
飽きっぽいから、愛っぽい|空白の記憶に、視点を願う@鈴蘭台
キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代1月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。
表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。
人生は間違いなくひとつだけど、紙の年表みたいに平面的ではなく、彫刻みたいに立体的だ。
眺める角度や高さによって、見えてくるものがぜんぜん違う。ひとつの人生を、たくさんの視点を行き来しながら、わたしは味わっている。
美術館で、絵画を楽しむようだ。
ハッとする。
ちょっとちょっと、わたしったらいま、ちょっと頭のよさそうなこと考えてたんじゃないの。急いでメモっておかないと。みみっちいわたしは、自分をかしこそうに見せる材料を余すところなく丁寧に拾い集めておく。
「岸田さん、もしかしてこのあとのご予定が迫ってますか?」
弾かれたように尻ポケットのスマートフォンを取り出して操作し始めるわたしを見て、熱心に話を聞いてくれていた記者さんが、あわてて声をかけてくる。
「あっ、いえ。すみません、思いついたことをすぐメモしないと気が気じゃなくて」
「へえ、エッセイストっぽい。なにを思いつかれたんですか」
「人生の視点です」
さっきまでゲラゲラ笑いながら、おばあちゃんが食材をなんでも冷凍するので困っているとか、昨日までDJ KOO氏と内田裕也氏を同一人物だと思っていて知人と話が嚙み合わなかったとか、そういうアホな話をしていた空気が一変したので、記者さんはギョッとしていた。
この日、わたしは人生ではじめてとなる書籍を出版し、人生ではじめてとなる一日七件もの連続取材を受けていた。
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