今すぐ美味いポップコーンで、自宅をUSJにするんだ
祝っても、ひとり。
私の作家活動を見せびらかすWEBサイト「キナリ」がオープンした。同時に、定期購読マガジン「キナリマガジン」もスタートした。
どちらも、本当にありがたいことに、嬉しい反応ばかりだ。
愛と熱でオープン日に間に合わせてくれた、コルクのメンバーには本当に頭が上がらない。
祝いたい。
とても、祝いたい。
宴をしたい。ワンピースでやってたみたいに、みんなで巨大な樽に足を乗せ、カチ割ったところから吹き出てくるビールを飲みたい。
でも祝えない。外に出られない。
私は一人だ。
一人で、楽しいドンチャン騒ぎをしよう。
私は、関西人だ。
関西人が楽しいことは、USJしかない。
ユニバーサゥル・ストゥディオ・ジャパァンだ。
しかし、今、USJは閉鎖している。
そのとき、私は思い出した。
USJのエントランスのすぐ近くに「ポップコーンパパ」という、響きだけで脳みそに夢と希望が詰め込まれる店があったことを。
これがそのポップコーンパパだ。なんと味が32種類もある。小学生が寝床で見る夢か。
ポップコーン。
魅惑的な響きである。
日本のネーミングは「パ行」の音が入っていると、人はテンションが上がるらしいのだが、ポップコーンには「ポ」と「プ」で二文字も入っている。なんらかの疾患を疑われるくらい、テンションが上がってしまう。
通販をしていたので、秒速で買った。
注文した翌々日に届いた。
はやっ。夢から覚めない内に、夢が届いた。
うん。
注文しすぎたよね。
一人暮らしが食べる量じゃないね、どう考えても。
自宅の一角が、USJのポップコーンワゴンみたいになった。
しかし、USJのポップコーンワゴンはすごいぞ。
カラフルな屋台に、山盛りのポップコーンが詰め込まれている。めちゃくちゃ並ぶ。列の後ろまで、甘くて良い匂いが漂ってくる。私は、おそろいのカチューシャをつけた年上の彼氏と冗談を言いあいながら、列に加わる。やっと注文の番が回ってきた時、彼氏が「ポップコーンのMサイズと……あと、そのミニオンの光るバケツもください」と言う。私はびっくりして顔を上げる。ミニオンの光るバケツはポップコーンの3倍以上の値段がする。なんでそんな高いものを。彼氏はお金を払ったあと「ずっと見てたやん。これが欲しかったんやろ」とはにかんだ。私は言葉に詰まったあと、小さく口元を綻ばせた。すごいぞ。
なにがすごいって、この話は一から十まで嘘なのである。
USJには弟としか行ったことないし、ミニオンの光るバケツは自分で買った。誰か買ってくれ。
テンションが上がりすぎて脳に幸福物質がドバドバ直撃し、幸福な記憶を作り出してしまうくらい、自宅がポップコーンワゴンになるというのは破壊力がある。
例えば。
原稿がちっとも進まなくて、パソコンの前で頭を抱えてしまっても。
このように大量のポップコーンがあれば、たちまちポップコーンのことしか考えられなくなり、幸福になる。作業がはかどる。
しかもハーフサイズの人気味が5種類も入ったこの「One Love ポップコーン」という特別なセットは、1500円につき100円が日本こども支援協会に寄付される。幸福が過ぎる。
朝、起きて「ああ今日も外に出かけられないのか」とげんなりしても。
ベッドサイドにポップコーンがあれば、般若もニタリ顔である。夫婦で喧嘩をした翌朝に置いておくのも良い。ポップコーンはかすがいという言葉が、日本には昔からある。
この青色と白色のマーブルがかわいいポップコーンは、海遊館のジンベエザメをイメージした「ジンベエポップコーン」である。USJにいながら海遊館まで満喫できるとか、強欲が過ぎる。やがて人は死ぬ。
大阪から東京にやってきて、帰省できずに寂しい思いをしているそこの大阪人。わかるよ。つらいよな。東京のうどんのつゆ、黒いもんな。あんなどす黒いつゆ飲んどるから、東京モンは腹黒いんや。
でも大丈夫だ。「大阪セット」を買えば、たちまちそこは大阪になる。2人でお腹いっぱいになるレギュラーサイズが3種類も入って、1080円だぞ。正気か。3種類もあれば、ケルベロス飼ってる人でも安心。
たこやき味、キャラメル味、うめかつお味という、なにわの人間をよくわかっている取り合わせだ。しょっぱい、あまいの、しょっぱいので、もう手が止まらんっちゅーて。やっぱ好きやねん。やっぱ好きやねん。耳の奥でやしきたかじんが呼応する。
私が最初にいただいたのは、このポップコーン界のAKB48のような見た目のミックスジュース味だ。開けた瞬間、めちゃくちゃ甘い匂いがする。架空の彼氏が生まれてしまう。
うううう美味いよォオォオォォォォォォオ(号泣)
バナナやベリーの濃厚な味が押し寄せてくるのに、サクッと口の中でなくなって、後味ぜんぜんしつこくないから、三半規管がもれなくバグる。
ポップコーンってあれじゃん、冷めるとまずいじゃん。これマジできたばっかのクオリティだからね。ポップコーンのできたてってなんて表現するの?ポップしたて?ポップしたての味と食感がする!!!!!!!
一分後の様子。ポップコーンは跡形もなく消え去った。これがシュレディンガーのポップコーンである。
でも案ずることはない。なぜなら我が家は、ポップコーンワゴンだからだ。さあもう一度並ぼう。あと10種類も味があるからな。
みんなも今すぐ自宅をポップコーンワゴンにしよう。4000円以上買えば送料は無料だし、っていうか未満でも250円〜500円である。USJに行く交通費より安い。
なんで私がポップコーンパパを推してるか
この記事は、not PR、not スポンサードだ。つまり私が完全なる趣味かつ無断で書いた。怖い。夜道で斬りかかるタイプの作家だ。
でも私は、ウイルスの猛威により、営業自粛やUSJ閉鎖で大打撃を受けているであろうポップコーンパパを、なにがなんでも応援したかった。
ポップコーンの売上で、梅田の一等地にポップコーンパパ御殿を建設してほしいとさえ思っている。ヨドバシカメラを甘い匂いで包み込め。
なんでかって言うと、このめちゃくちゃ美味くて楽しいポップコーンは、めちゃくちゃ優しくて愉快なスタッフさんたちが、作っているからだ。
ポップコーンパパでは、6人の障害のあるスタッフさんが働いている。
日本の法律では、45.5人以上を雇用している企業は、1人以上の障害者を雇用しなければならない。50人規模のポップコーンパパで、障害者が6人というのは、かなり多い。
私も数年前から何度か、ポップコーンパパに行ってみたけど。
本当に、みんな、めっちゃ楽しそうに働いてる。障害のあるスタッフさんも、そうじゃないスタッフさんも、わけへだてない。
ポップコーンまぜまぜしたり、お客さんとワイワイ話したり、車をブイブイいわせて配達に行ったりしてる。
こんなYoutubeにも出ちゃってる。
発達障害があって、計算が苦手で忘れっぽいスタッフさんは、みんなと協力して仕事を区切って、ひとつひとつこなすことで失敗を減らしている。アルバイトをしてみたら楽しくて「本当は障害があるけど、ここで社員として働きたい」と打ち明けたところ、快諾されたそうだ。
精神障害があって、うつ病を患っていたスタッフさんも、今は重要な配達ルートの配送を任され、どんどんルート任されることが増えていき、楽しくて仕方がないらしい。精神障害のある人は、ストレスが苦手だ。仕事が楽しいというのは、ストレスを減らす一番の方法かもしれない。
「どうして障害のある人を積極的に受け入れてるんですか」とポップコーンパパの番頭さんに聞いたら「特別なことは何もしてません。お互いに苦手なことを補いあうのは、障害があってもなくても、当たり前なので」と言われた。
痺れた。ここでは、障害は特別ではない。
障害者も健常者も関係なく、工夫していることをあげるなら。
3S(整理・整頓・掃除)を徹底すること。これは特に発達障害のある人が、使う器具や順番を間違えないようにするためだ。でも結局、みんなにとって気持ちのよい環境になっている。
「これができれば一人前じゃない」「これをやるべきだ」という会社の都合は押しつけず、苦手なことを強要しない。能力に凹凸があっても、得意な仕事を見つけてもらって、まずはそれに打ち込んでもらい、少しずつ得意な範囲を広げてもらう。
とのことだ。
もう建てるよ。ポップコーン御殿、私が建てちゃうよ。
みんなが助けあいながら、美味しいポップコーンを、楽しくつくっている。ポップコーンパパには、夢という夢が、詰まっている。
こんな企業が増えてほしい。こんな時代だから、こんな企業が伸びてほしい。人よりも苦手なことが多くて、悔し泣きをして生きてきた私は、心から願いながらもう一袋、ポップコーンを空にしている。
後日談 ポップコーンとコルクと私と
宴が開けないなら、ポップコーンを食べればいいじゃない。
そう思った私は、大量に届いたポップコーンをていねいに包み、キナリOPEN祝いと称して、コルクのメンバーに送りつけた。
「お祝いと言えばそうですね、ポップコーンですね」という私の一文を見て、ただならぬ恐怖を感じさせたことと思う。
さきほど、クロネコヤマトさんが来て、ポップコーンを持っていってくれた。
「あの、岸田さん……この伝票の内容物って合ってますかね?」
私は入力をどこで間違ったのか、ポップコーンが精密機械になっていた。
コルクの皆さん、すみません、今日あたり精密機械のポップコーンが届きます。