驚きの白さのご本尊(もうあかんわ日記)
毎日21時更新の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。
イラストはaynさんが描いてくれました。
眠くて眠くてたまらず、日記を書く時間から、寝てしまった。
朦朧とする意識の片隅で「今日は遅れます」とツイッターに投稿したが、果たしてそれが現実か夢なのか迷った。さっき見たら、現実だったので、ひと安心した。
原因は王将である。
餃子一日8億個、でおなじみの王将だ。
母と「8億個ってすごいね」って感心していたが、正しくは100万個であった。空耳ですべてを覚えるくせ、大人なんだから、いい加減にどうにかしたい。
しかし、王将の餃子の売上は右肩上がりらしく、2018年の時点では餃子は一日200万個になっていた。少なくとも2000年のCMでは100万個だったので、このペースの倍々で増えると、えーと、何年後や。さっきちょっと計算したけど、なにひとつわからなくて愕然とした。でもたぶん、生きているうちに8億個は越えるんじゃないか。食は万里を越える。
なにを言いたいかというと、アホになってしまうくらい、王将が美味しかった。チャーハン大盛り、天津飯、からあげ、焼きそば、餃子二人前、酢豚をテイクアウトして家族で食べたのだが、食卓が「ガッガッガッ!」と人が飯をかきこむ音で埋まった。たまに「これ食べていい?」という静かな申告が入る。思考が停止する。目には、ラーメンに入ってるナルトの模様が浮かぶ。ぐるぐる。
いつもならご飯を食べて、20時くらいには「よっこらせ」とパソコンを開き、日記を書きはじめるのだが、今日は爆裂に眠たくなってしまったので、寝た。待たせてしまって、申し訳ない。わたしがきたぞ。
今日は朝早くから、洗濯機の搬入があった。
購入してから届くまで一ヶ月も順番待ちだったので、相当な売れっ子である。
つい先日無慈悲にもぶっ壊れた、十八年ものの洗濯機の代わりだ。よくやった、もう休んでくれ。
機種を選ぶまでが大変だった。
足腰がすっかり弱くなったばあちゃんにとって、縦型の洗濯機はだんだんしんどくなってきてる。さらにばあちゃんは脳のメモリが不足してきているので、効率化をはかるため、毎日の行動はオートマチックに近い。ほぼなにも考えず、79年もの歳月ですりこまれた習慣だけで洗濯機をグワングワン回しているので、洗濯もんの量が多かろうが少なかろうが、関係なく同じ洗剤の量で回すし、なんなら空でも回すだけ回す。
こうなれば母も洗濯に参戦できた方がいいけども、縦型の洗濯機では車いすで届かない。ドラム式洗濯機の一点突破。
フィルターや洗剤の投入口が手前にあるもので、操作ボタンもしくはタッチパネルが車いすに座ったままでも見える角度に設置されており、洗剤も適切な量を自動投入、おまけにうちのスペースにデンと置けるものとなると、選択肢が二種類しかなかった。
PanasonicのNA-VX900BL/R。清水の舞台から飛び降りる気概で買った、最新機種だ。うちの家にある家電のなかで一番高い。4ヶ月前はボルボを買ったので、舞台からは二度、飛び降りている。バンジージャンプの名所ではない。
業者のお兄さんたちがやってきて、満身創痍の縦型洗濯機をまず、運んで引き取ってくれた。
「じゃあ、パンの掃除をお願いします。僕らこれトラックに運んでくるんで」
お兄さんから言われた。
パンの掃除ってなんだ。頭のなかに世界で一番美味いパンことSIZUYAのカルネが無限に浮かんだが、どうやら、洗濯機をデンと置いてるあの白いステージみたいな場所のことを、パンと言うらしい。
十八年ぶりに、明るい場所にさらされるパンを覗き込んだ。
「オワーーーーーッッッッッッ」
信じられないくらい汚かった。別の部屋で吠えまくる梅吉を必死で押さえこんでいる母が「雑巾!洗面台の下に雑巾あるから!」と叫ぶが、もはや雑巾でどうにかなる汚れではない。
ちょっと撫でただけで雑巾が「すまんな」と言いたげに、闇に染まった。世紀末はここにある。
「アワワワワ」
人間は、手に負えないくらい汚いものを前にすると、茫然自失としてしまう。闇に飲み込まれるとはこのことである。
あっ、そうだ。
大掃除用にAmazonで買って結局使わなかった、電動回転ブラシがあるではないか。これで汚れを浮かせよう。
キュッ、バチン。ギュルル。
銃みたいな形のブラシを取り出し、電源コードをつないだ。ブラシ部分がいい感じに回転する。そこにちょっと洗剤をつけて、いざ、ドロドロのパンに当てた。
ブババババババババッ
「オワーーーーーッッッッッッ」
泥のような汚れが、ブラシの勢いに乗って、右回りに飛び散っていく。わたしの服にすべての汚れが飛んできて、なんか、そういう参加型のアート作品みたいになった。
玄関のあたりではすでにドラム式の洗濯機が到着しているらしく、ばあちゃんとお兄さんが会話している。
「まあ!こんなに新しくて、大きくなるんですねえ」
「そうなんですよ。乾燥もばっちりできるんで、便利ですよ」
「乾燥?いややわあ、お日さまで干さないと、気持ち悪くて仕方ないでっしゃろ」
「えっ」
「手が一番やわあ」
「ええっ」
元も子もない論調が聞こえてくるが、悲しみのダブルパンチでどうにかなりそうだったのでお耳をシャットダウンして、粛々と着替えた。
このドロドロの服が、新しい洗濯機のはじめての獲物になるのである。相手にとって不足はなしだ。
どうにかこうにかパンを掃除し終わって、ドラム式洗濯機も設置が終わった。
母と弟はたいそう喜んで、「はやく洗濯してみたいわ」と言うので、さっきのお陀仏になった服を放り込んだ。すると弟がわくわくして、その場ですべての服を脱ぎ捨てて同じように放り込んだ。村の祭りである。
「はあ、かしこいわあ。すごいわあ」
「すごいわあ」
称賛を連呼しながら、しばらくせっせと働く洗濯機を眺めていた。
全自動なので2時間もあれば乾燥までチョチョイのチョイなのだが、ことあるごとに現場監督かのごとく、様子を見にきて「やっとるわ」と感心する。称える回数と値段からして、岸田家のご本尊といっても差し支えない。
今日からうちのご本尊は、ドラム式洗濯機です。
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大学受験に四苦八苦していたころだったと思う。
部屋に夜食をエッチラオッチラ運んできた母が、ふと語りはじめた。
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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。