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【続】一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた


出頭命令が届いた。
ブラデリスニューヨーク(下着の店)からだ。

今日までの、私とブラジャーの顛末は、こちらをご覧あれ。

というわけで、私、もっぱら乳を育んでおりまして。
もはや、育むっつー言葉すら、生ぬるいわけで。


なんだろうな。

固めてる、かな。


感覚的には、土木建築。

更地に、城を建ててんのよ。
周りの人たちには、悟られずに。
こっそりと。

なんつーか、もう、奇策の域っつーか。

確実に黒田官兵衛が出陣してる。私の胸に。
一泡、吹かせようとしてる。私の胸で。

毎朝。
足を肩幅に開いて、前かがみになって、乳を詰め込むのよ。
泥をかき集めて、固めて堤防を作るとか、そんな感じ。

成果はね、あった。
確実にあった。

ただ、ね。
ほら、私、根がズボラだから。

結構、さぼっちゃう日、あるんだよね。

「あれ?ちょっとここ、土砂崩れてね?」とか気づいてても、そのまま着ちゃう。


うん。


ところで。
ブラデリスって、3ヶ月に1回、店に行かなきゃなんだけど。

乳の育み具合と、ブラのメンテしてくれる、ありがたいサービスがあって。

でも、私ったらね。
ズボラがバレるの怖くて、行けなかった。

いや、正確にはね、行こうとしたの。
行こうとしたんだけど、予約の電話入れた時にね。

「あのう、二回目の予約したいんですけど」
「はーい!お名前をどうぞ」
「岸田奈美です」
ブフォッ(笑)少々お待ちください」

いやもう、どう考えても、フルネーム割れとる。

あれだけ、散々、ブラデリスへの愛を叫んだのに。
堂々とサボってる恥ずかしさったら、ありゃしねぇ。

だからね。
本当に、本当に、お店の人には申し訳ないけど。

私、2回も、予約をドタキャンしてしまいまして。

いや、あの、お店にご迷惑がかかるなら、あれなんですけど。
どうも尋ねたら、キャンセル待ちの人に順番が回るってんで。

まあ、それなら、仕事も忙しいし、うん、またの機会に……。

っていうのを、2回繰り返した、結果。

ついにブラデリスから「そろそろいかがですか」的なハガキが来ました。

ハ、ハガキ〜〜〜〜〜!

紙媒体の重み〜〜〜〜!

「ええ加減に腹くくらんかい」と、ほぼ同義。
収集令状。

逃げようがない。

(※ブラデリスは私の胸を心配してくれる、素晴らしいお店)
(※押し売り等は一切ございません、すべては私のズボラが原因)

っつーわけで、腹くくって、行ってきた。

テンションが完全に、出頭。
おっぱい保護観察期間をまっとうできなかった、後ろめたさ。

もうねー、何度、道中のつばめグリルに逃げ込もうと思ったか。
肉を詰め込んでる点においては、つばめグリルの工程と一緒なのに。

「いらっしゃいませー!お待ちしてました!」

4ヶ月ぶりに、神田うの(のような店員さん)に迎えてもらった。

そんで、試着室にダイレクトイン。
話がはえーの、なんのって!

「脱いでくださーい!」と、笑顔の神田さん。

脱いだ。

「んー、位置がよくないですね」

間髪入れずに。
見極めるの早すぎ。強打者じゃん。

「ストラップって調節してますか?」
「いえ。買った時からこのままで……」
「ああ、じゃ、重みで下がってるんですねえ」

失礼します、と断って、右肩のストラップをいじくる神田さん。

ビビった。

右乳が、急に上がった。

上がったっつーか、もう、飛んだ。
川合俊一かと思った。

「えっ、うそ、こんな、えっ」
「左も上げますね」

右乳の川合俊一に続き、左乳の井上謙も飛んだ。
日本が誇るスーパーブロッカーが、私の胸の大舞台で舞う。

空前のバレーボールブームが、今、到来。


川合俊一と井上謙の絆で、久方ぶりに谷間がお目見えした。

「うーん、本当ならもうちょっと、お肉が集まっててほしかったんですけどね。ちょっと、一人でつけてもらってもいいですか?」

言われるがままに、一人でブラを着けてみた。

途中、肉の寄せ方を完全に失念してて、無理やり両脇で寄せた。

「風の谷のナウシカ」で、飛行船の窓ガラスをブチ破って突入するユパ様のポーズになった。

「駄目ですね、ちゃんと着けられてないです」
「うう……」
「ちょっと、その場でピョンピョン飛んでみてください」

急に?

耳を、疑った。
カツアゲかと。

しかし、従う以外の選択肢がなかった。
素直に、飛び跳ねた。

ドスン、ドスン、という虚しい音が、試着室に響き渡った。

たぶん、この瞬間。

ハイセンスな大人たちが集う、この恵比寿で。
ブラ丸出しで飛び跳ねてる女は、私しかいないはず。

「ほら、ちょっと前が開いちゃいますよね」
「たしかに……」
「見ててください。まず、背中の肉を、これでもかと前に持ってきます」

ぐいーん。

「それから人差し指と中指を揃えて、前の肉の間に突き刺します」

ぶすうっ。

「最後に、ワイヤーを思いっきり上へ引っ張ってください」

ぎゅーん。

「ほら!こうやって毎日寄せると、肉がクセづくんですよ!」

すごかった。

肉がクセづくというパワーワードはともかく、すごかった。
我流で着けた時より、胸の形がぜんぜんキレイに見えた。

「じゃ、最初から一人でやってみてください」

そこから15分間、猛特訓が始まった。
神田'ズ 寄せ上げブートキャンプ、突然の開幕。

乳軍曹、爆誕。

城は、一日にして成らないのだ。
黒田官兵衛でも、これは、仕方ねぇわ。
自分のなめた行いを、反省した。

さて。
伸びたブラのワイヤーをお直ししてもらうついでに、相談もしまして。

それが、ナイトブラって代物で。

夜、寝る時に着けるブラってのがね、あるんですよ。

びっくり。

ブラデリスじゃなくて、通販で買った安いやつを使ってたんですけど。
このままでいいのかなって、ちょっと不安になったもんで。

「あのう、ナイトブラも買い替えたいんですけど」
「はいっ!いつもはどんなの使ってらっしゃいますか?」
「これです」

私は、スマホで、通販のページを見せた。
フリルいっぱいの、ピンク色の、ナイトブラ。

完全に、狙ってった。
男ウケを、狙ってった。

見せる相手もいないけど。
まあね、備えあれば、憂いはないから。

なんつーか、こう、いざという時にね。
カワイイねとか、言ってもらいたいしね、エヘヘ。

うん、まあ、ね。

神田さんが出してきた堅牢すぎるナイトブラに比べたら、
私のナイトブラ、和室の障子並みに、心もとなかったけど。

「え?お前、そんな頼りなかった?」って、戸惑った。
あんなに頼もしかったナイトブラの背中が、少し小さく見えた。
帰省でもした気分だね。

なんだろう。

まず、ホックが、3つあるの。
寝返り打っても、1mmも緩まないようにだとか、なんだとか。


ケルベロスコードかよ。
堅牢すぎるわ。


「フリル…というか、カワイイ飾り全般、引っかかって邪魔なので」
と容赦なく言い放つあたり、もう、乳軍曹。

男は裏切るが、乳は裏切らねえ、とでも言い出しかねない。
うん、それはまあ、大体あってる。

というわけで、胸にアメリカ国防総省が開局しました。

今日も元気に、土木建築しています。
ブラも人生も、飾らずに生きていこうと思います。


※イラストは、mihoさんが特別に描いてくれました。本当にありがとうございました。

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岸田奈美|NamiKishida
週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。