもそう思う。

赤いフィットじゃなくて、白いボルボになったんですよ、と言うと、警備員さんは「楽しみにしてますわあ」と見送ってくれた。

わたしは病院にあまりいい思い出はないけど、長い時間をここで過ごして、たくさんの人に支えられてきた母には、いい思い出もあるようだ。

ここでお世話になるたびに、苦しいことと、ハンバーグにちょっと添えられたにんじんみたいに、ちょっとだけいいこともついてくる。


タクシーに乗ったら、わたしと弟は秒で寝落ちしてしまった。

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となりでは、助手席から母がめちゃくちゃインタビューを受けてたらしい。母のインタビュー中でも爆睡してしまう、それが子どもの特権である。



家について、せっせとご飯を作った。

病み上がりの人が食べるので、ひかえめに蕎麦や雑炊で手を打とうかと思ったが「ソースが食べたいねん」という病み上がりの人の声に寄り添い、お好み焼きとそばめしを作った。炭水化物は人間を幸せにする。

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ちなみに夜は、先日いただいた瓢喜のしゃぶしゃぶだった。

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勘のいい読者の方々ならもうお気づきと思うが、あれだけ母が「生体弁をくれた豚さんはとてもとても食べられない」とメソメソしていたのだが、どちらの材料も豚さんだ。

母はパクパクと食べながら

「心臓の手助けもしてくれて、こんなに美味しくて、豚さんは本当にえらいなあ。すごいなあ。これからずっと、感謝していただくわ」

うん、それがいいと思う。


ちなみに、母の帰還でなんかそわそわする岸田家のなか、唯一の通常運転だったのが。

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爆睡柱(ばくすいばしら)こと、岸田良太だ。

家にたくさん退院祝いの品が届いていたので、母とお礼の写真を撮っていたら、華麗な寝姿が映り込んでいた。

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取材のカメラが入ってるのに、こんなに堂々とカウチスタイルをとれる人、いるんかな。才能じゃないか。いつまでもマイペースなので、慌ただしいわたしは心底うらやましいなと思った。


母は元気に退院してきたけど、今まで通りにといかないこともある。

筋力がベコベコに落ちてるせいで、車いすからベッド、車いすからタクシーへの移乗がすごく大変そうだった。

二ヶ月は両手に力を入れることができないので、一人ではお風呂に入れないし、車も運転できない。当たり前にできていたことが、できなくなっているという小さなショックは、これからの日々で積み重なっていく。

だけど、積み重なった分、ゆっくりと乗り越えていくしかない。明日からも親子で「もうあかんわ」と言い続けるだろうけど、その先には「あかんくなくなったわ」と、また新たに広がる景色がある。

ちょっとだけいいことも見つかる。たぶん。

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ところで、


長らく見守ってもらった「もうあかんわ日記」ですが。

少なくとも、4月14日までは続けます!


なぜなら


母が

東京2020オリンピック聖火リレーのランナーに選ばれたからです!ウォ〜〜〜!


「えっ、無理ちゃうか」「いけるかも」「ほんまかな」「いやわからん」「どないやろか」「いけなくもないかも」「走りたいな」「走れるならな」と母と延々、どないしよかストラグルを繰り広げた。

母は何度も、体調が不安だから、申し訳ないけど辞退しようかと迷っていた。

オリンピックの開催や、聖火リレーの運営は、ここでは語り尽くせないほどいろいろある。いろいろな思惑で、辞退したランナーたちも知っている。

でも、母の思いはただひとつであり。

「こんなわたしでも、必要やと任せてくれるなら、走りたい。たくさんの人に心配をかけてしまったから、元気やでって伝えたい」


ほな、走るしかないやんか。


4月14日水曜 15時21分ごろ、大阪府太子町で、母が走る。それまでに、体力と筋力を戻して、リハビリを頑張るとのこと。それもそれで楽しみらしい。


主治医は「いけるいける!」と言ってくれてるものの、トーチを持ちながら、車いすを一人でこぐのはかなり厳しいので、

例外中の例外で、弟が車いすを押すことを認めてもらった。



……姉は!?!?!?!?!?!?!



姉の仕事がなくなってしまった。岸田家においては不動のセンターで踊り狂っていた自負があったので、これには誠にびっくりである。

カーリングのように母の走る先の道を磨いていくとか、大きめのうちわであおぐとか、なんかないかと探ってみたけど、なんもなかった。おとなしく沿道で観ます。


ということで、14日までは、まだまだあかんことがいっぱいあるので、日記も続けていくよ!よろしくね〜〜〜〜っ!

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イラストはaynさんが描いてくれました!

↓ここから先は、キナリ★マガジンの読者さんだけ読める、おまけエピソード。

キナリ★マガジンを読んでくれたり、サポートをしてくれたりして、エイヤエイヤと応援してくださった皆さんに、あらためて、お伝えしたいことがある。

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これは、病院をうろちょろするわたしが、持っていたカバン。「あったかーい目をしているドラえもん」のカバン。京都の大丸でひと目見ただけで手に入れた。

このあったかーい目の中になにが入っているかというと。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。