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いざって時に機械は動かねんだから、こっちもそれなりの準備ってもんをさ

たとえば、さ。

500人くらいが視聴してる鬼デカオンラインイベントで、1時間くらい前から配信スタッフさんたちが出入りして、テーブルの上には丁寧にラベルまで引っ剥がしたい・ろ・は・すとカントリーマアムも紙皿に鎮座してて、準備万端で「じゃあ今から本番でーす!」って言われたときとか。

クライアントから巨万の富をもらえるか否かのプレゼンで、ズラッと名実ともにエライ人たちが並んだ会議室に入り、白目剥きながら一晩かけて作ったプレゼン資料を「じゃあ今からご提案の方を始めさせていただきたいと思います」って回りくどいこと口走りながら投影するときとか。


動かなくなるよねえ。機械って。
ウンともスンともいわんとは、このこと。

ポンコツって言葉を思いついた人はすごいよ。だって「げんこつ」を聞き間違えて生まれた言葉だよ。由来からしてもうポンコツじゃん。


感染症対策が当然になって、オンライン配信や個室の増設が増えて、慣れない機械を扱う人が増えて、余計にポンコツが発生する機会が多くなってると思うのよ。機械(きかい)だけに。


それで、気づいたんだけど。


たぶん人って、予期せぬトラブルが降り掛かったときに、心が丸裸になるんじゃないかな。その人の本質とまではいかないけど、魅力も難点もドバッとあふれちゃうのでは。

だから大切なときに機械がポンコツになって慌てた時にはじめて、人柄の良さって見えるはずっていう話をします。

ここ最近で見た「この人のポンコツへの対処、すげーな」って例も、勝手に出します。ガハハ。



本の作り方の対談だったのに、気がつきゃヤマトの荷物受け取ってた話

今日あった話だけど。獲れたてホヤホヤだけど。

コルクの佐渡島庸平さん(わたしの担当エージェント)のYoutubeチャンネルの収録に呼ばれて。

「一年でどうやって本を出版するに至ったか」っていうクリエイター向けのテーマでね。まあ、もう勝手知ったるお相手なので、ざっくりとそれだけ聞いて、進行はぶっつけ本番だったんだけど。

どうやって収録したかって言うと、60分間、二人でZoom使って対談して、そのZoomにコルクの収録&配信係の人もミュートで入っていて、最初と最後だけ声をかけたり、タイムキーパーしたりするっていう。

最初は順調に話してたんだけど、まあ、途中から様子がおかしくなって。

対談してる途中、ウチにクロネコヤマトの集荷が来た。ピンポーンッて。集荷の依頼、この時間にしちゃったままなの忘れてた。

「やべっ、収録してんのに!」って思って、画面越しに黙って目線だけでお互いを探り合うみたいな数秒があったんだけど「岸田さんっぽくて面白いから、普通に出ちゃっていいよ」とお許しをもらって、出た。普通に。

ワイヤレスのイヤホンをつけたまま出たから、集荷の対応をしながらも佐渡島さんの声だけは聞こえるんだけど、なんか喋ってんの。一人で。

いきなりどうしたどうした、って焦ったけど、本当に一人で喋ってた。焦ってたから、話の細かいところぜんぜん覚えてない。

たぶん、なんか、わたしについて良い感じの補足説明をしてくれてた。どうやら。岸田さんはこういう引きが本当にすごくて、みたいな。(幻聴だったらごめんなさい)


なんか、嬉しかったんですよね。

そのままだったらわたし、集荷の時間を間違えて伝えてたアホマヌケだったんですけど、そこで佐渡島さんが自然に「岸田さんはやっぱり、持ってるんだけど」って説明を一人でやってくれたから、わたし、急にマヌケから「なんか持ってる人」になれたわけで。もうそれで数秒間、画面から消えてるわたし自体がコンテンツっても過言じゃない。どの口が言ってんだ。

その数分後、佐渡島さんちのお子さんがなんかおっちょこちょいをやらかしたらしく、今度は佐渡島さんが画面から突然、消えた。

こりゃ、わたしにも華麗に場をつないで良いとこ見せるチャンスが来たぞ!って思って、超速で頭を回転させたんだけど、なーんも出てこなくて。唯一出てきたのが。

「ええと、じゃあ、生活に困窮したハム太郎の歌やります。『だ〜い好きなのは〜 日払いの金〜(ひまわりのタネ〜)』」

って、一人で虚無に向かって話してたっていう。ちょっと遅れて、チャットで配信係の人から「(笑)」とだけ送られてきた。やばすぎ。いや、日払いの金は好きですけど。あの歌、カットされるのかな。されるんだろうな。

しかも佐渡島さんたぶん、とっとこハム太郎、見てねえもんな。


広告業界って、切れ味の良い言葉で常に居合斬りでもしてんのかなって話

先週、「THE CREATIVE ACADEMY」っていう、GO主催のクリエイティブディレクターを養成する講座で、わたしなんぞが講師をやらせてもらいました。

前職は執筆とはまったく関係がなかったので、そもそも広告業界に造詣が深いわけじゃないし、クリエイティブディレクターってよくわかんないけどカッコいいな、くらいの印象しか持ってなかった。

でも、講師控室に通されたとき。

「岸田さん、お腹へってますか?おやつ食べますか?」って。

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シャネルの紙袋から取り出したシャインマスカットを机の上にドンッて置かれた。クリエイティブディレクターはすげえなと思った。

岸田家だとシャインマスカットって、WBCでイチローがホームラン打った夜にしか出てこなかったもん。それがシャネルの紙袋に入ってんのよ。ちょっと思ったよね。シャネルにシャインマスカット売ってんだ……ビニールハウスにNo.5とか番号つけてんのかな……って。

まあ、それで、ガッチガチに緊張して、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら登壇しまして。だだっ広い会場に間隔あけて50人が座ってて、画面越しにオンラインで500人とか。見すぎ。

で、GO代表の三浦さんが、アメ横のバナナのたたき売りみたいなテンポ&威勢&褒め殺しのトークで、盛大にわたしを迎えてくれたんだけど。わたしが緊張しすぎて、パソコンを控室に忘れたまま舞台に上がるっていう。なにしにきたんだ。

「えっと、ごめんなさい、すぐ戻るので!つないでください!」って三浦さんにとんでもない依頼をして、そそくさと降壇したんだけど。

三浦さん、めちゃくちゃ話してた。 

なんかもう、アドリブで出てくる言葉と発想のパワーがすごい。メモとりたいくらい勉強になるから、戻るの忘れて突っ立ったまま聞き込んじゃって。どっちが講師だよっていう。

たとえば、こういう話。

「岸田さんは、おもしろいんですよ」

「おもしろくないですよ(泣きそう)」

「本当に。おもしろいっていうのは……そうだな、俺はニューとギャップとビッグの要素をもつものだと思うんですけど」

ニューとギャップとビッグ!?

「ニューは新しさ、ギャップは意外性、ビッグは壮大さ。岸田さんって、たとえ話や褒め言葉も全部でかくて大げさでしょ。おもしろいよね」

そんなの言われたことなかった。だから、そう思われてるんだって、嬉しくなった。しかしニューとギャップとビッグは、音の感じが相当いいぞ。言いたくなる。フックン、モックン、ヤックンに匹敵する。

こういうアドリブもあった。

「わたしは9年間、会社員で広報をしてたんですけど、そこで文章力とか構成力ですごく目立てて、実績も残せたんですよね。当時いくら文章が上手くても、たとえば真っ向から小説の賞とかに出したら絶対に残れなかった。小説業界ではわたしを遥かに凌駕する天才が無数にいるから(長い)」

なるほど。才能って、幸福な間違いですよね

幸福な間違い!?!?!?!?!?!?!?

幸福な間違いっていうのは、ものすごく恵まれた才能を持っていても、その才能が実は全然違うフィールドでこそ目立って発揮されることがあるってことらしくて。

よくもそんなポンポンと、場をポジティブにひっくり返す鮮烈な言葉を思いつくもんだと感動して、どうやったらそれができますかとたずねてみたら。

「うーん、広告の仕事やってるからですかね。大切なプレゼンで資料を投影するプロジェクターがいきなりブッ壊れるとか何度もあったし。クライアントと商談が多いから、説得力ある言葉や革新的な発想を会話の中で即座に思いついて、何度も投げ続けるってのも癖になってる」

広告業界で何度もアドレナリンがドバドバ出るような、切った張ったの場所にい続けたから、身についた居合斬りの技なんだなと思った。


出演中に電話がかかってきて、誠実さの塊しかない心で対応するのを目の当たりにした話

これはわたしが応援団長を務めていた、noteフェスで遭遇したこと。

出演者の坂口恭平さんは「いのっちの電話」という、自殺者からの相談電話を受付けている。びっくりしたのは、書籍やWEBサイトに、自分の携帯電話番号をドンッと書いていること。

つまり、相談者は坂口さんがその手に持っているスマホへ直接、いつでも電話をかけることができる。どうなってんの。ホットラインが過ぎる。

noteフェスの生放送で坂口恭平さんと有賀薫さんが対談してる時、本当に坂口さんのスマホに電話がかかってきて。

「切らないんだ!?」ってびっくりしてたら、坂口さんが普通にイヤホン外して喋りだして、「電話に出るんだ!?」って二度びっくりした。翻弄されすぎ。

生放送中なのにどうすんの、ってハラハラしてたら坂口さんが「ごめんね、いま俺イベントに出てるから、あと一時間くらいしたらかけてきてくれる?うん、うん、ありがとう」と言って電話を切り、またイヤホンをつけて対談に戻ってきた。

なんというか、圧倒された。

この人にとって、これは当然なんだって。きっと今回が初めてじゃなくて、イベントに出ているときも、だれかと遊んでいるときも、家でひとりでいる時も、こうやって誠実に、回線の向こう側で苦しんでいる人に、向き合ってきたんだろう。

坂口さんはそれまで対談で「書くのなんてね、うんこと同じですよ」とか「ペットボトルに話しかけたらいいんです。プラスチックって本当に悪いことしてるの?どうなの?ってさ」とか、なんつーかパンチのありすぎることばかり言ってたけど、わたしはこの一言で、一気に坂口さんが大好きになった。大好きにならざるをえなかった。だって彼が、他人に愛を惜しみなく分け与えているのだから。


ポンコツが起きたときにこそ、ポンコツじゃなくそこにいたい

準備は、必要なものだと思う。なめらかに喋ったり、原稿を覚えたり、刺さる言葉を考えたり、美しくデザインを整えてきたり。

だけど、どうしても「用意されてきたもの」に、そこまで心を突き動かされないことがある。だって人は、その場しのぎで取り繕えてしまえるということを、大人になったわたしたちは知ってしまったから。

だからこそ「不足の事態」に垣間見える、人間らしさにどうしようもなく惹かれることがある。「用意されてこなかったもの」の中に、その人の素っ裸の心や普段の行動が見える。大好きにもなるし、大嫌いにもなる。

がっつり用意するのはまた違うだろうけど、ポンコツが起きたときに、ポンコツにならない人でいたいよ、わたしも。

わたしは、中学生、高校生のときの友人がほとんどいない。女の子同士がグループでつるみ、のけものを作る傾向が強い学校だった。さっきまで仲良くしていた子が、ちょっと席を立った瞬間、みんなでその子の悪口を言うのがイヤだった。でもなによりイヤだったのは、仲間はずれにされたくなくて、薄笑いで同調していたわたしだ。敵の敵は味方なんだ。なんて弱い考え。

あんな思いは、もう二度としたくないので。

わたしは機械がポンコツになって場が気まずくなったとき「人のことをとにかく褒められる」芸を、全身全霊で身に着けたいと思う。司会でも対談相手でも観客でも、なんでもいい。相手が席を外したなら、その相手のことを褒めちぎりたい。

これなら、できるぞ。性に合っている。褒めるのが大好きだ。大抵の人はわたしより優れている。その優れているところを、見たまんま、感じたまんまで、喋ればいいのだ。っていうかいつも思ってるし。口に出すだけで、喜んでもらえるんじゃないか。褒め漫談。褒め寄席。これは楽しいぞ。ちょっとワクワクしてきた。

わたしには、ポンコツ(になったときに披露できる)芸がある。、

そんなわけでわたしは、機械がポンコツになることをひたすらに待ちわびている。


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岸田奈美|NamiKishida
週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。