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妥協策としての相撲

ここぞとばかりの藪から棒に、まずはお知らせを。

告知「出版記念イベントがあるよ」

6月22日(火)「人生は、抱え込めば悲劇だが面白く語れば喜劇だ」
岸田奈美×三宅香帆 しゃべくりイベント(青山ブックセンター)

「更級日記、土佐日記に蜻蛉日記!そこに続くか、もうあかんわ日記!」という、語呂と威勢だけはいい文句を思いついて、そこへやらで言い散らかしていたら、書評家の三宅香帆さんが腕まくりをして「じゃあ日記文学を語りましょうか、もうあかんわ日記が1000年後も残るかどうか」とあらわれた。袁傪の前に飛び出てしまった、虎になった李徴の気持ちが今ならわかる。ふつうに恥ずかしい。でも参加者は歴史の目撃者になれるはず。おおきく出るぞ。出てやるぞ。


6月29日(火) 家族が幸せになるための最適解〜岸田家の場合
岸田奈美×岸田ひろ実 (noteライブ)

ついにオカンまであらわれてしまった。虎になった李徴なら早々に竹やぶの中へ逃げ帰ってしまう展開。これを言うのは不謹慎がすぎるんだけども、あえて言うならば「ついこないだまでリアルタイムで死にかけていた人」を、生放送の映像で見る機会ってあんまりないからね。見るといいよ。いいことがあるかどうかは、知らんけど。


告知「サイン会やるよ」

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人がよすぎることでも有名なヘラルボニーのみなさんが、またもや気を効かせに効かせてくれて、今年も渋谷スクランブルスクエアでサイン会をさせてもらうことになったよ。世が世なので遠方からはなかなか来れないと思うし、長居はしてもらえないのだけど、近くにいる方はですね、お待ちしてます。詳細はこちらへ!


はい。

ちょっとね、きました。疲れが。三月からね、退院手続きやって、出版やって、引っ越しやって、また引っ越しやって、土地売って、鎌倉行って、だったもんで。この週末は魂が抜けていた。

そういう、意識が朦朧とするなかで、書き留めた日記を三本。


妥協策としての相撲

ぼうっとしながら、Netflixを垂れ流している。

わたしにとっては、スーパー銭湯の打たせ湯みたいなもんである。なにも考えずに、ずっとだらだら、何時間も流している。たまに余所見したり、かと思えば気まぐれに巻き戻したりする。この気軽さがいい。時間に支配されていないぞという感じがする。

いまは、ルパン三世TVスペシャルブームがきている。

ルパン三世TVスペシャルは、いい。ちょうどいい。

コルクに所属している漫画家さんたちの、ナイアガラの打たせ湯みたいにドドドドと日々流れていくSlackのコメントを眺めていると、たまに漫画制作のやりとりで

「ちょっとここのセリフ、カロリーが高いね!」

「ネームのカロリーもうちょっと落としてほしいんだけど、いける?」

というような言葉を見かける。

漫画のカロリーとは、一体。漫画に狂うあまり原稿用紙をむしゃむしゃと食らう妖怪を思い浮かべたけど、どうやら「読者が内容を理解するのが大変=カロリーが高い」ということみたいで。

カロリーが高いと、胃にもたれる。漫画も最後まで読み進められない。

だからパッと見て、感情や状況や設定が伝わりやすい、つまりカロリーが低い漫画を彼らは試行錯誤しているというわけだ。勉強になるなあ。

わたしにとって、ルパン三世は、ちょうどよくカロリーが低い。

ルパン三世のTVスペシャルは、今まで27作放送されてきた。(幼き岸田奈美嬢はそれらを毎回、レンタルビデオ屋に通い詰めて繰り返し繰り返し一本ずつ、二年かけて借りていたので、Netflixで打たせ湯できる現代は素晴らしい)

27作もあるが、どれも例外なくいい意味で「ルパン三世」っぽい。この「っぽい」っていうのが、低カロリー実現に一役かっている。

メインを張るキャラクターの心情、得意技、そして立ち回りが全作通して大体わかっている。こういうシーンになったら、ああ、こいつはこう動くんだな、くらいの予測が容易に立てられる。予測はほぼ裏切られない。っていうか、ルパン三世のTVスペシャル観てて「まさかこいつが!?」って思ったことある人、おる?おったらごめんやけど?

ちょっとでもルパンが私欲に走ったり、過去の因縁が匂ってくると「これは次元か五ェ門が、降りる流れやな」と一瞬でわかる。だいたい降りたあとは中盤過ぎたあたりでまた戻ってくる。とてもかわいい。ところでわたしは次元大介を強烈に推している。あれくらいの中年のおじさんたちが車の上でキャッキャとはしゃいでるのを見ていると魂が浄化される。おじさんに痛めつけられる日もあれば、おじさんに救われる日もある。それが人生。

ルパン三世のストーリーは基本的に「盗む」か「盗まれるか」で、序盤に「今回はこれを盗むやで」という提示がされるので、もう序盤を見た時点で、なんならタイトルとサムネイルを見た時点で、八割がた予想がつく。

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ゲストヒロインの声を鉄板も鉄板の林原めぐみが務める「ルパン三世 炎の記憶」はわたしのお気に入りの一作であるけど、もうこのサムネイルだけで話がだいたいわかる。銭形に変装したルパンがヒロインに近づくんでしょ、それでお宝は記憶にまつわるなにかで、このヒロインが鍵を握ってるんでしょ。

はい、大当たり。

ちょっと予想外なところと言えば、なんでも鑑定団の中島誠之助がなんでも鑑定する人役で出ていることぐらいだが、マジで中島誠之助が何役をやろうとも本筋には1ミリも関係ない。お宝の鑑定にも関わってこない。そこは関わらせてやれよ。

だけど、それがいいのだ。

その約束された「ルパンっぽさ」の中で、不二子が裏切るのか裏切らないのか、キャラクターのちょっと意外なシーンが見れるのか、アクションシーンは痛快かお笑いか、というちょっとした揺れが楽しめる。

余所見していても、ルパンの世界にはいつでも帰ってこれる。巻き戻さなくても、世界に追いつける。自分を置いて騒がしく流れていってしまうこの無常な世界で、ふと視線を移せば、誰も置いていかないルパンの世界が映っているというのは、なかなかに心地いい。

昨夜は、ぜんぜん書けない小説を、えっちらおっちら書き続けて深夜4時をまわり、泣きそうになりながら「ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎」をテレビに流していた。

劇中、バチバチに敵対しているふたつの組織がある。

組織はそれぞれ用心棒を雇い、代理戦争を仕掛けるのだが、運が悪いことに片方の組織は「次元大介」を雇い、もう片方の組織は「石川五ェ門」を雇ったのだった!どちらもルパン一味である!

携帯電話もない時代(ないのかよ)、コロシアムの檻が開き、相対して初めて「ああっ!お前は!」となる、次元と五ェ衛門。

二人の腕なら、熾烈な命の取り合いになってしまう。しかし戦わなければ、勝敗を見守っている組織に殺されてしまう。

「どうする?」
「どうする?」

目配せした二人が、妥協策としてとった行動が。

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突然の相撲だった。

手に汗握るシリアスなシーンで、ハードボイルドガンマンと達人剣豪がどう切り抜けるかの頭脳戦の結末は、雑な相撲なのである。次元大介と石川五ェ衛門が、がっぷり四つ組むところが見れるのは、後にも先にも同作だけ。

銃も剣も使わねえ。せめて使え。

すでにがっぷり四つ組んだところでわたしは深夜の自宅でわけもなく爆笑してしまったのだけど、さすがに組織の誰かが八百長に気づくやろと思いながら観ていたら、組織も「やったか!?」「引き分けか!?」と手に汗握って相撲を見守っている。全員バカ。

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Netflixのサムネイル画像も、よりによって相撲2秒前のシーンだった。もう完全に狙っとるやろ。

素人の世界において、知力を捨ててフィジカルでなにかを決しないといけないとなった時、相撲は意外といい妥協策なのかもしれない。素人相撲。砂場でやったら、そこそこ怪我しにくいし、押し出すだけで勝てるときもあるし。

これからわたしも、友人とのいさかいを暴力で解決しなければならない時がきたら、相撲をとろうと思った。いつの間にか小説は書きあがっており、わたしは〆切に間に合った。すぐさまボツになった。相撲するかい?


声をあげることについて

「もし俺がたけしに何か言いたいことがあるなら、会って直接話をする。だいたい、友達同士の大事な話を校内放送でする奴はいないだろう」

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。