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墓場のカラスに襲われて

人生には、いくところまでいくと、着物かワインか墓参りをゴリゴリにオススメしはじめる段階がある。

「墓参りはええよォ。効くよォ」

同じ町内で喫茶店を営む、高齢のご婦人が耳打ちしてきた。

曲がった腰と震える膝をもろともせず、月に一度は墓を徘徊する彼女の趣味を、常連は密やかに“下見”と呼んだ。

笑っていいのか、わからない。

「ホラ、祇園のでっかい墓所!あれはええよォ。いま親鸞さんの記念日で、入ったらアカン墓まで入れるんやから。ロングラン開催中やから」

墓マイラーの言い分も、わからない。

「とにかく墓参りはしとき。運気が上がるで」

鬼の形相で念を押されたが、その当時、うちには墓がなかった。

正確には、親戚が勝手に墓じまいをし、また別の親戚が勝手に墓びらきをするという抗争(ドンパチ)が勃発したところだった。

パチンコのチューリップと同じ頻度で、開いたり閉じたりしていた。墓が。

岸田家先祖代々の墓の在り処は、一部の人間にのみ知らされ、隠された。ハムナプトラ状態。

今年、わたしは京都をさまよい歩いてやっと墓を突き止めたが、ここで説明すると5万字を越えるので、端折る。

まあ、つまるところ、参りたくても墓がないのだ。

すると、墓マイラーは不敵に笑った。

「尊敬する人を参ったら、力をわけてもらえるで」

「そういうのもあるんや」

「うちの旦那もな、近藤勇の墓参りしてから調子がええ」

この寂れた喫茶店に新選組のエッセンスを吹き込んで、なにをどうする気なんだと困惑したが、なるほど験担ぎとしては一理ある。

「アンタ、物書きやろ。この作品がええなあって思ったら、作者が生きとるか死んどるか確認すんのが楽しいねん。墓があったら行けるやんって」

最悪の趣味である。目の前の老婆がネクロマンサーに見えてきた。

とはいえ。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。