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卵池肉林(もうあかんわ日記)

毎日21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。

「これで美味しいものでも食べてください」と、サポートやマガジンの購読をしてくれる数人の方からメッセージをいただいたので、頭は「疲れて免疫力落ちてるから薬膳鍋!」と冷静に語り、心は「肉、肉、肉!焼き肉!」と叫んでいた。

焼き肉を食べることにした。

二年前くらいから「この年齢になったら、食べ放題より、ええ肉をちょっとずついただいた方がええわ」と大人ぶってイキッていた。

いまは前頭葉がおバグり申しあげているので、隠れ家焼き肉や高級熟成肉などには目もくれず。

ワンカルビに駆け込んだ。

ワンカルビはいい。3580円でハラミやカルビやロースといったレギュラーメンバーから、焼きすきやきやサガリステーキなどの助っ人外国人まで食べ放題だ。

しかも注文はタッチパネル。店員さんも楽だし、われわれも楽だ。店員さんに「これと、これと、あとこれと」と伝えていくと、途中で口から吐いた言の葉がパルスに乗って耳から戻り、特殊な電気信号で脳髄を刺激して「いやこんなに食ってどないすんねん自分」と羞恥の理性を引き戻してしまうけど、タッチパネルは理性のブレーキが外れる。初手ビビンバとかできる。

同じく肉の食べ放題なら、しゃぶ葉もいい。自分で生地を流し込んで焼くワッフルがいい。酒を片手にどんなに汚く騒いでるヤンキーも、ワッフルメーカーの前ではかしこくジッと待っている。ヤンキーがタイマーにセットされた2分を過ぎて、さらに30秒、だまって蒸らしているのを見ると、たまらなくなる。

話をワンカルビに戻そう。

わたしはすき焼きに目がないので、とにかく焼きすきやきを重点的に頼んだ。

「こちら、カルビの焼きすきやきです。あぶるように焼いたあと、卵につけてお召し上がりください」

店員さんが、焼きすき焼きを持ってきた。薄くて脂のよく乗ったお肉と、ころんとしたかわいい卵が入った器。

卵を割って、黄金の液体を溶いているだけで楽しくなる。ランララと歌って踊りたい。コールド・ストーン・クリーマリーのアイス売りのように。

よく焼けたお肉を、卵につけて、じゅるっと口の中で吸うように食べると、もう昇天しそうになった。秒で肉は消えた。

生まれたときからそうプログラミングされていたかのように、即座にタッチパネルを手にとり、追加で焼きすきやきを注文した。

「こちら、カルビの焼きすきやきです。あぶるように焼いたあと、卵につけてお召し上がりください」

研修中の名札をつけたスタッフが二度目にもかかわらず、同じ説明を繰り返したので、マニュアル社会のバグが伝わってきておどろいたけど。

それよりも、おどろいたのは。

なんと、卵がもうひとつ、ついてきた。

まだわたしの器には、さっき溶いた卵が残っているのに、だ。

「これ、卵もらえるんですか?」

マニュアルにないことを聞かれたのか、彼女は、露骨に戸惑った顔をした。

「すきやきなので」

世界の真理のような答えだ。そんなことが聞きたいんじゃない。

「注文する度に?卵を?」

彼女はうなずいた。

衝撃が走った。


岸田家では、幼いころから、すき焼きの卵は一人につき一個だった。その一個の卵液を、大切に大切に絡めるのだ。〆のうどんで、きっちり最後の一滴がなくなるように。

べつに、一個までと家訓で制定されていたわけではないので「どうしても卵がほしい」と言えばもらえたと思うけど、子どもながらに、それを言うのは指してはならない一手のように考えていた。

だって誰も、卵のおかわりなんてしなかったから。

金曜ロードショーでディズニーの美女と野獣が映っていて、悪役のガストンが「ガキの頃には毎日 食べたタマゴ 4ダース♪」と歌っているのを見たとき、そんな家があるもんかと鼻で笑った。

ワンカルビはガストンだった。

焼きすきやきを4ダース頼めば、それすなわち、卵が4ダースついてくる。そんな錬金術があってたまるか。最高。

一人前の肉で、一個の卵は使い切れず、卵がどんどん追加されていくので、最終的には無限に湧き出る卵になってしまった。

辞書をつくる映画で、編集者が街に出て通行人の声に耳を傾け、新しい言葉を辞書に登録するという作業があった。その可能性を信じて、わたしは今日から「卵池肉林」という言葉を積極的に街で使っていこうと思う。


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子どものころの勘違いを、大人になってから気づくと、笑いが止まらなくなってしまう時がある。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。