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【おまけの文ごはん】 田中泰延さんと岸田奈美


こちらの記事のおまけ雑談パートです。


子どもにはサッカリンくらい甘くても大丈夫

岸田:
今日は母が来ているのですが、どうしても、おもしろい田中さんがどうやって育ったのか知りたいらしくて。教えてもらえますか?

田中:
20年くらい前に亡くなった僕の父親がね、小さいころから僕をとにかく褒めたんです。

岸田:
どんなことで褒められたんですか?

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田中:
小学2年生のときに、読書感想文を書いて渡したら、パッと読んで「ひろ君は天才じゃ〜〜〜!ひろ君のクラスには何人おるんや?40人か。ひろ君に比べたら、39人全員がアホじゃ〜〜〜!ひろ君だけが天才じゃ。明日学校に行ったら、鼻で笑ったれえ」と。

岸田:
褒め方のクセが強すぎる。(笑)

田中:
だから自分が書いた文章に、どんな罵声を浴びせられても「ひろ君以外は全員アホじゃ」と認識していたので、なにを言われても「アホがなにをおっしゃっているのか」と思っていました。

岸田:
あの底抜けにおもしろい文章は、自己肯定感からきていたのか。

田中:
岸田さんも、お父さんとお母さんにものすごく褒められて育ったんじゃないですか?

岸田:
その通りです。39人全員がアホとは言われなかったけど、天才とはよく言ってもらいました。

田中:
自己肯定感とか承認欲求っていうのは、ほとんどの場合、子どもの頃に親が褒め倒すと満たされるんですよ。親が「最高や」って言ったらんと、誰が言うのかと。

岸田:
わたしが今、自信を持って、好きな文章を好きに書けているのは、母と父がベタ褒めしてくれたのがきっかけかも。だけど、それって「子どもを甘やかしすぎ」って親が責められることはないですか?

田中:
大丈夫。チクロかサッカリンくらい甘くてもぜんぜん大丈夫。

岸田:
チクロかサッカリン……?

(※ここで、チクロかサッカリンという懐かしいワードに手を叩いて母が笑い崩れる。昭和30年代ごろに流行った人工甘味料とのこと。生まれてないので、わたしは知らない)

田中:
文章を書くかどうかは別にして、僕も娘には甘いと思います。なにも反対しないし。

岸田:
読みたいことを書くには、まず自分への自信が必要だなとわたしは思いました。母や父に感謝していますし、わたしも大切な人を褒め続けていきたいです。あと、ボケ続けていきたい。

田中:
そうそう。今日僕がここに来るために、200メートルを8秒で走ってきた話なんですけど……。

岸田:
ええっ!?

田中:
そこは「ベン・ジョンソンですね」ってボケないと。


脂肪は嘘をつかない

岸田:
そう言えば、お写真で見るよりもすごく痩せられましたね。

田中:
断食しました。丸3日。

岸田:
わたしも3年前くらいに断食したことがあります!結構大変ですよね。断食期間中は酵素ジュースを飲んで、終わったらゆでた大根やお粥など、回復食から少しずつ摂らないといけないから。

田中:
そんなことしてませんよ。いきなり3日間水だけ飲んで、いきなり焼き肉を食べました。

岸田:
ええっ!

田中:
昔、医者に言われたんです。「田中さんの脂肪なら、たとえ遭難しても、水さえあれば90日間は死にません。脂肪は嘘をつかない」って。

岸田:
脂肪は嘘をつかない!(笑)でも、断食を止めたあと、いきなり脂っこいもの食べたら身体を壊しませんか?

田中:
よく考えてください。サバンナのライオンは、3日なにも食べてないなんてざらです。そこにシマウマが歩いてくるとします。「あー!シマウマや!でも俺3日なんも食べてへんから、まずは柔らかい鶏ササミからゆっくり口に入れな」って言いますか?言うてる間に死にますよ!

岸田:
死にますね……。

田中:
だから大丈夫なんです。世の中にはモノを売るために、いろんな嘘があるんです。

岸田:
広告や雑誌の情報を鵜呑みにする前に、図書館で調べた方がいいと。

田中:
そういうことです。(笑)


嘘も本当も、けなすも褒めるも、文字の羅列

岸田:
嘘と言えば、わたしがエッセイ書く時に「これは嘘じゃないか」って後ろめたさを感じることがあるんですよね。これは浅生鴨さんにも話したんですけど。

田中:
どういうことですか?

岸田:
父が亡くなった話とか、母が病気になった話とか、当時のわたしはつらすぎて受け止められなくて、都合の良いように記憶を改ざんしている可能性があるんですよね。ただでさえ忘れっぽいから、わたしが書くエッセイって、実は嘘なんじゃないかって思うんです。

田中:
嘘で良いじゃないですか。

岸田:
浅生さんにもそう言われました。

田中:
「火垂るの墓」を書いた野坂昭如は、出版から何年も経って「小説とは嘘ばかり。そしてぼくは、嘘が服を着て歩いているような人間だ」と言いました。つまり「火垂るの墓」は嘘なんです。真実はもっと悲惨だった。でも野坂さんは、妹に対してひどいことをしてしまった懺悔の意味を込めて、嘘を混ぜて書きましたよね。

岸田:
自分を癒やすために、小説という嘘を書いたんですね。

田中:
人が生きている限り、嘘ってキリがないんです。でも岸田さんがそれを読みたいなら、嘘だろうがなんだろうか、書いてもいいんだと思います。っていうかしょせん、ただの文字なので。

岸田:
ただの文字ですか。

田中:
たとえば僕の本『読みたいことを、書けばいい。』のamazonレビューを読んでみてください。

岸田:
いまスマホで開いて読みますね。

田中:
☆1の、ボロクソなレビューが30件もあるんですよ。

岸田:
本当だ。ボロクソだ。「半分しか読んでませんが」から始まるレビューが何件かあるのがおもしろい……。読んでないんかい。

田中:
それもね、ただの文字の羅列です。だから僕は気にしません。同じくらい、褒められても気にしない。けなしているのも、褒めているのも、文字の羅列。ただ時間を使って僕の本やツイートに言及してくれた労力は、わかっているつもりです。

岸田:
捉え方次第だなあ。書き続けるには、文字の捉え方を変えて、心を強く持つのも必要かもしれません。

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岸田奈美|NamiKishida
週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。