
飽きっぽいから、愛っぽい|お褒めいただき誠にスイミング@神戸のスポーツジム
キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代8月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。
表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。
その日、母が用意した夕飯は、久々のごちそうカレーだった。
ごちそうカレーとは、岸田家の各々がごちそうと認定するおかずを、心の向くままに好きなだけトッピングできるカレーのことである。まず一人につき一皿、ふつうのカレーが配膳される。ルウの箱裏面に印刷されたレシピどおりに母が作る、ふつうのカレーだ。
「いただきまあす」
そろって言ったら、ごちそうづくりの始まりである。
ある者は食卓の小鉢からゆで卵や福神漬をとり、ある者は冷凍からあげやとろけるチーズを求めて冷蔵庫へ向かい、ある者はふつうのカレーを味わってから少しずつトッピングを足していく。
同じ屋根の下で暮らす家族といえども、それぞれのごちそうカレーの様相はまったく違うのだ。
ごちそうカレーが食卓にお出ましになったということは、すなわち、お祝いの時である。
「良太」
母が言う。
「よかったなあ、スイミング」
ごちそうを載せすぎて、落ち葉がこんもり積もった秋の山々のようになったカレーを無心で食べていた弟が、のんびり顔をあげ、のんびり頷いた。おかわりもした。
弟がスイミング教室に通えるようになったお祝いだ。
「死ぬど!」
福祉作業所に通っている弟の健康診断の結果をひと目見て叫んでしまったのが、三月のこと。
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