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コインランドリーで浮いてる地球儀の正体を知りたい

わたしは、家からわりと離れたコインランドリーに、よく行く。

家にはPanasonic製のええドラム式洗濯機があるのに。すぐ近くに他のコインランドリーが何軒もあるのに。

その理由は、ただひとつ。
カウンターにノートが置かれているから。

なんてことはない、Campusの大学ノートと、サラサのボールペン。表紙には無愛想な太い字で「お客さまノート」と書かれている。


このノートを何気なくペラッとめくったとき、そこに広がる「コインランドリーの住民たちの世界」にグイグイ引き込まれた。

最初はお客さんの「居心地が良い」「空調が暑い」などの意見に、お店から対応の報告や返事が書かれているのだけど。

常連が何度も登場していくにつれ、馴染みの居酒屋みたいなアットホーム感が漂ってくる。

たとえば、こんな恋愛相談が投下されると、みんながよってたかってエールを送る。

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優しい。Twitter漬けのわたしは、紙の上でこんな優しい世界が自走していることに、感動した。


ある日、あまりにもこのノートが好きすぎて、半年分ほど読み返していると、とある単語が目にとまった。

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浮いて回る地球儀ってなんだ?

最初は、どこかで地球儀を見つけて、たまたまこのノートに書き込んだのかなと思っていたけど、すぐ次のページにも。

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また地球儀だ。

別々の客が、別々の日に、地球儀について書いている。

わたしが知っている地球儀は、回りはするけど浮きはしない。だけどここに出てくる地球儀は、浮いている。

つまりこの客たちは、どこかに存在する、浮いて回る同じ地球儀を語っている。

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地球儀がくるくる回ってることを、ハチャメチャに喜んでいる人がいる。

この客は、叱られても5分で忘れてしまうくらいポジティブシンキングを起こしている。地球儀で。どんな因果なの。

どういうこと?
地球儀って、普通は回るんじゃないの?

これに対して、店員らしき人が返事をしていた。

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地球儀は回しっぱなしでOKという指示。つまり、浮いて回る地球儀は、このコインランドリーにあるのだ。

回しっぱなしってなんだよ。洗濯機を回しっぱなしとは言うけど、地球儀を回しっぱなしとは言わないだろう。

わたしは、ほかの客がいない、しんと静まったコインランドリーを見渡してみた。あるのはゴウンゴウンとくぐもった音を立てる機械と、ランプの光っている両替機と、ノートだけだ。

地球儀なんて、どこにもない。


さらにノートを読みすすめると、地球儀は「浮いている」わけではないことがわかった。

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なんと、地球儀が浮かなくなってしまったことを、謝っている客がいるじゃないか。

「浮いてません」でも「浮きません」でもなく、「浮かなくなってしまった」という圧倒的な能動からの、自首


いったいなにをした。

下手に手を加えると、地球儀は浮かなくなるらしい。

このあとはしばらく、不気味な墜落報告が続く。

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下の台にくっついてしまうとは。

よくわからないけど、悲惨なことには違いない。報告をしている人たちはこぞって、律儀にノートに記し、懺悔しているのだから。


浮いて回っているのが通常で、その地球をなんらかのミスで堕としてしまったから謝っているものかと、思いきや。

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失敗すると爆音が鳴って、他の客にも被害が及ぶらしい


なんなん。めっちゃ怖い。
っていうかみんな、どんだけ地球儀を浮かせたいん。

いまだかつて、聞いたことある?地球儀の騒音苦情って。

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どうやら一度、地球儀は買い換えられているらしい。そうすると、ためていたハンドパワーが無効になり、またはじめから浮かせるハンドパワーをためる必要があるそうだ。

ハンドパワーってなに。怖いわ。

しかしこの地球儀買い替え事件から、ノート上は一時騒然となる。

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みんな、新しい地球儀を浮かせられなくなっていた。

壊れてしまったと陰謀説を唱えるやつまで。お前はパソコンでエラーが出たら「なんもしてないのに壊れた」って言い張るタイプだろ。


ちなみにこの地球儀、コインランドリーのどこにも見当たらないが、出どころだけはわかっていた。

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店員さんの奥さんが、ネットで買ったとのこと。奥さんのセンスよ。コインランドリーの客にどんな難問を出題してるんだ。スフィンクスか。


浮かせるには、相応の鍛錬と技術が求められるようだ

阿鼻叫喚の地獄に、店員さんが助け舟を出した。

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真ん中にして下ろせば、浮くらしい。

しかし、いささかアドバイスが大雑把すぎるのか、以降、浮きましたという成功報告は途絶えてしまう。

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ひとりだけ浮かせられたという報告があるのだが、こいつは自分が浮かせられるのをいいことに「微妙な位置に置いて楽しむ」という愉快犯的な思想を持っている。

その位置を探るのも暇つぶしでおもしろいからやってみろと語る姿は、完全に高みの見物である。地球儀界のマリーアントワネットだ。野放しにしてはいけない。

すると突然、救世主があらわれた

地球儀

あんたはなにを言うとるんや。

わたしは理解できるまで三度読み返し、三度ともわからなかった。最初から最後までわからん。指をはさむと、ピッと磁気が当たる???

かつての2ちゃんねるの傑作迷文モスバーガーのきれいな食い方を教えてくれ」を彷彿とさせる迷文っぷりだった。

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しかし、地球儀を浮遊させるためコインランドリーに通う猛者たちは違った。解読してた。そんで、浮かせてた。

なにを言うとるんやは、アホのわたしの方だった。心が折れそうになった。だがソクラテスは説いたじゃないか。無知の知こそが重要であると。

知らないことを知ることから、人は賢者となれるのだ。


ああ、わたしもはやく、地球儀に触りたい。


そう思った矢先、とある書き込みにより、コインランドリーの常連たちに激震が走る。


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地球が失くなってますぜ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


やばいやばいやばい!!!!!

書いた人も焦りすぎたんだろう、地球儀じゃなくて地球になってる。悲壮感と焦燥感がマシマシになってる。クリストファー・ノーランの世界観かよ。

どうでもいいけどわたしはこれ、名探偵コナンのウォッカの声で再生された。地球が失くなってますぜ、アニキ!!!!!!!!!


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心ないお客さまーーーーーーーー!!!!!!!!!

なんでだよ。なんで。あんたも客の端くれなら、ノートを読んだんだろう。みんなの心の拠り所になってる地球儀を、どうやったら盗めるんだよ。人の心ってもんがねえのかよ。


そして、謎はとけた。

地球儀は、少し前まで、このコインランドリーにあった。それが盗まれた。店員さんは新しい地球儀を買おうとしている。

わたしだけがちょうど、地球儀が存在していない、時空のはざまにいるのだ。


涙が出そうになった。
常連たちが織りなす壮大なドラマを、わたしだけが、観客として見守らせてもらっている。
こんな最高のドキュメンタリーがあっただろうか。


そしてわたしは、ペンを取った。


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結局のところ、浮いて回って落ちたら爆音が鳴る地球儀って、なんやねん。


日付を間違えて未来にしてしまったことにいま気づいたので、更なる謎を巻き起こしてしまったかもしれないと、一抹の不安を抱きつつ。



(9月20日追記)
リプライで教えてくださった、過去のツイートに同じコインランドリーっぽい背景の動画が。これや。地球儀、これや。これやー!!!!



(本が出ますぜ、アニキ!!!!!!!!)


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908
28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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コメント (10)
続編が気になります!
すごく面白かったです...!
コインランドリーにノート、いいですね。
素敵なコミュニティだなぁ。
地球儀が何なのか楽しみにしてます!!

出版、おめでとうございます。
育児の合間の楽しみにさせて頂きます。
色々な観光地や施設に置いてあるこの手のノートを読むのが好きです。でも、このような常連さんが書き込むノートは登録制の掲示板のような展開になって胸熱ですね。しかも全員ご近所さんという何処かでニアミスしてそうな緊張感もありつつ。ところで、この話で「男女7人夏物語」を思い出したのは僕だけですか?
面白かった!面白かった!
めっちゃ笑いました🤣途中モスバーガーの迷文に寄り道したら、腹筋がモロに自覚できるくらい久々に活字でツボりました。最後まで地球儀の謎にワクワクさせられながら読ませる力量は素晴らしいです。まいりました。そして
ありがとうございました😊
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