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私が未来永劫大切にする、たった一つの花束

豊かさって、なんだろう。

生きていると、何度か考えさせられる宿題だ。

小学校の作文だったり。
新聞のインタビューだったり。
明け方4時までデロデロに飲みながら、ふと聞かれたり。


思い返せば、私が出す答えはいつも違っている。


答え、つまり、価値観っていうのは。
自分の芯であり、絶対に変えず、貫くべきものだと思っていた。
それをコロコロ変えるなんて、かっこ悪いことだとも。

でも、違った。

なにが起きるか、1ヶ月先ですら予想できなかった人生だ。
大切なのは「芯」を取り替え続けることじゃないか。

風が強い日には、折れないようにしなる、柳のような芯を。
プレッシャーが重くのしかかる日には、硬く負けない、鉄のような芯を。

移りゆく状況にあわせて、私という人間が折れないように。
「芯」を変えていく。

そうやって生きてきた。


私は大切な誰かに出会う度に、材質の異なる「芯」を、一本ずつ手渡されている。

豊かさという「芯」についても、そうだ。

大好きだった父が、心筋梗塞で死んだとき。
私の豊かさとは「健康であること」から、はじまった。
とにもかくにも健康第一だと、私はご飯や運動に気を配りはじめた。

大動脈解離の後遺症で母が歩けなくなって数年。
母は、歩けなくなった自分の方が幸せだと笑った。
専業主婦だった頃より、多くの挑戦と出会いに恵まれたからだ。
健康であるからと言って、豊かだとは限らない。
私の豊かさとは「お金があること」になった。

大学入学と同時に、ベンチャー企業へ入社した。
これがまあ、びっくりするくらい、お金がなかった。
でも、寝袋にくるまって眠り、アホのように油っぽくてバカみたいに安い中華丼を食べ、売上を書いたホワイトボードを眺めて、一喜一憂した日々は楽しかった。
お金がないからこそ、腹の底からゲラゲラ笑えていた。
私の豊かさとは「時間があること」になった。

ガンになった、写真家の幡野広志さんに会った。
治る見込みはないと、彼はけろっとした顔で言った。
私から見れば、決して余裕のある時間とは思えなかったけど、幡野さんは人生をめちゃくちゃ楽しんでいる。
地図のような、コンパスのような、ともかく役に立つ言葉を、息子さんのために今日も残し続けている。
私の豊かさとは「未来があること」になった。

投資家の藤野英人さんの本を読んだ。
私のnoteがバズったきっかけを作ってくれた人だ。
未来のモヤモヤした不安を打ち破るためには、自分がやりたいことをやりなさい、と藤野さんは背中を押す。
主体性を持って使った時間とお金は、何倍にもなって未来の自分に返ってくる。
私の豊かさとは「やりたいことをやる」になった。


こんなふうに、出会う人たちから、芯を一本ずつもらってきた。
目に見えるならばたぶん、芯の花束みたいになっている。
花束は日によって、目立つ花も色もアレンジも変わる。


いまの私が、豊かさの芯として選び取ったのは。
「好きなことをして、好きな人と、好きに生きる」だ。


好きなことは、文章を書くこと。
好きな人とは、家族と、私の文章を世に送り出してくれる人。
好きに生きるとは、“やったことない”を減らすように生きる。


これがもう、楽しくってしかたがない。

10年前の私だったら、まったく考えもしなかった。
なぜなら「好きなことを仕事にすると辛い」と、言った大人がいたから。
だから私も、作家を目指すことをずっと避けていた。
好きだからこそ、結果が出なければ、なにも残らない自分に絶望する。
趣味としてダラダラ楽しむくらいが、ちょうど良いんだ。

そう信じて、疑わなかった。


ところがどっこい。今はどうだ。


文章を書くことなら、何日だって、何時間だって、やってられる。
家族とか、趣味とか、遭遇した奇跡とか。
私が好きなことを、100文字で済むのにあえて2000文字くらいでズガガガーッと好き勝手に書いたら、おもしろがって集まってくれる人が増えた。
それで美味しいご飯も食べられるようになった。


豊かだ。
今の私はとんでもなく、豊かだ。


いつかしんどくなるかもしれないけど、たぶん大丈夫だ。
その時はまた、ヒョイッと芯を入れ替えればいい。

芯を入れ替えると、強くなるだけじゃなくて。
見えるものまで、変わってくる。


このあいだ、私の編集者の佐渡島庸平さんから教えてもらった。

「最近、息子がこぞってハマッてるYoutubeチャンネルがあって。『こんなのあるのか!』って俺はびっくりしたんだけど、延々と爬虫類を捕まえてる動画なんだよ」

動画を見せてもらって、私も「こんなのあるのか!」とびっくりした。
特別おもしろいことが起きているだけではなくて。
本当に爬虫類を捕まえているだけだった。
あえて言うなら、爬虫類がめちゃくちゃ愛でられていた。

おどろくべきは、チャンネルに50万人ものファンがいたこと。

50万人って。

小学校の時、クラスに爬虫類好きの子がどれだけいた?
大人になるまで出会ってきた友人に、どれだけいた?
少なくとも、それほどメジャーな趣味ではなかったと思う。

だけど、どんなに趣味の範囲が狭くても。
注がれる愛の量と、伝えたい愛の熱が振り切れていたら。
届くべき人たちに、光の速さで届くんだ。
オタクは現代の先導者だ。

芯を持っていない私だったら「ふーん」で、受け流していたけど。
芯を持っている私は「こうなりたい」と、いたく感動した。


そうして書いたのが、ラーメンズのコントを紹介する記事だった。

なんと5万人くらいに読んでもらった。
世の中にはラーメンズファンがこんなにいたのか、と思うくらい、わらわらとラーメンズファンが現れては押し寄せてきた。

昔、周りにどれだけラーメンズの良さを説いても「なにそれ知らん。出た出た、サブカル(笑)」とバカにされて聞く耳を持ってもらえず、真っ赤になって暴れていた私に、言って聞かせてやりたい。


そんなこんなで。
私は今日も、好きなことを書いて、好きな人たちと、好きに生きている。

豊かさの答えは、日々変わっていく。
私が新しい出会いを重ねるたびに、変わっていって当然だ。


でも、変わらないこともある。


取り替えられる芯を多く持っている方が、自分を好きになる回数が増えるということだ。

この花束だけは、未来永劫、手放すことなく私が持っていく。

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この文章は、「ひふみ」とnoteがコラボした「#ゆたかさって何だろう」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

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28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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コメント (12)
一つ一つの出会いを大切にされていますね。私の父も心筋梗塞で亡くなりました。私もその後野菜をたくさん食べて健康的な食事に気を配るようになりました。同じでウレシイです。
「好きなことをして、好きな人と、好きに生きる」。素敵な生き方です。
芯の花束ステキです💐
カラフルな一色一色に、真剣に向き合ってきたんだなあって
感じましたドグ。(*´ω`*)
ドグドグ☆
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