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Creepy Nutsの武道館ライブが良すぎたから話を聞いてくれ

九段下のロイヤルホストで、武道館に行ったその足で、ぼろぼろの泣き顔で、これを書いている。

ほかに仕上げないといけない原稿も、返さないといけないメールもあるのに、なぜだか突き動かされてこれを書いている。

でも、言い訳も用意してる。


Creepy Nuts(クリーピーナッツ)が、良すぎたから。


ただそれだけを、どうにかして伝えないといけない気がして、Twitterに書いていたけど途中から「140文字で書けるわけねえだろ!」とスマホを投げそうになり、noteを書き出した。

構成も修正も考えてないので、様子のおかしい箇所もあるけど、フリースタイルラップならぬ、フリースタイルnoteとして読んで。Creepy Nutsが良すぎたから。


そもそもわたしは今日、はじめてCreepy Nutsをちゃんと聴いた。武道館で。


Creepy Nutsっていうと、ヒプノシスマイク(イケメンキャラクターがラップで殴り合うやつ)の大阪ディビジョンにかっちょいい曲を提供した人だとか、ラッパーとDJなのにバラエティ番組でよく見る気がする人だとか、そういう、居酒屋の酔っぱらいが語る人生論くらい浅い浅い認識しかなかった。ごめん。

メンバーのDJ松永さんの友人だというGOの三浦さんが「招待してもらえるけど、行く?」と誘ってくれたので、偶然ノコノコやってきた。ごめん。

というわけで、Creepy Nutsがどういう二人組ミュージシャンなのかを説明する間も惜しいし、ロイヤルホストはあと30分で閉まるので、知らない人はWikipediaを読んできて頼むから。


武道館のライトが、ふっと消える。心臓の鼓動を代わりに打つくらい、迫力のある重低音がズンズン鳴り響く。中央のステージに現れた、マイクを持つR-指定さんと、ターンテーブルの前に立つDJ松永さん。

ただそれだけ。武道館にしては、シンプルなセットでガラあきじゃんスペース勿体ねえ〜〜〜〜、とか思ってた。

R指定さんのラップが始まる。えっ、速。なのに噛まない。しかも聞き取れる。しっかりと。詠唱かと思った。超速詠唱。

御託並べて斜に構え
蚊帳の外から眺める数合わせ
流れ流され人任せ こびりついて取れねえ
「どうせ俺なんて」
勝つことも、負けることも
そして喜ぶことも、まして泣くことも
できずどっか他人事
早く気づけよそこもガチンコと
はたから見れば小さなステージか?
取るに足らないありふれたページか?
そこは裏面?日陰?知ったこっちゃないぜ
もうとっくに幕は上がってんぜ
ーCreepy Nuts「スポットライト」

聞き入ってしまった。

これ、最後まで聞くとわかるんだけど、人生の歌なの。たぶんR-指定さんと、DJ松永さんの。つまり実話。限りなく愚直な実話。

この曲を聴いて、浮かび上がったストーリー。

今回は二人にとって、はじめての武道館だ。それまでは、スポットライトすら用意されているかあやしい小さなステージに出演していたはず。そこで主役になれない二人は、どこか失敗を恐れ、卑屈でいた。

だけどそこも、幕が上がれば、本当は武道館と変わらないステージだった。恥も恐れも捨て、いつも立っているその場所で、全力の覚悟を示せ。そんな決別と決意をした、二人の歌だ。


知らんけど。


そう、知らんのだ。

わたしは今日、はじめて二人の歌をちゃんと聞いた。境遇もわからなければ、曲の成り立ちもわからない。だからこの解釈が合ってるかどうかは知らん。大阪に住んでるオカンの歌とかの可能性もあったらごめん。

でも、すごくない?
一度、武道館で聞いただけで、歌詞の意味がスッとわかるの、二人の人生が心に流れこんでくるの、すごくない?

知らん曲が終わり、知らん曲がまた始まる。

良いモン買うより良いモン食うより
良い文句思い浮かんだ瞬間
何にも変え難い贅沢
この口数手数
ワンフレーズ、お前のアルバム一枚分ある情報量
んで1バース、お前のアルバム10枚分ある骨密度
んで1曲、お前のアルバム一生分越す満足度
このレトリック10年後ハッと気づかすトリック酔いしれろ
ーCreepy Nuts「耳無し芳一Style」

この曲にいたっては途中から、わたしのことだと思って目を閉じ、ジーンと聞いていた。情緒が壊れるかと思った。己に取り込むまでの速さが、ヨドバシエクストリーム便並み。

それで、あっというまに11曲、時間にして1時間強を聞き入ってしまった。MCでR-指定さんが喋りだすころには「ああ、あんなに苦労しとった二人が、今はこんなに立派ァなってえ…まあ……」と、どこぞの存在しない故郷の婆さんのような眼差しを向けていた。さっき知ったばかりなのに。恐ろしい。

はじめて聞いた11曲で、Creepy Nutsの二人が歩んできた人生を追体験し、自分の人生に重ねて感情をアホみたいに揺さぶられた。

コンサートでそんなことになったことって、あるか。なかったぞ。


なんでそんなことになったんや。


でもそれは、R指定さんの言葉を聴いて、よーくわかった。

「HIPHOPっていうのは、いちばん、人柄や思いがそのまま出てくる音楽だと思ってます」

うろ覚えだけど、たぶんこんなこと言ってた。

なるほどなあ。ラップって、すげえ速いじゃん。わけわかんなくなるじゃん。ほぼ語りじゃん。あれって、自分の話じゃないと、あんなに覚えらんないし、スムーズに言えないじゃん。わたしならそうだよ。


でも、それってすごくない?


だって、Creepy Nutsの武道館ライブ、2時間半くらいあったよ。

普通は2時間半もさ、他人の話を一方的に聞いてらんないもん。バカな笑い話ならまだしも、暑苦しい思いとか、悔しさとか苦しさとか、そんなの聞いてらんない。

稲川淳二の怪談話ですら、1時間くらいで終わるのに。2時間半も。

そう。


本当に自分が世界に言いたいことって、思ったより世界は、聞いてくれない。


だから、彼らはHIPHOPに乗っけたのだ。R指定さんの聞いてるだけで気持ちいいラップと、DJ松永さんの「彼はなにを…なにをしてるの…人間の動きではないんじゃないの…」って言いたくなるようなターンテーブルのプレイ。

あれなら、なんぼだって、聞きたくなる。聞いてるのが楽しい。二人の人生のなかに、引きずり込まれる。突き動かされる。大好きになる。


あっ。だから、わたしはエッセイを書いているんだ。

MC終わって「日曜日よりの使者」がはじまった瞬間、唐突に、使命のようななにかを自覚した。一生の内、一度でも使命を感じられた人間は幸福だとだれかが言った。一生分の幸福、ここで使ってしもたんか。マジか。

わたしの人生は、ダイジェストで見ると、とにかく暗い。家族の死や病気や障害を抜きにしては語れない。でも、暗いなんて言葉で片づけたくない。わたしは家族から満たしてもらったたくさんのものを、伝えたい。

でも、暗い話なんて誰も聞いてくれないから。
とにかくおもしろく、わかりやすく、テンポよく伝えることを選んだ。

わたしたちは、人に大切な話を聞いてもらうための、特別な拡声器を、ドロドロの泥の中から探し出して掴み取った者同士なのか。


若者は俺の話を聞いてくれんって居酒屋で飲んだくれてるオジサンは、ラップをやりなよ。琵琶法師みたいに琵琶を弾きなよ。ただ話したって、言葉は世界からこぼれ落ちて消えていくんだよ。

いい作家は、自分に取材し続けられる人、らしい。きっと作詞のR-指定さんも、取材をし続けて、言葉を拾い続けて、届くように練り続けてきたんだろう。


さて。

ものすごい鋭利な角度から勝手な似たもの意識を持ってしまった。もうこのまま、このテンションのまま、最後まで駆け抜けたいと思う。

あと、もう一つ、首が取れるかと思うほど強烈にうなずきたい、R-指定さんの言葉があった。

「ラップのいいところは、大声で人に話せば、本当は自分がこんなこと思ってたんだって気づけること。それで、いつかもう一度歌ったときに、『ああ、こんな小さなことで悩んでたんだな』と思い直せること。今とは考え方も違うラップだからこそ、歌うたびに、あの時の自分に戻れる。それが楽しい。生きていける」

わかりみの深さ、ドーバー海峡のごとし。

そうだよ。わたしもエッセイを書籍化する時、1年前に書いた原稿見て、奇声を発して破り捨てたくなったもん。幼さも愚かさも、全部盛りだもん。

だけど、その原稿が今の自分を肯定してくれる。それを食べて生きていける。原稿で食べていくのではない。原稿を食べて生きていくのだ。


もうね、まさかCreepy Nutsのライブに行って、自分の人生を肯定してもらえて泣くとは思わんかった。


よかった。本当に、この大変な時期でも、諦めずに武道館ライブをやってくれてよかった。 

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本当は1日だけの予定だったんだけど、チケットを全部払い戻して、2日間にわけたんだって。なぜかって。席数を2分の1に減らして、ソーシャルディスタンスを保つため。

これさ、払い戻しとか問い合わせとか、どれだけ運営の人は勇気がいったことだろう。でも、絶対、その甲斐はあったよ。わたしみたいな人が、きっと会場に何千人もいるよ。もちろんオンライン配信の向こう側でもね。

人数が少なくても、注がれる愛の多さが変わらなければ、すばらしいライブになるんだな。ファンの人の対応がね、本当に、愛にあふれてる。

飛沫が飛ぶから、声を出すのはだめで、お客さんはマスクを装着したままなんだけど。

喋らずに、全員で息をあわせて拍手でリアクションするっていう、無言の連帯感がすごかった。


MCのとき、DJ松永さんが「ナンバープレートの番号考えてくれってお題を入れた人〜!」って呼びかけたら、お客さんが手を上げるんだけど、見えるわけないじゃん。武道館で。

だから、周りの人が拍手してあげてて。パチパチパチ〜って、聴こえてきて、みんなでそこを見る。そしたら手をあげた人がいる。すごい。

「いまのラップ、間違えてなかった?」
「お題8つとも言えてた?」
「俺もわかんね。どうだった?」

って、二人がオロオロしてたら、お客さんは盛大な拍手で「言えてたよー!」って声にならない返事をして。シンと静まり返った武道館だったけど、そこにはたしかな愛があったし、ちゃんとライブだった。愛に触れられる、あの日のライブだった。


Creepy Nuts側の演出も愛にあふれてた。


今回、1日だけだったのを、直前で2日間にしたんだけど、なんと最後の曲「グレートジャーニー」でバックスクリーンに「1日目のCreepy Nutsのライブの様子」が投影されるの。曲と完全にリンクして。つまり、今日の二人と、昨日の二人が、同じタイミングで歌ってるの。分断していた時間軸が交差する。二手に分かれてしまったみんなが、いま、同じ時間を過ごしている。新海誠かよ。泣くわ。上映してくれ。


よかった。

よかったなあ。

Creepy Nuts、本当によかった。大好きになった。

DJ松永さんが、感動して泣いちゃって、タオルで顔を抑えてMCできなくなってしまったのを見て「武道館が現存する限り推すわ」と思った。たとえ取り壊されようとも推す。Creepy Nutsのために街頭募金になんぼでも立つ。ちなみに初日は泣きすぎて、終わったあとに楽屋から出られなくなったらしい。


ライブのタイトル「かつて天才だった俺たちへ」は、赤ちゃんだった頃のことを思い出せ、と二人がわたしたちに語りかけている。

世間にもまれず、けなされず、泥のついていない赤ちゃんだった時のわたしたちは、みんなが天才だった。なんにでもなれる気がした。いまこそ、その気持ちを思い出すのだ。

ふとした瞬間、ふとした言葉で、目から大粒の涙が零れそうになるDJ松永さんに、R-指定さんが「もう!この子、なにで泣くかわからんから困るわ」という呆れ声が、まさに赤ちゃんへの対応すぎて笑った。

「ジャスミンティーがな……ってジャスミンティーっていう言葉は大丈夫?泣かへん?泣くワードじゃない?大丈夫やな?」

探りながらのMCは、さながら地雷原を張って進むような緊迫感で、この緊迫感はDJ松永さんを泣かせないためにあるのだと思うと、おかしかった。人間くさかった。ああ好きだ。Creepy Nuts。結局、爆泣きしてたDJ松永さんも最高だ。


この武道館ライブに関わった人、運営さんもお客さんも全員、一生うまい寿司を食って暮らせますように。


※うろ覚えで勢いだけで書いてるので、ところどころ違ってたらすみません。愛のちからで補完してください。あの場に足を運んだ皆さんも主役だよこれは。

※有料でアーカイブ配信も観れるらしいです!
https://creepynuts.com/tour/1manTour2020-2021.html

※どうしても静かに落ち着いて聴く人が多い関係者席にいたんですけど、前の席の人が最初から最後まで超楽しそうにノリノリで聴いてて「DJ KOOさんみたいな服着てるね」って隣の人にささやいたら。

本人やないかい。




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岸田奈美|NamiKishida
週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。