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流した男と、聴いた女と、繋いだ男の邂逅〜なぜ、槇原敬之が聴こえたのか〜

新幹線のぞみ64号の4号車で槇原敬之を聴いてから、5日間が経った。

この話には、新幹線で槇原敬之を聴いた女・岸田と、新幹線で槇原敬之を流した男・泉山と、偶然流れてきたツイッターのタイムラインで二人を見つけて繋いだ男・岡田(岸田の相互フォロワーで、泉山と同じ会社の先輩)が登場する。

もう二度と会えないであろう奇跡の共演にセンチメンタルを感じていたら、普通に連絡が取れたので、普通に会ってみた。

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左から、岡田さん、岸田、泉山さんである。

邂逅の舞台は、岡田さんと泉山さんが働くオフィスに決まった。

新幹線で槇原敬之を爆音で流していた男は、非常に心地よさそうな環境で働いていた。このオフィスなら槇原敬之を爆音で流していても、温かく受け入れられそうだと思った。

そもそも、なぜ槇原敬之が爆音で流れたのか

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泉山「これです」

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岸田「クレヨンしんちゃんに出てくる、チョコビのワニ?」

泉山「(パカッ)」

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岸田「ウワアアアアァァァァー!!?!?ヒライタァァァ!!!!

泉山「AirPods(ワイヤレスイヤフォン)です」

岡田「ケースのクセが強い」

泉山「ケースのクセが強いんです」

岸田「AirPodsって、ケース開いたらすぐiPhoneと接続されるのでは?」

泉山「それが、僕、いつもAirPodsはノートPCと接続して、作業中に使ってたんです。だから新幹線に乗ってた時も、リュックに入れっぱなしのノートPCに接続されちゃってて、気づかずiPhoneで音楽を流してしまったと」

岡田「事故じゃん」

岸田「ということは、AirPodsでiPhoneから音楽を聴くこと自体、めずらしい?」

泉山「はい。ほとんど聴かないですね」

岸田「じゃあ、なぜあの日に限って」

泉山「槇原敬之さんが逮捕されたニュースを知って、なんか、感傷に浸って……」

岸田「奇跡じゃん」


流れていたのは「冬がはじまるよ」だけじゃなかった

岸田「あのう、今思ったんですけど」

泉山「はい」

岸田「槇原敬之さんの『冬がはじまるよ』を流した、って泉山さんはTwitterに書いてましたけど。私が聴いたのは『もう恋なんてしない』だった気がするんです」

岡田「怖い」

泉山「あ、はい。『もう恋なんてしない』も流してました」

岸田「えっ」

泉山「というか、4曲くらい流してました

岡田「そんなことある?」

泉山「Spotifyのプレイリストで、流しっぱなしにしてたので……たぶん15分くらいは流してたと思います」

岸田「もうDJじゃん」


平常心を保つため、Twitterで自白の投稿を

岸田「流しはじめてから、気づくまで違和感はなかったんですか?」

泉山「いやー……なんか音量の調子悪ィな、とは思ってたんですけど。まさか接続されてないとは思わなくて、iPhoneの音量を迷わず最大まで上げました

岡田「考えうる限りの悪手」

泉山「そしたら、ちょっとマシになったんで、まあいっかなって」

岸田「それで、爆音で流れたと」

泉山「はい」

岸田「周りの人からなにも言われなかったんですか?」

泉山「言われなかったですね。最終的に自力で気づきました」

岸田「なぜ、Twiterで自白の投稿を?」

岡田「いつもそんなにTwitterで書く人じゃないよね?」

泉山「爆音で流してたことに気づいて、慌てて止めたんですけど、めちゃくちゃ恥ずかしくて。でも誰もなにも言ってくれないから、謝ることもできなくて。いても立ってもいられず、後悔の念をTwitterに流すことで平常を保ちました

岸田「まるで懺悔室のように……」

岡田「その懺悔の1分後に、岸田さんが戸惑いを投稿して、僕が見つけたんですね」

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事件の翌日に実施された泉山さんと岡田さんの業務ミーティングでは、同じ過ちを繰り返さないよう「AirPodsのワイレス接続指差し確認」が敢行されました。

これは、いい話でも、なんでもない

岸田「私ね、解せないことがあって」

泉山「なんでしょう」

岸田「一連のツイートがものすごくバズったので、いろんなサイトでまとめられたり、リプライをもらったんですけど、だんだん枕詞が『ほっこりする話』とか『感動した実話』になってきてて」

岡田「ああ、僕も気づきました」

岸田「ちょっと言いづらいんですけど」

泉山「はい」

岸田「これ、いい話でもなんでもなくないですか?

岡田「いい話でもなんでもないですね」

岸田「なんとなくいい話に見えがちだけど、実際は新幹線でミスッた男と、Twitter依存症の女がいただけの話なのに」

岡田「事故ですからねえ……」

岸田「あと、私のTwitterに『音漏れしてることを誰も注意してあげない、これだから日本はおかしい』みたいな嘆きも飛んできて」

岡田「本当ですか!?」

岸田「でもね、音漏れなのか接続ミスなのか、わからないじゃないですか。ああいう時ってどうするのが正解なんですかね……」

岡田「うーん、明らかに接続ミスしてる人だったら、トントンッて肩叩いて、教えるかなあ。でも、音漏れを注意したことはないかも」

泉山「僕は恥ずかしかったので、教えてほしかったですね」

岸田「そうですよね、教えられていたら、こんなことには……」

岡田「でも、このタイミングで槇原敬之を爆音で何曲も流してる奴がいたら、意味を深読みしちゃって、判断に迷いますね」

岸田「ね。ちょっとヤバイ人なのかもって思っちゃいますね」


音漏れを注意できる人は、13.2%らしい

結論が出なかったので、家に帰ってから調べてみた。

「通勤電車で隣の人が音漏れをしていたら、注意できる?」という質問に対し「できる」と答えた人は13.2%だった。少なっ。

「できない」と答えた人の理由は。

・下手に注意して、逆ギレされるのが怖い
・トラブルに巻き込まれたくない

という納得の理由から

・そもそも人の迷惑を考えず音漏れをしている時点で、人の話を聴くようなやつではない

という極論まで。音漏れには気をつけなければならない。

じゃあどうすりゃええねん、と私は頭を抱え、検索に検索を重ねていると、ひとつの有力な情報にたどり着いた。


「叱る」のではなく、「気づかう」


例えば、いびきがうるさい人に注意をする時は「いびきがうるさいですよ」ではなく「うなされていたようですが、大丈夫ですか?」と言うのが良いらしい。

これを音漏れしている場合に当てはめると。

「イヤフォンの調子が悪いみたいですが、大丈夫ですか?(音が聴こえるから、故障してるのではないかと思って)」

っは〜〜〜〜〜!!!!!

叱るのではなく、イヤフォンを気づかうのだと!!!!!!!

これを見て「いやそんな回りくどいことせず、さっさとバチコーン言うて始末つけえや」と思う人もいるだろう。でも私のようなチキンには、たいへん有益な情報だ。


エピローグ

岸田「今日はお会いできて、よかったです。これもなにかの縁ということで」

泉山「あっ、こちら、お詫びの品です」

岸田「いや、そんな!むしろ私が面白おかしく書いちゃったので、私が謝るべきで……」

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切腹最中。はじめて見たわ。

岸田「これは……武士の切腹に見立て、アンコをむき出しにすることで、この上ないお詫びの意を示すという……あの……」

泉山「通販で買いました」

岸田「わざわざ通販で」

岡田「イヤフォンの接続ミスには、くれぐれも気をつけましょう」


これを読んでる皆さん。
あなたのBluetoothは、ちゃんと接続、できてますか?

それではまた、どこかでお会いしましょう。


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スキに圧倒的感謝
1183
28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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おもろい
おもろい
  • 4本
コメント (6)
「もうDJじゃん」が良かったです!
リストの中だと、「林檎の花」と「どうしようもない僕に天使が降りてきた」が好きです。
いやー(earとかけている訳ではない)でも「イヤホンの調子が悪そうですが」って言うのもなかなか勇気いるなぁ。「カツラがずれているようですが」みたいな感じ?
久しぶりにお腹抱えて笑いました。笑いをありがとうございます。
いやぁ^^一周回って「いい話」です。
取り寄せたお詫びの最中を持参するまで^^完成されてる。
彼のキャラクターが、
ハプニングを和ませる力を感じます。
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