逆にやりすぎ
こないだ、京都に泊まったんです。
次の日、朝から仕事があるってことで。いや、それ自体はめずらしいことやないんですよ。とある会社の朝礼で、わたしの浮いたり沈んだりが激しい半生的なものをね、チョチョチョーッと話してくれやと、おっしゃっていただいて。
わたし、そういうの、嫌いじゃないわ。
アットホームな会社にお邪魔してね、始業前をいつもよりちょっとファニーに盛り上げる余興。日常のスパイス。ハイッ、今日も一日がんばりましょー!ほなねー!元気出してこー!ってね。
とっても楽しいわ。
せや。どうせなら社員の皆さんに、おやつでも持って行こかなと。ふと思いついて。
「朝礼って、何人ぐらい聞いてくださるんですか?」
近々で質問したら、
「リモートで全支社をつないで、1500人ぐらいですかね」
おもてたんとちゃう!
1500人の朝礼はもう始業前とかやないんよ。討ち入り前なんよ。1500人に元気出させるってそれはもう鼓舞なんよ。法螺貝吹きつつ右手とか突き上げながら話さなあかんやつ。
大沢たかおとかがやるやつ。
絶対に遅刻できん。
わずかにでも遅刻したら、どえらいことになる。打首。社員の前で半生を語るのが、大罪人が公開処刑させる前の遺言的な意味を帯びてまう。大海賊時代が始まる。
というわけで、急いで、会社から徒歩5分の場所に宿を取りました。
起きました。
10時に会社入りで、まだ7時。
優勝です。
あるやないですか。アラームよりも早く目が覚めた日の、勝ちが確定しているあの感じ。それが今です。もう優勝です。
そうや、モーニングを食べに行こう。
超絶夜型のわたしがモーニングを食べられるなんて、年に3回ぐらいしかないので。
調べてみたら、近くに喫茶店があった。手作りのサンドイッチが有名らしい。地元でも有名で、観光客も常連もバランスのいい店。なによりご夫婦のあったかい人柄に、朝から癒やされる人が続出している。
Googleの口コミも、高評価ばかり。
京都の観光地のド真ん中やから、さすがに行列かなと思ったら、意外とすんなり入れた。わたしが入店して、15人キャパぐらいの店内が満席になった。
セーフ!セーフ!
喫茶店はいかにも昭和の老舗って感じ、ところどころ傷んでるけど素敵なレトロ具合。
50代ぐらいのご夫婦が切り盛りされていて、旦那さまが厨房、奥さまがホールで働かれていた。
立って待ってるわたしのところに、奥さまがダーッと走ってきて、
「ん!」
わたしの前に紙を突き出した。びっくりした。となりのトトロのカンタが傘を差し出すのと完全に一致した。
「ん!」
紙には、でかでかと
“お食事を出すのに時間かかります”
日本語、英語、中国語、韓国語、いろんな言葉で同じ文章が書いてあった。そっか。奥さまがわたしをジーッと見つめている。怖い。
チラッと時計を見た。
まだ8時。
2時間もあれば余裕やろ。
「だいじょぶでえす」
これが優勝が確定している人間の余裕です。優雅に席へついて、メニューでさんざん迷ったあと、ハムタマゴサンドのコーヒーセットを注文した。
これがすべての始まりだった。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。