いまから30分間、オペレーターを増やしてお待ちしてるわけでもないですが買います(姉のはなむけ日記/第5話)
弟の「グループホーム、行けるかな?」という心配げな声を聞き、テレフォンショッキングのノリで「行けるとも!」と答えてしまった姉。
とにもかくにも、事情を聞かねばならん、ということで。
新しいグループホームの運営をはじめる責任者・中谷さんのところを訪れたのだった!
中谷さんに明るく迎えてもらったあと、母からぼやっと聞いていた話を、あらためて聞いた。
念願のグループホームを立ち上げようと思ったら、土地を貸してくれるオーナーがあまりに少なかったこと。
ようやく見つけて借りられたが、交通アクセスが悪いこと。
見学希望者はたくさん増えているものの、福祉作業所から通えないので諦める人がほとんどということ。
立ち上げにはお金がかかり、送迎車を新しく買って維持する余裕がないこと。
「そうやんなあ。こんな田舎の小さな福祉施設じゃ、どこも厳しいよなあ」とため息をつきながらも、もっと気になることがあった。
「それで、送げ……」
本題に入ろうとすると。
ジャンッ♪ ジャララランッ♪
シャンシャラララーン♪
仲間由紀恵 with ダウンローズを彷彿とさせる着メロが、だだっ広いリビングに鳴り響く!
意識が一気に平成へ引き戻される。iモード…バッテリーの裏ブタにプリクラ…浮気で逆パカ…前略プロフィールッ……あたしヒロのことずっと好きだった……!やめろ、やめてくれ……ッ!
「ああっ!すみません、ちょっと、失礼します、すみません」
中谷さんがぺこぺこと頭をさげながら、携帯を持って台所へ消えていく。
ほんで、5分くらい電話をして、戻ってくる。
これが一時間の会話で、三度はあった。TVerの広告か。
「大丈夫なんかな、このとっつぁん」
短気なわたしはゴリゴリに疑った。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。