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長所と短所は背中合わせだから、光彦の幸せを願う

名探偵コナンという作品を知っているだろうか。

「野生児がでかいサメと戦うんだよね」と思った人は、未来少年コナンの冒頭の話をしているので、一旦1970年代のことを忘れてほしい。

工藤新一という高校生探偵が、黒の組織という悪役から毒薬を飲まされ、目が覚めたら小学一年生の姿になり、難事件を推理と機転で解決していくミステリー漫画の話だ。

わたしと弟は、この名探偵コナンがそれはもう大好きで。

ゆえに、ずっと考えていたことがあった。


名探偵コナンの世界で、一番頭がいいとされるキャラクターは誰か。


やっぱり、主人公の江戸川コナンこと工藤新一か?

その父親である天才ミステリー作家の工藤優作か?

はたまた、西の高校生探偵の服部平次か?

奇術と演出と発想のマリアージュが絶妙な、怪盗キッドか?

ちがう。


わたしの見解では、少年探偵団の円谷 光彦(つぶらや みつひこ)である。

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こいつだ。ものすごく雑な絵だけど許して!

知らない人のために説明すると、少年探偵団とは、小学一年生の同級生で結成するチームだ。

江戸川コナン、灰原哀、吉田歩美、小嶋元太、円谷光彦の5名からなる。

このなかでコナンと灰原だけは、毒薬の影響で頭脳は大人、身体は子どもになっており、その事実を少年探偵団の子どもたちには隠している。


円谷光彦の活躍っぷり

つまり円谷光彦は、頭脳も身体も純粋な小学一年生だ。そしてドラえもんで言うところの、スネ夫ポジションにも近い。

それを踏まえた上で、光彦の活躍を軽く説明すると。


●遊園地でジェットコースターに並ぶ待ち時間を計算するため、フェルミ推定を暗算で披露。(私立中学受験レベルに該当)

●「釣果 - ちょうか」という文字をたやすく読み上げる。(漢字検定準2級、高校3年生レベルに相当)

●豊富な知識と簡潔な説明力を持ち、明治維新や吉田松陰に関する日本史の知識を、小学一年生たちが一瞬で理解できるようにわかりやすく説明。

●推理力と想像力を組み合わせ、シャーロック・ホームズの「赤毛連盟」を引き合いに出し、コナンにかわって事件を推理。

●経済情報にも通じており、東都水族館に入館する術を探すときはいち早く「東都水族館には鈴木財閥の資本が入っている」と言及。

●機転と判断力に長けており、知らない道を覚えるため、とっさにガソリンスタンドの名称と場所を完全に記憶。

●運動もお手の物で、5メートルは離れているであろう犯人に、やり投げの要領でホウキを投げ当て、動きを止める。

●用意周到で、不測の事態にそなえ、少年探偵団の全員分の双眼鏡や懐中電灯をなにも言わず調達しておき、持参する。

●責任感と男気にもあふれており、銃をつきつけられて脅されても「自分が首を突っ込んだ事件だから」と、探偵団について口を割らなかった。

●同級生を含むすべての人に対して、ていねいな敬語を使う。大人でもあやふやな礼儀作法にも詳しく、よく元太に正しい方法を教える。


こんな小学一年生がいるだろうか。


しかも光彦の愛らしいところは、コナンや灰原と違い実年齢も小学一年生なので、男児らしく無邪気に、特撮戦隊「仮面ヤイバー」に目を輝かせている。相応の子どもらしさも持ち合わせているのだ。


この小学一年生らしからぬ光彦のポテンシャルから、ネットでは有志により「光彦はIQ400ある説」なるまとめが公開。「劇中でずっと伏せられてきた黒幕は、光彦ではないか」というブッ飛んだ考察まで真面目に展開され、原作者がこれを真剣に否定する事態に。

脇役にも関わらず、光彦のコアな人気はじわじわと高まっていき、2ちゃんねるで光彦を主人公とした二次創作小説が続々と発表。

アニメ第923話で満を持して「コナン不在のなか、光彦が大活躍する回」が放送されると、沸き立ったファンからは「光彦の有能さが光った神回」「お疲れ様光彦」「しっかり見届けたぞ」という感想が相次ぎ、読売テレビのニュースサイトでは「視聴者から、光彦の親兄弟や親戚のような温かいメッセージが多数」という謎の見出しまで掲出された。


もう一度言う。
こんな小学一年生がいるだろうか。


現時点では光彦の頭脳は、現職の探偵たちに及ばないものの、伸びしろがありすぎる。

子どもの成長に絶対はないが、このまま彼がすくすくと経験を重ねて育つと、高校生になる頃にはすべての登場人物を越える聡明さを持つ可能性が高い。


不運にもアホ役に甘んじてしまう光彦

しかしそんな光彦には、不運が待っている。

同年代では誰も歯が立たない、飛び抜けた頭脳と能力を持っているのに。すぐそばに江戸川コナンと灰原哀というチート的な存在がいるのだ。

彼らの実年齢は16歳と18歳。片方は天才高校生探偵、片方は天才科学者。

得てきた時間も違えば、経験も違う。っていうか日本でもまれに見る天才。

どんなに光彦が優秀であっても、しょせんは小学一年生。彼らの前では風前のチリのように、容赦なく霞む。

つまり、なにが起きるかと言うと。


飛び抜けて頭のいいコナンと灰原がいるために、俺たちの光彦がアホ役に甘んじることが多々あるのだ!


光彦がクイズに不正解する、間違った推理を組み立ててしまう、おっちょこちょいでミスをしてしまう。それをコナンと灰原が、秒速でフォローする、あるいは論破する。

そうすると相対的に「光彦はかっこ悪い」「光彦はたいしたことないじゃん」という印象が植え付けられてしまう。

その最たる例が、歩美への印象である。光彦は歩美へ強い恋心を寄せているが、歩美の恋心はコナンへ向いている。

その理由は、無情にも「コナンくんは頭がよく、スポーツが万能」だからなのである。

み、光彦ォーーーーーーーー!!!!!おまえっ!!!!光彦!!!!生きてるか!!!!光彦!!!!大丈夫だぞ!!!!俺たちがついてるぞ!!!!!!!頑張れ!!!!!!!!!!!


頭がよく、スポーツ万能は、前述のとおり光彦にも当てはまる。だがしかし、ときにわかりやすい評価とは、「なにかと比べられる」ことになる時がある。

いくら平等、公平、個性の尊重を説いても。いくら光彦が努力をしたとしても。くらべるものさしがブッ壊れていると、評価もブッ壊れる。人生は、悲しくもそういう風にできている。


コナンと灰原と一緒にいることで、俺たちの光彦は、やがて近い将来、ゴリゴリに自尊心をすり減らしていくことになる。いや、もしかしたら、今も。


光彦がもし、少年探偵団じゃなかったら。きっと彼は、天才小学一年生として、相応の自尊心を持ち、脚光を浴び、モテたはずなのだ。

わたしは、そんなifへ思いを馳せずにはいられない


わたしは長期計画を立てられなかった

ここまで2600文字も使ってしまったので、読んでいる皆さんは「活きの良い過激派光彦オタク」を突然見せつけられてしまい、動揺していると思う。

ちゃんと本題があるので、聞いてほしい。

先日、出版社の人と打ち合わせをしているとき、わたしのエージェントを担当してくれている佐渡島庸平さんが、こんなことを言って、わたしの自尊心がちょっとだけモチャッとなった。


「岸田さんは二ヶ月単位で、興味があること、飽きることが変わるからね」


佐渡島さんはニコニコしていて、それを聞いた出版社の人も本当にそうですねと相槌を打っていた。そこに不穏さや不快さは、まったくなかった。

じゃあなぜ自尊心がモチャッとなったかと言うと。

大学生時代も、会社員時代も、わたしは「長期計画」をまったく立てられなかったからだ。

大学生であれば自己啓発的な意味合いで「結婚やキャリアアップの計画」、会社員であれば「年間の広報戦略」であった。


特に後者は予算や人員体制のこともあるから、しっかりと3ヶ月先、1年先、3年先まで見据えて、作り込まなければならない。

だが。

作った戦略を、1ヶ月たりともまともに運用できたことがなかった。

わたしは限りなく野生に近い広報担当だったので、「世間の微妙な感情の変化を読み取り、即座にマスコミに企画を持ちかける」や「連邦のモビルスーツ並の機動力を活かし、舞い込んできた運をひっ掴んでモノにする」という仕事をしてきた。

乗りこなしたい波は、1日ごとに形を変える。

「労力のかかる派手な露出は避け、小さな地方紙や地域密着型の媒体への露出に注力する」という戦略を立てて発表しておきながら、翌日「ニュースZEROで櫻井翔さんの取材を誘致する」という真逆の方向に疾走したことがあった。後ろ向き爆速ダッシュ。


戦略をたてる間に、状況が変わり、そしてわたしの飽き性と衝動性も手伝って、どんどん予測していかない方向へ舵が切っていく。


とはいえ、得られるインパクトは莫大なので、えげつない結果は出していた。一年で予算1万円、わたし一人だけで、広告換算額は4億5000万円を越えていた。

同時に耳と心が痛くなる声も飛んできた。

「岸田さんの動きや発想についていけず、情報もおりてこないから、現場で混乱が起きている」
「報告されていた活動予定と違いすぎて、年間の予算をつけられない」
「最初に話していたことと違うって、取引先が怒っている」
「岸田さんの下についた新入社員が、置いてけぼりでかわいそう」

あわわわわわ。

あかん、これはあかんぞ!必死で計画を立てようにも、立てている間にまた次の波がくる。

持続することを前提に経営活動をし、チームで動き、計画を見える化して顧客を安心させる会社組織において、わたしは「予定を立てられず、気分で動くポンコツ」だった。


もちろん評価されたこともたくさんあったけど、これはけっこうキツかった。自分の将来の目標すら「どうせ無駄だし」と立てられなくなり、自尊心がゴリゴリに削られていった。


だから、佐渡島さんが言ったことを、わたしは悪い方向に受け止めてしまった。もしかしてこれ、エージェントや出版社に迷惑をかけているんじゃないかって。

打ち合わせが終わったあと、佐渡島さんにおそるおそるたずねた。

「さっき言ってた、“岸田の興味が2ヶ月で変わる”っていうの、ごめんなさい」

「えっ、なんで!?」

佐渡島さんは、わたしが後ろめたそうにしていることに対して、本当にびっくりしていた。

「岸田さんの生きるスピードがめちゃくちゃ早くて、運や興味もすごいスパンで変わるから、読者も俺も見てておもしろいよ!たかだか数ヶ月でこれなんだから、数年後はどうなるのかなって、予想できなくて楽しみ

わたしは、ポカンとしていた。まさか褒められているとは思わなかった。佐渡島さんは裏表がなく、忖度をしない人だ。



長所と短所は、いつも背中合わせだ

わたしが持つ「興味が移りやすく、衝動的で、類まれなる運に出会うこと」は、会社員としては短所だった。

これがワクワクを届ける作家になった瞬間、長所になった。

長所が背中、短所がお腹についていて、いる場所が変われば、風向きや陽のたる角度が変わり、照らされるのはお腹になるか背中になるかも変わるんだ。


ゴリゴリに削られていった自尊心も、長所に陽が当たれば、シャキーンと大きく伸びていく。そうすればまた私は、たくさんのワクワクを届けられるようになる。自分のことを愛せるようになっていく。

できるだけ、長所が照らされる場所にいたい。わたしはそう願っている。


話を光彦に、無理やり戻そう。

脚光を浴びるならば、光彦は少年探偵団を抜けた方がいい。コナンと灰原からできるだけ遠いところへ、走っていった方がいい。変わった場所でようやく、光彦の“二人より頭が悪い”という短所は長所に代わり、陽が当たるからだ。

だけど、それでも光彦が少年探偵団にいるのは。

脚光よりも大切なものが、そこにあるからだ。自分よりも頭の良い仲間たちと得られる経験こそが、光彦に必要なんだろう。

そこにいることを自らが望むのであれば、どんなに挫折や苦難を味わったとしても、自尊心は下がらない。


頑張れ、光彦。わたしも、頑張るから。

時には挫折を、時には劣等を感じながらも、陽の当たる方へ。

週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。