今週のもうあかんわ「見知らぬ森の老婆」
みんなの「もうあかんわ」な話を、岸田奈美が趣味で集めています。
もうあかんすぎて、もうだれかに笑ってほしいという叫びたちなので、みんなで笑い飛ばしましょう。笑うだけで人の役に立てます。
はじめた趣旨などはこちらから
ヘッダーのイラスト……アヤさん
はい、じゃあ、今週のもうあかんわ、いってみよ!
※掲載されたみなさんに「もうあかんわ特製ステッカー」を、毎週のMVPには「お見舞金 1000円(図書カード)」を差しあげます。掲載された人には、メールかDMで連絡がいくので、しばらくお待ちください。
【今週のMVP】見知らぬ森の老婆(Ray)
祖母が亡くなる少し前、入院先へ初めてお見舞いに行った。
慢性期病棟の穏やかな空気に助けられながら、ナースステーションに案内をお願いする。
看護師さんは、わたしの顔を見るとやわらかく微笑んで
「ああ、よく似ているからすぐにわかりましたよ。そちらのお部屋です」
と言ってくれた。祖母の名前を伝えるよりも早く。
祖母とわたしは、たしかによく似ている。だから気を利かせてくれたのだろう。こうした温かい対応は、数多いる患者の表情にまで気を配っているからこそ、できる証左であろう。患者や家族を想う愛情に温められ、教わった部屋で、ベッドを覗き込む。
全く知らない人だった。
初めてまみえるおばあさんが、昏昏と眠っている。
似ているだろうか、わたしに。部屋を飛び出すまでの数秒で頭を巡らせたが、わからなかった。
そのころ祖母は、いくつか離れた部屋で、医療用ミトンをつけた手をブンブン振って、常変わらぬ1日を刻んでいた。
岸田より
プライバシー漏洩リスクがどんどん厳しくなってきていて、病棟では簡単に患者さんの名前を教えてくれないことが増えてるけど、これは逆にリスクが鬼のように高すぎて笑う。FBI捜査官並みの技術が必要。
おでこにずっと(えつこ)
一人暮らしをしていた、28歳のころ。
夕方お風呂に入ったあと、簡単なスキンケアだけして、近所のスーパーへ行った。卵やら牛乳やらを買って、家に帰った後にふと鏡を見た。
自分のおでこに、化粧水コットンが張り付いていた。お風呂を出てからずっと。
レジのお姉さん、むしろ笑ってくれよ。
岸田より
美意識が高いタイプのキョンシー。
三度目の献血(すず木)
献血をしたくても、ずっとできずにいた。
1回目の献血は、事前検査をしようとして、腕のあせもにより注射針を刺せずに中止。
2回目の献血は、事前検査をしたら、ヘモグロビンが足りずに中止。
栄養指導を受けて「鉄分は一日にして成らず」とのお言葉をいただき、帰宅。不可続きで10年は立ち直れずにいた。
そして待ちに待った3回目の献血は、血圧が足りずに中止。
と、思いきや、カイロとホットコーヒーで体を無理やり温めてもらって再測定、血圧をクリアし無事に献血デビュー!
献血が終わったあと、家に届いたハガキで知ったが、肝臓の値が基準値から大きく外れており、わたしの血は廃棄されたそうだ。
岸田より
献血への執念がすごいが、こういう執念のおかげで命も救われていると想うので、この人の頑張りは献血ポスターになってほしい。
置いててください(青野理人)
引っ越しした新居で、搬入してもらった荷物を確認してもらったところ、ダンボールがひとつ足りない。
通勤用の革靴も含めた数足の靴を入れており、いま履いているスニーカーでは出社できない。運悪く、このあとすぐに出張の用事があった。
半泣きで引っ越し業者に相談し、トラックの中も捜索してもらったが、見つからない。
家の中で待っているだけでは気が落ち着かず「実は搬入する時に、どこかでポロッと落としちゃったんじゃない?」と、半信半疑で外に出てみた。
あった。
マンションの一階 共用エントランスの、ポストの上に。
混乱しつつ、下ろしてみた箱には、自分の字でしっかり書いてあった。
「靴 玄関に置いてください」
岸田より
「落語やってんじゃねえんだぞ!」と言いたくなってしまう、落語のような話。きっと引っ越しの作業員さんがドセレブで宮殿にでも住んでて、でかい玄関しか玄関にあらずと思ったんでは。
初手、お茶づけ(ハシマトシヒロ)
二十歳になったばかりのとき、女の子と初めて居酒屋に入った。
お茶漬けがシメの食べ物だとは知らず、むしろ「すきっ腹にアルコールを入れて悪酔いしないための前菜」だと思っていた。
精一杯の大人の顔をして
「とりあえず、お茶漬け2つ」
と注文した。
店員さんの「えっ……!?」っていう顔と、彼女の「ホントに合ってるの?」って言いたげな顔が忘れられない。
岸田より
京都における「最後にぶぶ漬けを出す=はよ帰れの意」の斬新すぎる逆パターンとして定着してほしい。「最初にお茶づけを食う=居座ったるからなの意」。
もうあかん話の投稿は、こちらのフォームからお待ちしてます!