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岸田家の読むゴハン(魔法の台所と五目そぼろ)


とにかく楽しそうに料理をするのが、私の母だった。

ジュウジュウと油が弾ける音が聞こえてきたら、母の料理が始まった合図だ。
小学生の私は示し合わせたように鳴る腹をさすりながら、皿を取りに行くフリをして、台所に立つ母を覗く。

正確には、母の跳ねるように踊る手元を覗く。
フライパンの中身が好物だったら、伴奏するように小躍りしながら、私は食卓の準備をする。

美味いかどうかより、好物かどうかが重要だった。

「母の料理のすごさ」をようやく思い知ったのは、一人暮らしを始めてからだ。

まず、めちゃくちゃ美味い。これは子どもの頃気づかなくて、色んなものを食べる大人になってから気づいた。
パァッと鮮やかで華やかで、目から美味さが飛び込む。
さらに、栄養がこれでもかというほど考えられている。
処理が面倒だったり、高かったりする野菜が、惜しげもなく投入される。

驚異的だったのは。
母が料理を持って台所から現れてくる頃には、台所がピカピカに片づいているのだ。

あんなに手間かけて料理作ってるのに、どういうことやねん。

「料理はな。楽しくやるのと、片づけしながらやるのが肝やで」

母の口癖だった。

どうやら、我が家の台所は、魔法の台所だったらしい。



大人になった私は思い立って、母に料理を教えてもらうことにした。

最初はLINEで一挙一動を報告しながらやっていたのだが。

「きぬさやは、ゆがいて直角に切ってな」
「直角って何に対して!?きぬさやってどっちが下!?」

などと言う、テキトー人間同士の認識の相違が度々起こったので。

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こちらの台所と、あちらの台所を、ビデオ通話で繋いだ。
ちなみにあちらの台所でも、夕飯の仕込みが行われるらしい。

記念すべき最初のメニューは「岸田家 秘伝の五目そぼろ」である。
作り方と、それにまつわるトンチンカンな話をここに残す。

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28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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コメント (2)
夜中に読むもんじゃ無いっすね。完全に口の中がそぼろご飯になってる( -`Д´-;A)
片付けながら料理出来る人って尊敬しかないですね。散らかしながらなら得意なんだけどなぁ。
お父さんが申された「晩ご飯カレーやったら朝に伝えて欲しい」って、
コレわかルゥーー!
「今晩はカレー♪今晩はカレー♪」ってウキウキして呪文唱えながらそそくさと少な目ランチ済ませるお父さんが見える!見えますゾ!
私も晩カレーに備える人なんで!
テヘッ……
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