今日も今日とて、水が美味い
仕事で仲良くなったある人から、おそるおそる言われた。
「岸田さんって、その、文筆業以外にお仕事されてます?」
「してますよ。しゃべるとか」
「いや、それがその」
その人は、聞いていいものかどうか、少し迷う目をした。とても親近感がわく。わたしも素っ頓狂な場面に出くわすと、よくその目をする。
「いわゆるその、特殊な宗教とか」
「特殊な宗教!?」
わたしが主催している陸上寿司愛好会を特殊な宗教と言っているのだろうか。たしかに「ストップ!寿司ハラスメント!」などと、個人的な恨みつらみもこもごもで看板を掲げているが、そこに本尊はない。マヨコーン軍艦を祀った覚えはまだない。そして岸田家は代々、浄土真宗だ。
宗教は特殊であろうがなかろうが、自分が生きていく上で支えになる信仰があること自体はよいことだと思うので、この人の聞き方もまあまあ野暮やなと思ったのは置いといて。
その人は、共通の知人から「岸田が怪しめの水をごくごく飲んでいた」と聞かされたそうだ。
怪しめの……水……。
温泉水99のことか!?!!?!?!
(画像はAmazonから引用)
スマホで写して見せると、知人は
「あっ、怪しい……」
と言った。失礼な。
いや確かに見た目は怪しいのよ。他の大手飲料メーカーのミネラルウォーターとは一線を画する容器。水を見せんばかりに全体を覆う銀色のラベルに、でっけえ漢字と数字。漢字と数字ってなんか怖いよね。圧あるよね。鉄人28号みたいな。
わたしも最初に見たとき「やべえな」と思って隠しながら飲んでたけど、あまりに美味しいので最近は麻痺していた。
普通の温泉水なのよ。
鹿児島の。
500ml 150円〜170円くらいで、いろはすとかエビアンとかよりはちょっと高いけど、たしか成城石井で普通に売ってるから。
味覚が園児とほぼ同じのわたしが、飲んだ瞬間「なんだこの異常なまろやかさ……まろすぎて甘みすら感じるんだが」ってなった。極端なアルカリ軟水だそうです。おもしろいので一回飲んでみて。美容とか健康とかはわかんねえし、知らねえ。シンプルに美味けりゃいい。
わっかりやすく美味いってか味が違うので、まろいのが好きな人は、売ってるの見かけたらあまり期待せず一回飲んでほしい。別に飲まなくてもいい。
温泉水99の回し者ではないので、紹介はこれくらいにして。
好きな水を飲んでるだけで、特殊な宗教かアコギな商売だと思われてしまった。危なかった。
なんで、こう、水って怪しく見えるんだろうね。
ドラマ「TRICK」でも、ビッグマザーが率いる超インチキカルト集団が、飲んで幸せになるために「母之泉」っていう目玉が飛び出るほど高い水を笑顔でガブガブ飲んでた。
テレビショッピングの「水から水素」も、プシュッとボトルを開ける音を聞いた司会が「あぁ〜っ!水素の音ォ!」と大喜びして歴史に残る大混乱を招いた。
品質や宣伝文句に問題がないとしても。
イオンモールでバルーンアートを配ってる!とのノコノコ近づいてもらいにいったら、大抵ウォーターサーバーの営業である。紙コップ一杯分を飲み干さなければならない。
わたしのスマホには今日も、過去一度だけ見積もりをとった引っ越し会社から「アンジャッシュの児島さんが宣伝してるウォーターサーバーがいまなら安くて…」と鬼電話がかかってきた。
わたしが人見知りで、営業をかけられるのがしんどいというのもあるけど、まあ売りもんの水には苦い思い出の方が多い。
「なぜインチキ宗教やトンチキ商売は、やたらと水を売るのか?」
大学のマーケティングの授業で、教授に尋ねたことがある。
「まず原価が安いからだね。一本50円くらいで用意できる。それから量産しやすくて、日持ちもするから、まとめて売りつけやすい。毎日飲むものだから、思い込みも起きやすいしね」
「思い込み?」
「その日たまたま体調がいいだけでも、水を飲んだからだ!って」
この授業の単位は普通にテストの成績が悪くて落としてしまったが、わかりやすく教えてくれた教授には感謝している。
一年前に久しぶりに母校で会ったら
「あのとき、お前は本当に水を売ると思った。目が輝いていた」
とそれなりに真剣な表情で言われた。岸田家の「大丈夫水(ダイジョウブスイ)」いかがっすか〜。
散々、水と怪しさを結びつけるようなエピソードを披露してしまったが、この広い地球で良い水はもちろん存在する。
というかまあ、水の良さなんてそれぞれが自分で決めたらええ。誰かにとっての汚水は誰かにとっての聖水なのである。
一年半ほど前、ひろゆきさんと公開で対談させてもらったことがある。
なぜかお互いの顔も見えないチャットだけで。
今ならなんかもっといろいろ聞けたと思うけど、当時のわたしはアホだったので「美味い水ってどうしたら手に入りますか」と聞いた。
「ウォーターサーバーとかミネラルウォーターとか買わなくていいよ。高いし。ブリタの浄水ポッドでおいらは飲んでる」
これだった。
いろいろタイプはあるけど、2リットルのポット型だと、カートリッジつけて水道水入れるだけで、ろ過された水がたまる。工事も電池もいらなくて、このまま冷蔵庫にぶちこんで冷やせるし、1リットルで7円くらい。安い。
普通に美味しいんだけど、コップを使うことすら面倒なわたしにとってはこっちの方がよかった。
これは水筒の飲み口のところがフィルターになってて、水道水いれて、口でチューチュー吸ったら美味い水になるという。伝説のズボラが開発したような商品。夏はこればっか吸ってた。合法。
後にも先にも、ひろゆきさんに投げた実のある質問はこれだけだったので、彼への印象は美味い水を教えてくれただけの人である。
あとヘラルボニーと宮沢賢治記念館に行ったとき教えてもらった南部鉄器。名産。いろりでしか使えないと思ってたけど、なんと太古の昔からIH対応。
職人の手作りだし、よき金属を使ってるのが南部鉄器の特徴なので、うちにあるのは19800円とそれなりにお値段は張りますが、お湯をわかすのが楽しくなった「スワローポット」です。
やばい。
水のこと話してたら、いろんなものをおすすめしたくなってきた。これまでもこれからも、みなさんが買ったとてわたしに1円も入ってこない潔白の推薦なので安心して読んでいてください。
沸かしたお湯で茶なりなんなりを作るとしたら、ポットはこれ。
ベチャベチャの茶葉がひっつきまくった茶こしを洗うのがとにかく嫌だったけども、これはフタと茶こしが一心同体なのでかなり良い。
今日も今日とて、水が美味いのである。魚心あれば水心。水について好きなだけ浅い知識を話せたので、良い眠りにつけそう。