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【突撃!岸田の文ごはん】阿部広太郎さんは、記憶に残る言葉に執着する

言葉の勉強をするために、私が大きなしゃもじを持ってプロのもとへ向かう「突撃!岸田の文ごはん」の時間だよ!

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今回お会いさせてもらった人は、阿部 広太郎さん。

電通のコピーライターで、「企画でメシを食っていく」というインパクトのある講座の主宰でもある。

※突撃したのは2020年2月10日です。現在、電通ではリモートワークを基本とした業務対応が行われています。

優しそうな人だなと思いながら、プロフィール写真を眺めていたら。とある一文に、私の目が釘付けになった。

「中学三年生からアメリカンフットボールを始め、高校、大学と計8年間続ける」


うぎゃあ。アメフト男子だ。

私の額にドババッと冷や汗が出た。

アメフト男子つったらおめえ、あれだ。

廊下を大股で闊歩し、金髪のチアリーダーを引き連れ、ベンツのオープンカーで登校したならば、ボンネットに寝転がりウィットに飛んだジョークをぶっ放す、あれだ。

生まれてこの方アメフト男子と絡んだことがないので、私のデータベースは90年代アメリカンドラマからアップデートされてない。

とにもかくにも、怖い。

プロフィール写真の優しそうな笑顔が急に、ヒグマのそれに見えてきた。

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待ち合わせ場所は、青山ブックセンターだった。
心臓をバクバクさせながら、待っていると。

「岸田さーん!こんにちは、阿部広太郎です」

でかい。

でかいが、想像の20分の1くらいのでかさで、人間味があって安心した。
知らんチアリーダーもいなかった。

フルネームで名乗ってくださったあたり、あっ、たぶん良い人だ、と認識を改めた。阿部さんはとっても温厚で、明るい人だった。

「早速ですが、タイトルを見て、良いなと思った本を5冊見つけてきてください!」

ただ、めちゃくちゃ唐突だった。

「えっ」
「じゃあ30分後に隣のカフェ集合で!」

そして阿部さんは忽然といなくなった。
マジでなにが起きたのかと思った。

10万冊の中から、気になるタイトルを見つけ出せ

落ち着きを取り戻した私は、本を探し始めた。

30分あったら余裕だろと思ってたら、全然ギリギリだった。
聞くところによると、青山ブックセンターには本が10万冊あるらしい。

10万冊!?!?!?!??!?!?!
本どころか、まず世の中にある何かを10万個も眺めたことない。

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アワアワしながら、エッセイの棚に狙いを絞り、探しまくった。

やっとのことで見つけ、カフェに移動すると、阿部さんが爽やかな笑顔で待っててくれた。

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阿部:どうでした?

岸田:大変だったけど、面白かったです。しかもタイトルだけ見て、2冊買っちゃいました。これなんのためにやったんですか?

阿部:良いタイトルって「自分が思う“良い”のものさし」がないと、つけられないって僕、思うんですよ。何を良いと思うのかを自分なりに言語化しておくのが、めちゃくちゃ重要じゃないかって。

岸田:だから良いと思うタイトルを見つけてきてって言ったんですね。

阿部:そうです!じゃあ、岸田さんが気になったタイトルを教えてくれますか?よかったら理由も!

岸田:ううう、上手く説明できるかどうか不安です。

阿部:大丈夫です!コピーも最初から上手くできる人なんていないので!

岸田:アメフト男子、前向きでめちゃくちゃ良いな……推せる……。


私が気になったタイトルの本は、こちら。(本当は青山ブックセンターのオンラインストアに繋がったけど在庫がなかったので泣く泣く断念)

「宮部みゆき 全一冊」宮部みゆき
宮部みゆきさんに特別詳しいわけではないが、「全」と「一冊」のアンバランスな言葉が目に入った。全三冊とかならわかるけど、一冊しかないんかいと。どんだけ濃い一冊やねんと。

「人間仮免中」卯月妙子
車だけじゃなく人間にも仮免があるのか。ハッとした後、私もままならないから仮免中だな、と納得してしまった。

「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」kemio
棺桶という死を意味する言葉と、永遠という正反対の言葉に、一体なにが書かれてるんだろうと気になった。「ウチら」っていう、ギャルっぽい言葉もなんか良い。

「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ」川上和人
これはずるい。えっ、好きじゃないの!?と思わず口に出してツッコミを入れてしまった。ものすごいことが書かれてそうな気がする。

「豊かに成功するホ・オポノポノ」ジョー・ヴィターリ
正直に言うと、時間が足りなかった。あと1分もない中で最後の一冊どうしようと思ったら、暴力的なまでの速度とインパクトで両目に飛び込んできた。豊かに成功したいのはや、ホ・オポノポノがわからなさすぎて、困惑した。

2つの違う言葉に、のりしろがあれば記憶に残る

阿部:オポノポノってなんなんでしょうね……?

岸田:気になって仕方ないです。同じ棚に「愛と感謝がもたらすオポノポノ」とか「知っておきたいオポノポノジャーニー」とか、オポノポノがずらっと並んでて。気がついたらオポノポノのことしか考えられなくなっていました。

阿部:つまり、パッと見て意味はわからないけど、惹きつける言葉だったということですね。岸田さんがnoteに投稿した記事だと「早稲田大学で、ズンドコベロンチョの話をしなくて済んだ」にも、惹きつける言葉が使われていると思います。

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岸田:ズンドコベロンチョを知らない人からしたら、惹きつける言葉なのか。すでにひとつ、私は自分が良いと思う方法を実践できてたんですね。

阿部:はい!良いタイトルの付け方だと思います。良い言葉って、記憶に残る言葉なんですよ。受け取った相手が頭の中で「あれが書いてるのは○○って本だったな」と思い出せる言葉。

岸田:記憶に残る言葉……!

阿部:記憶に残る言葉を作る、5つの法則があります。

岸田:喉から手が出るほど聞きたいし、なんならちょっと出てる。

阿部:その中の1つが「異なる単語を組み合わせる」。2つの違う単語を組み合わせると、新しい意味を想像できますよね。その想像が記憶になります。例えば岸田さんが選んだ「人間仮免中」と「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」は、まさにそうですね。

岸田:「人間」と「仮免」、「棺桶」と「永遠」!確かに違う言葉だ。しかもそれってどういうことなんだろうと想像してました。

阿部:まったく関係ない言葉より、正反対だったり、意味を掘り下げると共通点があったりすると活きてきます。これを言葉と言葉が重なる「のりしろ」と呼んでいます。

岸田:の、のりしろ!

阿部:僕が図書館のネーミングを担当したとき、「感想文庫」という名前をつけました。「感想文」と「文庫」は皆にとって馴染み深い言葉ですが「文」が共通しています。これがのりしろです。ちなみに本を読み終わったら、挟んでいるカードに手書きで感想を添え、人と人を繋いでいくっていうコンセプトなんですけど。

岸田:いちいち発想が爽やかすぎて、眩しい。

あと4つの方法については、2020年に発刊されたばかりの、阿部広太郎さんの書籍「コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術」に詳しく書かれているので、爽やかに読んでくれ。熱いメッセージが、軽やかに背中を押してくれるぞ!


I LOVE YOUを、今のあなたならどう訳すか

阿部:僕はコピーの書き方の講義をする時、「I LOVE YOUを、今のあなたならどう訳しますか?」ってまず質問します。岸田さんならどう訳しますか?

岸田:ここでバカ正直に「私はあなたを愛しています」って答えたら、あかんやつですね。わかってますよ私は!騙されませんからね!

阿部:ストレートに言うことが一番効く時もあるんですけどね。(笑) でも愛と書かずに愛を伝えようとすると、情景が思い浮かぶ、記憶に残りやすい言葉になります。

岸田:夏目漱石は「月が綺麗ですね」って訳したと聞いたことがあります!

阿部:美しいですよね。コピーライターになったばかりの頃の僕は「あ、消しゴム落ちたよ」って訳しました。

岸田:アオハルかよ!!!!!!!!!!

阿部:これは愛を「つまり」で広げて、思いつきました。

岸田:「つまり」で広げる?

阿部:愛とは永遠っていう壮大なものじゃなく、相手の小さな変化に気づく発見なんじゃないかと。だから「愛とはつまり、発見だ」って考えたんです。消しゴムが落ちたのを発見するのも、愛じゃないですか。

岸田:もし「愛とはつまり、時間だ」って考えたら、「I LOVE YOU」の訳は「ずっと一緒にいましょうね」になるかもしれないってことですね。

阿部:そうです!「つまり」の他にも、「たとえば」や「そもそも」も使えます。

岸田:いっぱい出てきそう!最初は難しそうだけど。

阿部:今は難しくても、言葉選びに執着心を持ってい過ごせば、たくさん言葉が思いつくようになるから大丈夫ですよ!

岸田:言葉選びに執着心。すごい言葉だ。

才能とは、かけた時間のことだ

阿部:僕は電通に入社して、人事局に配属されたんですけど、どうしてもコピーライターになりたくて試験を受けて異動したんです。3年で結果を出しますと面接で啖呵を切ったのに何も実らず…。コピーライターの登竜門である宣伝会議賞にコピーを2年間書き続けても、通らなくて。

岸田:どれくらい書いたんですか?

阿部:書いた紙で、段ボール一箱と小包一つが満杯になりました。

岸田:紙で!?

阿部:数えてみたら2223本でした。それで3年目にようやく、協賛企業賞を受賞できて、コピーライターとしての僕の存在を見つけてもらえたような気がしたんです。

岸田:努力の人だ……。

阿部:「君は向いてないかもね」って言われて、落ち込みました。でも諦めなくて本当によかった。

岸田:コピーを書き続ける時に意識したことってあるんですか?

阿部:1年目の頃からずっと続けてるんですが「僕が思う“良い”のものさし」を知るために、目についたコピーを書き写して、持ち歩いています。

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岸田:えっ、ちょっと見せてください!

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岸田:ぎゃーーーー!ボロボロの紙にビッシリ!言葉への執着を感じる!

阿部:12年間使ってます。

岸田:使いすぎ!

阿部:このコピーは何が良いって思ったんだろうと考えながら、一文ずつ書いていくとこんな感じに……。ページが増えると、ちょっとずつ自分のものさしも定まってきました。

岸田:コピーライターって才能の塊みたいな人たちばかりだと思ってました。なんかアメフトの練習風景を見ているようです。見たことないけど。

阿部:いろいろ考え方はあるけど、僕は才能って、かけた時間だと思うんです。だから言葉を書くことに苦手意識がある人でも、これから言葉との向き合い方次第で変われると伝えたくて、本を書きました!

岸田:コピーライターになってから、自分が書く言葉に自信は生まれました?

阿部:今も自信はないです。(笑)でも、言葉に対して向き合ってきた時間は確実にあるので。このクロッキー帳がお守りです。

岸田:どこまで爽やかな人なんだ……。私もいつか、この圧倒的な爽やかさを、爽やかという言葉を使わずに書いて、阿部さんを仰天させます。

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突撃の数日後、阿部さんから発刊されたばかりの書籍が届いた。

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爽やかを超越して、もう推すしかない。

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記事にいただいたサポートのお金で、母や弟(岸田家)と「したことない体験」に挑戦し、新しく記事を書きます。いつも応援ありがとうございます!

スキに圧倒的感謝
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28歳の作家。100文字で済むことを2000文字で伝える。車いすユーザーの母、ダウン症の弟、亡くなった父の話など。講談社・小説現代 連載、文藝春秋2020年1月号巻頭随筆 執筆。コルク所属。 Official WEB→https://kishidanami.com/

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コメント (1)
面白いし、勉強になるなあ。
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