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アヒルの犬か、アヒルの人か(もうあかんわ日記)

毎日だいたい21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。
イラストはaynさんが描いてくれました!

犬の梅吉が、吠えて、吠えて、吠えまくる。

散歩をしている時が、特に吠える。大興奮している。10棟以上ある集合マンションの敷地なので、これでもかと跳ね返り、朝も夜も関係なく、梅吉の咆哮が響き渡る。

人や犬が歩いていた時は「遊んで!構って!僕を見て!友だちになって!」と、特にギャンギャン吠えるが、なにもいなくても吠える。

「だめだよ」と軽くリードを引いてたしなめるとピタリと止まり、きっちり一秒後にさらに吠える。なんなんだ、妖精でも見えてんのか。

プロのしつけ屋さんや獣医さんに相談してみて、家でのしつけ、毎日の散歩の習慣化、オーガニックのサプリ、振動する首輪などいろいろ試してみたが、ぜんぜんだめだった。

本犬(本人の犬段活用)はいたって健康そうなので、なるべく人のいない時間帯を選び、できるだけ遠くの野っ原へ連れていき、それでも誰かとすれ違って吠えてしまうときは、梅吉をガッと抱き上げて抱え込み、猛烈ダッシュで走りすぎる。

そういう忍びの国の散歩を繰り返していたが、ここは田舎のどでかいマンションだ。ついに、管理人のおじさんからやんわりと「子どもや他のワンちゃんが怖がってしまうのだけれど」と注意が入った。

われわれ本人と本犬の不徳の致すところなので、誠に申し訳ない。

仕方がないから散歩はやめて、家でボール遊びでもして体力を散らすかと思ったけど、梅吉は散歩に行きたいと、キュンキュン鳴くのである。散歩は当然の権利、犬権だ。

でも、しつけを根気よく続けても、一向に出口が見えない。

数日間悩んだ結果、意を決して、梅吉に口輪を買うことにした。

口輪は賛否両論ある。普段はモノを食べたり飲んだり、コミュニケーションをとったりする口を、無理やりふさいでしまうのだから。犬にとって、ストレスになるに決まってる。

もし梅吉がいつまでも嫌がったり、外したあとにいっそう吠えてしまうようだったら、外すつもりだった。


シリコン製で、やわらかくて。

あまり締め付けが強くなくて。

梅吉が嫌がらなくて。

マンションで遊ぶ子どもが、怖がらないやつ。

三種類ほど買って、試してみたところ。

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これが一番、しっくりきた。

どないやねんこれはと思ったけど、本犬もまんざらではなく、これだけは外そうともしなかったので、暫定的に使ってみることにした。


あまりの様相に正直なところ笑ってしまったけど、同時に悲しくなってしまった。グウウ。

かわいいけど、これは、笑われちゃうかもしれん。

梅吉はバカ真面目にてくてくと散歩をしているだけなのに、めずらしそうにじろじろ見られて、笑いもの、ならぬ、笑い犬(の大冒険)にされるのは、本意ではないはずで。

しかも吠えることを封じられている屈辱。これではさらし者ではないか。梅吉の自尊心が下がったらどうしよう。わたしなら確実に下がってしまう。

だけど今のところ、梅吉を散歩させるために、口輪以外の方法が見つからない。


そしてこれは、ものすごくいやらしくて浅ましい話なんだけど、ここではわたしの素性が割れまくっている。

ボルボもデーンと停まってるし、車いすで母はブイブイ外出してるし、弟はウェイウェイおつかいに行くし、そりゃ割れる。

事情を知らない人からしたら「岸田さんがしつけを怠って、犬に無理やり口輪をはめていた」と、誤解されてしまうんじゃないか。いや、誤解じゃないんだよ。ぜんぶわたしのせいなんだよ。でも違うんだよ。わたしだって泣きたいんだ。

どうしたらいいか、わからなくなって。

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わたしも購入して、つけることにした。


母が昔、なんの言うことも聞かない(っていうかたぶん言ってることがよくわかってない)弟に、心から向き合っていたのを思い出した。

「あれしなさい」「これしなさい」と、弟に指示をするのではなく。母はすべて、一緒にやってみせた。

弟が食べないものがあったら、美味しい美味しいと言って食べて。草陰に忍者のように隠れながら、弟の登校を尾行し、立ち止まったら「あー!学校が楽しみだなあ!」と急に飛び出して、るんるん気分で先を行ったりてしていた。

当時は陽気なオカンだなあと思っていたけど、あれは弟に「お母さんだってやってるんだから、恥ずかしいとか、怖いことじゃないんだよ」と全身で伝えていただけなのだ。母はそれを、弟のために13年は繰り返した。

わたしもアヒルの口輪をつけて散歩をすることで「笑える口輪をつけられている、はずかしい犬」から、少なくとも「たぶんアヒルが好きそうな飼い主と、それに付き合ってあげている犬」に見えるのではないか。

アヒルの口輪をつけている犬よりも。
アヒルの口輪をつけている人の方が、注目されるのではないか。

わたしに興味が引きつけているうちに、梅吉は思う存分、散歩をしてほしい。大丈夫だ、わたしの自尊心は下がらない。きみのためなら、なんだってやってやる。わたしは岸田ひろ実の娘、岸田奈美だ。

そういう気持ちでさっき、満を持して散歩に行ってきた。

遅い時間帯で誰もいなくてホッとしたけど、梅吉がいつもと変わらず、しっぽをふりふりしながら縦横無尽に駆け回ってくれたので、明日もアヒルの親子でいようと思う。(口輪がなくて済むように練習もがんばっていこうね)


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明後日、いよいよ母が退院して、家に戻ってくる。主治医から晴れてオーケーも出たそうだ。

ひとつ問題があるとすれば、緊急手術からのずっと病院に缶詰だったので、服がないらしい。

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。