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master-pieceの職人にしゃもじ入れる鞄をつくってもらったら、ガチすぎた

冬の澄んだ空気が気持ち良い、昼下がりのことだ。

私は大きなしゃもじを持ち、家から駅までの道を歩いていた。冗談のような説明だが、私は本当に大きなしゃもじを持っている。

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これである。

「しゃもじを持って、文章のつくりかたをプロに教えてもらいにいく」というよくわからない企画を立ち上げ、発注したものだ。

その日もちょうど、しゃもじを持って、コピーライターさんへ会いに行くところだった。

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ちなみに、こういうバカでかい袋に突っ込み、大胆にはみ出させながら持ち歩いている。ハミしゃもというやつだ。

しばらく歩いていると、なにやらキャアキャアと愉快な声が聞こえてきた。ふと見れば、そこは神社だった。

「節分祭」

大きく掲げられていた筆文字の看板に、私はハッとする。そうだ今日は節分だ。ということは……豆まきだ!

まかれるものを拾って持ち帰って良いってのは、それはもうワクワクする。そりゃ豆よりは餅、餅よりは諭吉の方が嬉しいが、このさい豆でも嬉しい。

まだ待ち合わせまでは時間があった。私はウッキウキで神社に足を踏み入れ、老若男女に混じって、今か今かと豆まきを待った。

「すみません、ちょっといいですか」

振り返るとそこには、作務衣を着たお坊さんがいた。ビクゥッ。肩が揺れる。なんだなんだ。すごい微笑んでるぞ。

あっ。もしかして……

ま、豆をまく人に選ばれた?テレビで見るやつ?
は、白鵬みたいな!!?!?!?!?!?
えっうそ私、白鵬になれちゃうの!?!?!?!?!

「はい、なんでしょ」
「その棒状のお荷物って、なんですか?」
「えっ」
「差し支えなければ教えてください」

あっ、これ、完全にアカンやつや。よくわからんけど、アカンやつや。一気に理解した。

「これはしゃもじで、あっ、でも、ここで使うんじゃなくて取材で使うんですけど、私作家なんです、作家の仕事で必要なしゃもじでして」

説明すれば説明するほど、わけがわからんくなった。なんだこれ。お坊さんが動揺していく様子を見るのもなんか怖い。こう揺るぎなく凪いでいるものが、ざわついていく空気がめちゃくちゃ怖い。やばい。

なんとかざっくり理解してくれたお坊さんが言うには。

過去、バットを持ち込んでゲラゲラ笑いながら豆を打ち返すという、ヤンキーっつうか、不届き者っつうか、まあともかくバカがいたそうだ。バカッ、大バカッ!

そのバカのせいで、参加者の持ち物には注意を払っているという。納得できすぎて気まずい。完全に私は、しゃもじで豆を打ち返しにきたバカに見えていたのだ。さもありなん。

このあと私は、地下鉄銀座線の車両の扉に、全力でしゃもじを挟まれながら思った。

現代社会において、大きなしゃもじを持つ人というのは、稀有なのだ。

このままではまずい。ハミしゃもなど、している場合ではない。もっとこう万全の状態で持ち運ばなければならない。

どうやって?ギターケースに入れる?いや入れてみたけど長さが違うから入んねえ!詰んだ!(浅はかすぎる)

そんな嘆きを吐露すると、どこからともなく助けてくれる人が現れるのが、私のTwitterである。実存するルイーダの酒場だ。

master-piece(マスターピース)というバッグブランドの辻川と言います。しゃもじバッグ、どうにかしましょ!」

しゃもじバッグ!?!?!?!?!?!?!?

ものすごく礼儀正しいメッセージにまぎれ、パワーワードが爆誕してしまった。

マスターピースってなんか聞いたことあるなあ、と調べてみると。

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ガチじゃん。ガチのオシャレバッグブランドじゃん。しゃもじの、しゃの文字すら出てこないじゃん。いやどのバッグブランドにも出てこないけど。

しかも1994年からある、老舗じゃん。どういうこと。

でも背に腹は代えられないので、渋谷にあるプレスルーム(本社は大阪)に、しゃもじを持ってお邪魔した。密輸商人のようにコソコソ抱えていった。

「はじめまして!岸田さんのエッセイのファンで……バッグでお困りと聞いていてもたってもいられず、ご連絡しました。僕たちに任せてください!」

想像通りだけど、辻川さんはやっぱりめちゃくちゃ良い人だった。一緒にバッグデザイナーの水野さんもいた。

「で、どういう感じにしましょうかね」

水野さんは美容室みたいなこと言うな、と思った。

「えっと、このしゃもじを……なんかこう……いい感じにしてください」

私も美容室みたいなことしか言えねえな、と思った。

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「このしゃもじを、かっこよく、かつ、楽に持ち運べたら良いわけですもんね」

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「こんな感じでリュックに入って、背負えるのが良さそうですね」

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「ここの曲線にフィットするようにして、あんまりバッグの中でガチャガチャ動かない方が良さそうですね」

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「作れそうですね」
「作る!?!?!?!?!?!」
「はい、作ります」

てっきり今あるマスターピースのカバンからできるだけ合うのを選ぶのかと思ったら。作ってくれることになっていた。

すごい光景である。マジのバッグのガチのデザイナーさんが、目の前でなんか作ろうとしてくれている!

「でも、ただしゃもじ入れるだけのバッグじゃ面白くないですもんね」

面白くしようとしている!!!!!!!!!!!!
いやその面白さ、いるかな!?!?!?!?

それで、届いたデザイン図がこちらである。

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なるほど!?!?!?!??!?!?(わかってない)

「しゃもじケースが取り外しできて」「ノートPCと手帳とペンが入って」「リュックだけでも使うことができる」という、私の取材スタイルにあわせて考え抜かれた三段構成である。

面白いを通り越して、尊すぎない?なんなのこの想像力?

「このあと、どうやって作っていくんですか」

私は辻川さんに聞いてみた。

「水野のデザイン図をもとに、大阪の工場で職人さんたちに作ってもらいます」
「職人」
「BASEっていう新しくできた工場なんですけどね、面白いんですよ。今年69歳のレジェンド職人もいて」
「レジェンド」

気がつけば私は、行きます、と答えていた。
※以降、マジでPR案件ではなく、個人的に行って興奮して書きたくなったことを書いています。ワハハ。


実家への帰省をかねて、私はマスターピースのBASEという工場へ行った。

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最寄りの南巽駅まで辻川さんが社用車で迎えに来てくれたのだが、開口一番「カイジに出てくるみたいな車ですみません」と真顔で言われ爆笑してしまった。後部座席と荷台部分がひろびろ開いてるのは、バッグを運ぶためであって、人を運ぶためではない。

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まず通してもらったのが、サンプルルーム。ここでバッグのデザインを描いたり、サンプルを作ったりするらしい。なんかみんなめっちゃ楽しそう。

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しゃもじのようなものが、めっちゃサイバーなパソコンの画面に映し出される。

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すると、このなんかでっかい機械がウィーンと動き出して。

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あっという間に型紙ができた。魔法か?

この壁紙をもとに、布を裁断し、縫っていくのだ。

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しょ、職人〜〜〜〜〜〜!
めっちゃシュッとした職人が出てきた〜〜〜〜!

「革のリュックって回しながらミシンで縫わないといけないんですけど、けっこう力いるんですよ」
「へー」

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ほ、ほんまや、めっちゃ汗かいてるう!

ちなみに、ファスナーと革をあわせる作業など、違う生地同士を縫い合わせるって、ものすごい技術と知識が必要らしい。生地によって伸び縮みが違うからなんだって。

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しゃもじバッグを縫ってもらっている間、サンプルルームの隣にある作業場を見せてもらった。ここでマスターピースのバッグが量産されていくらしい。

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バッグの小さな留め具を作る人。

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留め具を布に縫いつける人。

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バッグの底を縫い合わせる人。

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ファスナーをつける人。

みんなめちゃくちゃ作業が早くて、正直なにやってんのかついていけなかったけど、一つの布や部品が、デスクが変わるごとにどんどん合わさってひとつのバッグになっていくのはワクワクする。

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ちなみに、検品も。
不具合あるのどれですかって見せてもらったんだけど。

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ひとつ穴が多いんですって言われて見せられたけど、さっぱりわからなかった。あのスピードでなんでこんなん気づくんだ。どんな目してるんだ。

「マスターピースはずっと日本国内だけでバッグをつくってる、メイドインジャパンのブランドなんですよ」
「やっぱり!?えっこんな部品から作るの?マジ?ってちょっと思ってました」

メイドインジャパンにこだわる理由っていうと、品質というイメージがあるけど、今は海外の技術もどんどん上がっている。いずれ日本に追いつくかもしれない。

「品質もですけど、マスターピースは次世代に日本の鞄づくりを継承したいんです」

日本を支えるものづくりの文化は、ゆるやかに衰退の危機にある。

職人の高齢化。後継者がおらず、廃業する町工場も後を絶たない。しばらくは海外に発注すればどうにかなるかもしれない。だけど、日本にあったはずの技術と精神は、少しずつ失われていく。

未来に残るのは、なんだ。
想像すると、ちょっとゾッとする。

「できるだけ良い環境で、若い職人が、熟練の職人から技術を継承できるようにしたい。だから僕たちはBASEをつくったんです」

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佐藤さん。BASEの大ベテラン、THE・職人だ。

どれくらいバッグづくりをしてるんですかと聞くと、高校の卒業式の夜から縫ってると言う。縫いすぎ。

「やっぱり昔縫ってたバッグと、今マスターピースで縫ってるバッグって違います?」
「違うねえ、デザインも素材もぜんぜん新しいから」
「凝ったデザインも多いですよね。やっぱり難しいですか?」
「難しいけど……型紙や縫い方を工夫して、良いバッグができたらものすごく嬉しいよ。本当に嬉しい」

佐藤さんにしか縫えない生地や、作れない型紙があるそうだ。膨大な経験に裏づけされた技術が「嬉しい」という気持ちのもと、惜しみなく発揮されている。尊い。

その佐藤さんに教わっているのは、25歳の男性だった。

彼はまったく違う前職についていたそうだが、やりがいを感じず、日本のものづくりに憧れて入社したと言う。

職人と弟子っつーと、ボッコボコに怒るのかなとかちょっと思ってたけど、佐藤さんは本当に楽しそうに、彼らと話していた。

「マスタピースの職人さんは、財産ですよ」

韻踏んでますねという余計な一言は飲み込んで、私は辻川さんの言葉にうなずいた。

あと、おそろしく、どうでも良い話だけど。

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BASEの食堂にポツンと置いてあったカップラーメンが「麺職人」だった。これが麺になった職人さんなのか、おそろしくこだわりの強い職人さんなのかは、わからない。

さて。BASEで私が感動しまくっている内に、しゃもじバッグのサンプルができあがっていた。

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ウワーーーーーーーッ!できてるーーーーーーーー!カワイイ!!!!!!すごい!!!!!職人さん!!!!!!!!!!

メイドインジャパンを背負ってるって感じがする。感動。

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「自社工場だから修理もしやすいんですよ。廃盤になったバッグも送ってもらえれば直せますよ。長く使ってもらえると嬉しいです」

どこまで、いたれりつくせりなのか。私がトンチンカンすぎる行動をしてしまうことを見越しての、この気づかい。心強すぎる。

二週間後、サンプルからさらに使いやすく改良された(職人さんマジでこだわってくれて愛しすぎる)しゃもじバッグが届いた。

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これが!しゃもじ!バッグだあああああああああ!
日本にひとつしかないのだ!メイドインジャパンなのだ!

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しゃもじ部分と、リュック部分は取り外すことができるよ。

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サプライズでロゴをつけてくださってて、爆泣き。

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これなにがすごいって、打ち合わせでモノをアホほど忘れたりなくしたりガサガサしてる私を見てくれてたので、「しゃもじ・パソコン・手帳」を全部いっしょに持ち運べるようにしてくれたのです。ホスピタリティの塊。

しばらく見せびらかすかのように、持ってウロウロ歩きます。

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マスターピースの皆さん、ありがとうございました!

本っ当にオシャレで丈夫で愛しいバッグがたくさん売っているので、これを読んだ人はぜひ2億個ほど買ってください。そして日本のものづくりを守り、誇ろう。

関西にも関東にも、お店があります。
オンラインショップもどうぞ!

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記事にいただいたサポートのお金で、母や弟(岸田家)と「したことない体験」に挑戦し、新しく記事を書きます。いつも応援ありがとうございます!

スキに圧倒的感謝
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28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/
コメント (1)
かっこよくて、素敵!!実物が見てみたいです(^^)/
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