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ダウン症の弟に、メルカリで貢いでいる姉の言い分

先日、母のfacebookの投稿で、私が褒められていた。私が毎週のように、ダウン症の弟・良太へぬり絵を贈っている件だった。同時に、私の過剰な対応や、懐事情を心配するコメントもあった。
 
私と弟には、共通の利害関係がある。
 
Win-Winな関係だ。
グロービス経営大学院でも、基本中の基本と教えられるはず。(知らんけど)
 
ところで、漫画・ワンピースには、サンジ君というキャラクターがいる。サンジ君は、イケメンで長身で優しく強い。芸能界で言うところの岡田准一であり、私の高校時代のバイト先で言うところの山P似の先輩である。

そんなサンジ君と、実際に会うことができる、夢の国がある。ユニバーサルスタジオジャパンだ。
 
漫画の世界から飛び出てきたようなパーフェクト・ルッキング・ガイな役者が演じるサンジ君が、一定の時間だけ、パーク内に現れる。居合わせた女子は黄色い声を上げ、次々にスマホを掲げるが、サンジ君の懐に飛び込むのは躊躇する女子が多い。
 
サンジ君ファンの女たちの視線が刺さる中で、抜け駆けはご法度なのだ。私のようなバッド・ルッキング・ガールが飛び込めば、後ろ指を指されることは必至。
 
でも、良太は、気にしなかった。
 
「よっ、元気?」と片手を上げて、サンジ君に声をかけに行った。
 
これは、あれだ。
 
映画の撮影現場でヤマ場演技の直前、集中している岡田准一に「このあと焼肉どう?」と唯一声をかけることができる、大御所のプロデューサーだ。
 
山P似のドイケメンの先輩を牽制しあって、争いが起きないよう示し合わせていたバイト仲間の誓いを破り「ねえタクヤ、お皿ここに置いとくから」とこれ見よがしに先輩の肩へ手を置いたあの嫌な女だ。
 
遠慮する周りに有無を言わさない大御所の貫禄が、良太にはあった。
 
かくして私は、憧れのサンジ君と写真を撮った。いい匂いがした。
 
ポカン、とする周りの女たちは、すぐ良太にならって、サンジ君に駆け寄り始めた。日本人特有の牽制と遠慮の文化が、消えて無くなった。
 
王道とは、良太が歩いてきた道と、これから歩く道の総称かと思った。(ローランド語録)
 
サンジ君だけじゃない。ディズニーランドのジーニーであろうと、良太は行く。
 
「きみ、映画に出てたなあ!良かったで!」と言いながら、ノータイムで肩を組みに行く。ジーニーも「あ、どうも!お世話になってます!」と全力で迎えてくれるのだが、多分あとから「え…誰だっけあの人…」と冷静になっているに違いない。
 
かくしてチキンな私は、良太といれば、夢のひとときを過ごせるのだ。
 
話は変わって、私にはしこたま男運が無い。
 
良い彼氏も歴代数人いるものの、良い彼氏と良い彼氏の間にはいつも2人ほど、ろくでなしを挟む。詳細は伏せるが、とにかく誰もが口を揃えてろくでなしと評する男たちだ。
 
良太はこのろくでなしを、誰よりも先に見抜く。
 
例えば、彼氏が私の家へ遊びに来た時。良太は彼氏に「こんにちは」と礼儀正しい挨拶をする。この彼氏がろくでなしだった場合「姉ちゃん、あの男はやめといた方がいいぜ」と目配せしてくる。その迫真さたるや、神戸市北区のジェイソン・ステイサム。だいたい数週間で、その男たちには、借金・強烈なマザコン・怪しい宗教などが発覚する。
 
これが良い彼氏だった場合、良太は後々「◯◯君、今日来るんか?」「◯◯君、元気か?」と話題に出してくれる。良い彼氏は度々身を案じ、ろくでなしは記憶から抹消し“存在しない者”として扱う。紛れもないジェイソン・ステイサムである。
 
発音がハッキリしない良太の声を聞き取ろうとする、背の低い良太と目線を合わせる、知的障害のある良太へも分け隔てなく接する……そういった人としての優しさを、良太は自然に見抜くのかもしれない。
 
とにもかくにも、三崎口の漁師も裸足で逃げ出す目利き師が、良太だ。良太のおかげで私はいつも、ろくでなしを早々に大海へと放流することができた。
 
ボラほどのスペックしかない私が、のどぐろ、クロマグロ、キンメダイ級の男を彼氏にできたのは、良太のおかげだ。
 
話を戻すと、私が良太のATMなのではない。良太が、重課金に値する神運営だ。メルカリでタダ同然の値段で大量に仕入れたぬり絵など、得られるリターンに比べれば取るに足らない。
 
賽銭箱に小銭を入れ、神頼みするより確実だ。想像してみてほしい、小銭を入れるだけで、確実に願いが叶う賽銭箱を。確実に次のアップデートで運営から補正がかかってしまう、ぶっ壊れチート★5である。
 
ぬり絵のお礼の電話が良太から届く度に「8月はUSJに姉ちゃんと行こな」「彼氏、連れていくからな」と、私は良太にお願いをしているので、結論、皆さんの想像より、我々姉弟はずっと合理的なのですよ、というお話。

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スキに圧倒的感謝
1350
28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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