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やさしい人が傷つく世界だから、おいどん大好きクラブつくろう

自分のことよりも、他人を喜ばせ、他人を幸せにできるのが、立派な大人だと思ってた。

優しくて明るい母と、ええやつな弟(↑写真左)と、亡くなったけどめちゃくちゃおもろい父から愛されまくり、ぬるま湯のスパワールドにつかりながら育ってしまったわたしは、他人から嫌われることが怖かった。


だから、できるだけ、できるだけ、他人に嫌われず、楽しんでもらえるように生きてきた。わたしが書くアホみたいなエッセイは、そのことに関しては、めちゃくちゃ気をつかっている。


みんなから愛される、岸田奈美でいたかった。


でも、だめだった。

離れていく人も、嫌ってくる人も、ぜんぜんいる。知らん人やったらよかったけど、仲良かったはずの人やのに、急に手の平くるりんぱで嫌われてしまうと、ショックがビッグバン。

「耳障りのええことばっか言って、カルト新興宗教みたい」とか「明らかに性格悪そうなブス」とか「障害のある家族を放ったらかしにして一人暮らしするカス」とか、そういうのも匿名で送られてくる。

1000人との出会いがあったら、990人は、わたしが書くものを好意的に受け入れてくれる。ものすごくありがたい。わかってる。

でも、たった10人のトゲが、なんでか心にぶっ刺さることがある。

990人に恵まれてるからええやん。そんなんスルーせんとアホみるで。それで落ち込んどったら、応援してくれる人らに失礼や。

わかってる、わかってるのに、めっちゃしんどい。しんど煮込みうどん。


「わたしのなにがダメだったんだろう」

「どうすればよかったんだろう」

「ツイステッドワンダーランドのスカラビア寮のカリムくんみたく、いつも明るくニコニコしてみんなから好かれる人になりたいのに、そうなれない自分が情けない」


はやく、はやく、傾向と対策を。そうしないと残りの990人も、離れていってしまう。怖いよ。


昨日の夜はそんなことをずっと考えていて、つらくて涙と鼻水が24時間営業スプラッシュマウンテンで、気づいたら朝になっていた。

新聞配達のバイクの音が聞こえて、フッと気がついた。


「ああ、わたしが傷ついてるのは、どこかで『わたしは好かれて当然』って思い上がってたからなんや」


傷ついてるのは、自意識過剰な、うぬぼれの裏返し。

心の底から大嫌いになった。

傷ついてしまう自分のことも、そうまでして他人に好かれようと求めてしまう自分のことも、弱いままの自分のことも。


佐渡島さんが、自己中と自分大好きは違うってさ

今日は13時から、コルクで打ち合わせがあった。

相応にひどい顔をしていたので、エージェントの佐渡島庸平さんがギョッとして「どうしたの、疲れてる?」と言った。

世界の大温泉が決壊するかのごとく、わたしは話した。ほとんど、自分に対する恨みつらみだった。思えば、自分を徹底的に嫌うことで、「そうやって自分を正そうとしている自分はえらい」とセルフ洗脳しようとしていた。

佐渡島さんは言った。

「生き方も作品も、評価を他人に期待すると、つらいよね。褒められているうちはいいけど、他人は離れたり、飽きたり、怒ったりするから」

「はい」

「人生ってのはさ、誰から好かれるかじゃなくて、自分がどれだけ楽しくやっていけるかだよ。だから他人のことは気にしなくていいんじゃない」

「わかってるんですけど、他人から嫌われることを、気にせずにはいられないんです。悲しくてつらくて、なにも手につかなくなります」


佐渡島さんはなぜかソファの上で、体育座りのような格好をしていた。伝説の石像が喋ってるみたいになった。


「岸田さんは『もっと嫌われない自分にならないと』『もっと成長しないと』って思えるんだね。それはすごいね。俺なんかもう30年も生きてるとさ、自分の性格を変えようなんて思わないから」


ものすごい角度で褒められて、わたしは返事に困った。


「でもそれって、岸田さんは今の自分を好きになれていないからだよ。自分が嫌いだから、他人に評価を求めようとする」

「そうかもしれないです。でも自分を大好きになったら、ダメじゃないですか」

「なんで?」

「そんな自己中心的なやつ、もっと嫌われちゃいますよ」

「自己中と、自分大好きはぜんぜん違うよ!」


佐渡島さんはびっくりして言った。わたしの方がびっくりして固まっていた。伝説の石像が二体になった。


「自己中っていうのは、自分のことしか見えてない人。独裁者になって、他人を無視して、自分の思い通りにしたいだけだから孤立する。でも自分大好きな人は、他人のことを思いやれるし、話し合いもできるからね」

「なるほど」

「っていうか、自分大好きな人の方が、他人に優しくできるからね」

「えっ、なんで?」

「自分が大好きで、行動や考えに自信を持てて、心が元気な時ほど『他人にハッピーをわけよう』と思えるじゃん。見返りがなかったとしても、自分が大好きだったら、『やりたくてやっただけだし』ってなるでしょ」


ああ。たしかにそうだ。

わたしは自分のことが嫌いで、認められたくて、好かれたくて、いろいろと気をつかっていた。それが報われなかったから、余計に自分はダメなんだと落ち込んでいた。

「俺もむかし、人と決別するときにめっちゃ悩んだからさ。だけど、その人とはどうやってもわかりあえないと思ったから、無理して一緒にいると、俺が疲れきってしまう。それじゃどっちにとっても悪い」

「わたしはどうやったら、自分のことが大好きになれるんでしょうか」


こういうことを聞いちゃうからダメなんだな。言ってから後悔した。


「それはこれから見つけていくことだと思うけど、ひとつは、自分を大好きでいられる人との関係性だけを大切にしていくこと」

「自分を大好きでいられる人?」

「うん。いるでしょ。岸田さんが『この人の前なら、自分らしくいられる』『この人になら、なんでも言えて心が軽くなる』って思える人」


ぽん、ぽん、ぽん、と一人ずつ名前と顔が浮かんできた。そのなかに、佐渡島さんも、コルクの人たちもいた。


母が、優しい人だから傷つくんだってさ

その中の一人は母だったので、思い立って連絡をしてみた。

かくかくしかじか、こういうことがあって、人に嫌われてつらかった、ということを打ち明けた。

母は言った。

「自分にも悪いことがあったかもって反省するのはええことやけど、考えてもわからんことは、絶対にそれ以上考えなくていい」

「考えすぎてたんかな?」

「他人は他人の勝手な思い込みや嫉妬で離れていくこともあるんやから、自分の中に答えはないねん。考えるだけ損や」

「わたしなんぞに嫉妬すんのか?」

「自分がなりたくてもなれない、ほしかったものを持ってる他人を攻撃することで、自分を守ろうとする人もおるねん」

「やばいやん」

「そういう理性が働いてない人はいっぱいおる。こっちの意思じゃどうしようもないねん」

「マジか。ほなやっぱ、気にしたらあかんのやな」

「でもな、奈美ちゃんの気持ち、めっちゃわかる。わたしも人から嫌われるのが本当は怖い」


知ってた。


たぶん、わたしは、母のいいところも悪いところも、存分に受け継いでいるのだろうことも。親子ってそういうものだ。長く過ごしているからこそ、考え方や反応が似てくる。


「でも、他人の考えをこっちがどうこうすることはできひんねん。だから、自分のことを大好きになるしかない」

「佐渡島さんからも言われた」

「人にどう思われようが、自分はこれでええんや、って思うしかないねん。しんどかったらその人と距離を置くことも、その声を遠ざけることもできるようになる」

「それが難しいんよな」

「わたしは、奈美ちゃんのことを誇らしく思うで」


どうしてん、急に。
誇らしくとか、そんなこという母、映画でしか見たことないがな。


「だって、嫌われて傷つくのは、奈美ちゃんが優しいからや。人の役に立ちたい、仲良くしたい、そのために頑張ろうとしたからや」


考えたこともなかった。わたしは弱い人ではあるけど、優しい人だとは思ったことがなかった。

「世の中には、自分のことしか考えてへん人がいっぱいおる。平気で他人を傷つけてくる。優しい人から順番に傷ついて、順番に病んでいく。せやから、奈美ちゃんは、自分を守るために自分のことを大好きでいるんやで」

「自分を守るためでいいん?」

「うん。だってわたしは奈美ちゃんのことが大好きやねんから、奈美ちゃんが奈美ちゃんのこと大好きになってくれるなら、そんなに嬉しいことはないわ」


わたしはバカだ。ちょっと目線を変えてみたら、わたしだって、大好きな母に同じことを言う。

自分のことになった途端、どれだけ冷静になれていなかったことか。


だから、おいどん大好きクラブつくろう

どうやらこの世界は、優しい人から傷つくようにできているらしい。

自己中な人や、ひどい言葉をかける人に「やめろ」と言い続けるのは大切だけど、悲しいことになかなかやまない雨もある。

そんな酸性雨に打たれて、やさしい人がどんどんいなくなっていくのは、しんどすぎる。いやだ。大好きなわたしも、わたしが大好きな人も、いなくなってほしくない。

ってかやばくない?

優しい人になりましょうって、子どものころから言われるのに、いざ大人になったら優しい人からゴリゴリに傷ついていくねんで。そんな話があってたまるか。

頼むから、いなくならんといてくれ。

わたしもわたしのこと、大好きになろうとしてるから。大好きであれる場所を探そうとしてるから。

あんたも、お願いやから、自分を大好きであってくれ。


おいどん大好きクラブを、ここに設立するからな。


あんたも、あんたも、そこのあんたも、まとめて会員や。掃除係は日替わりで、活動費はどんぐりや。校庭はテニス部と交代で使うんやで。

そんなわけで、どうかひとつ、よろしく。


※この下は「キナリ☆マガジン」購読者だけ読める、どうでも良いおまけをつけときました。わたしの作品を大好きと言ってくれる皆さんに、言いたいことがあって。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。