28年、顔面になに吸わせたらいいかわからない〜アペックスとわたし・前編〜
顔の声が聞こえない女のモノローグ
自分の顔面になに吸わせたらいいかわからないまま、28年も生きている。
いわゆるスキンケアなのだけれど、吸わせるという表現から、いかにわたしが顔面を他人事に考えているかがわかる。
顔面というのは、人間のアイデンティティーを示す上でかなり重要だ。滋賀県民にとっての琵琶湖と同じくらいだと思う。
わたしの顔面は紛れもなくわたしの部品だけど、いまの調子がどうだとか、どうなれば良いとか、まったくわからない。
でも美容雑誌などでスキンケア特集を読むと、世の中の人はそうでもないらしい。
「敏感肌のあなたへ」
「お疲れ顔になる前に」
「肌にゆらぎを感じた時は」
自分の肌がどんな状態なのかを、みんながわかっている前提で書かれている。
わたしは驚愕した。
よろよろと立ち上がり、鏡を見てみる。
いつもどおりボンヤリして素直で良い子そうなわたしの顔だが、その肌が敏感なのか、おつかれなのか、ゆらいでいるのか、まったくわからない。
これ、世の中の人はみんな、わかってるのか。
すごくないか?
船艦のボイラー室にこもって「エンジンの声が聞こえるんじゃ」って言ってるおじいさんみたいなもんじゃないか。
正直なところ、肌のことをあまり気にせずにここまで来てしまった。
数年前からわたしは「美容についてよくわからないことは、モテている女のアドバイスに平身低頭従う」ことを信条にしているので、いろいろやった。骨格診断、パーソナルカラー診断、ブラジャー、コルセット。
肌についてだけは今まで何もしなかったのは「なにもしなくとも、それなりにキレイだった」からだ。母親の遺伝だと思う。余裕をぶっこいて、左うちわならぬ、左エアコン状態で、たかをくくっていた。
しいていえば、ドラッグストアへ出かけたとき「いま話題の化粧水」などの安直なポップを見て、適当にカゴへ放り込んでいた。
いまは日本酒から精製した化粧水と乳液を「日本酒を浴びて飲んでるみたいだから」という、泊まりにきた友人が絶句した理由だけで使っている。
朝用フェイスマスク、馬油、石鹸など、ファミレスのドリンクバーより雑多に顔面へと吸わせているが、もはやどれが効いているかもわからない。顔面も顔面で、ちょっとしたパニックになっていると思う。
もしかして、どれも効いていないんじゃないかという不安すら頭をよぎった。
鏡にうつったわたしの頬に、ついこの間まではなかった、茶色い点々が浮かんでいた。シミだ。わたしは、声にならない悲鳴をあげた。
Hello, my face.
そっちの調子はどう?
顔面に語りかけてみる。
わたしには、顔面の声が聞こえなかった。
肌トレという、うまい話があるというので
そんなとき、わたしのファンだと言ってくださるポーラ(POLA)の勝田彩さんからポーラの肌分析と化粧品を体験して、エッセイを書いてくれないかと声をかけてもらった。
いつもわたしは渡りに船どころか、渡りに母艦のような縁にめぐりあう。船頭に東郷平八郎付きくらい、心強い。
わたしの葛藤を読んでくれたのか、勝田さんは言った。
「とにかく岸田さんに、新しい体験をしてもらって、楽しんでほしいんです!商品のガッツリした宣伝より、正直に思われたことを書いてください」
そんなうまい話があっていいのかと三回くらい聞き返したけど、まぎれもなくうまい話だったので、秒でお世話になることを決めた。
というわけで、ここからはポーラをPRするエッセイだけど、28年間、顔面になに吸わせたらいいか迷い続けた女の誠実な体験談として、お楽しみください。
たった一人のために作られたハンドクリームの話
わたしが意気揚々と体験させてもらうのは
1. 肌状態の分析とプランニング
2. パーソナル化粧品APEX(アペックス)と、パーソナルエステによる肌トレーニング
ていねいなオリエンテーションで「まずは岸田さんの肌の状態をカメラとカウンセリングで分析して、数年後の予想もします。それから、岸田さんの肌にピッタリのアペックスのアイテムを選び、エステで肌の基礎力を一気に底上げしましょう」と言われた。
そびえたつ高層ビルの建築予想図を渡されたみたいな高揚感があった。
すごい。
なんか、きちんとしてる。
このきちんと感に比べたら、わたしが今までやってきたスキンケアなど、泥を固めて作った城だ。練度が低すぎる。
ともかく、自分がきれいになる機会をもらえるというのは、底抜けに嬉しい。
ウキウキしながらポーラのWEBサイトを見ていたら、なんか、最終兵器みたいな見た目で、最終兵器みたいなお値段の化粧品(B.A グランラグゼⅢ)があった。
わたしのような、日本酒を顔面に塗りたくる芸人が行っていいのだろうか。急に縮み上がってしまった。
調べてみると、ポーラは一人の女性への愛から生まれた会社だった。
創業者の鈴木さんが、奥さんの手が荒れているのを見て、独学でハンドクリームを作ってプレゼントした。商売ではなく、そこには大切な人に寄り添う愛があった。
ええ話やないか。
圧倒的な親近感が爆誕した。東海道新幹線みたいな速さで、距離を詰められた。わたしは、その愛を体験させてもらえるのだ。楽しまなければ損なのだ。
※こちらの記事は、ポーラのPRで元気にお送りします!
いざドキドキの肌分析へ!
体験の当日。
わたしはドキドキしながら、ポーラ ギンザに足を踏み入れた。
白いライトに照らされて際立つ、わたしのちんちくりん具合に、ちょっとだけふるえた。
わたしはデパートなどにある化粧品カウンターが、なにより苦手なのである。
八方美人どころか、四方八方美人な上に、立ち回りが下手(美人ではなく、ただの四方八方太郎)なので、製品をすすめられたらたいがい断れない。
以前、デパートの化粧品カウンターを訪れたら、なぜだか白いアイシャドウをやたらめったらにすすめられ、「アフリカの部族みたいになりませんか」とおそるおそる聞いたら、店員さんは「大丈夫ですよ。塗ってみますから目を閉じてください」と言い、目を開けたらやはりそこにはアフリカの部族がいた。目的が美容ではなく威嚇になっていた。
だけど、わたしの担当をしてくれた、ビューティーディレクターの塩見さんは違った。
「自分の肌のことって、最初はよくわからないですよね。岸田さんの肌の状態やお悩みからゆっくりお話できればと思います」
マスク越しでも、塩見さんが優しく微笑み、語りかけてくれるのがわかった。
わたしはまだ、知らなかった。この部屋を出るきっかり一時間後には、わたしと塩見さんは店員と客ではなく、ランナーと伴走者のような関係になっていることも、心を開きすぎて大学の奨学金について悩みを打ち明けそうになったことも。
「ポーラでは『肌を資産』として考えて、お客さまと一緒に肌を育てていくことを目指してるんです」
塩見さんの口から飛び出た、資産、という言葉にわたしはときめいた。貧乏性の小市民なので、両の目がわかりやすく¥マークになった。
わたしの資産といえば、スズメの涙みたいな貯金と、大きなしゃもじくらいである。肌を資産にできるなんて、素敵な響き。
「そのために科学や肌のビッグデータを使用した『センシング』と、ビューティーディレクターがお客さまに寄り添う『コーチング』の両面で、肌トレーニングをお客さまに提案します」
「肌のビッグデータってどれくらいあるんですか?」
「1870万件です(※2020年1月現在)」
数が膨大すぎて、一瞬脳裏を銀河系の映像がよぎった。ちなみにこの件数は、世界の企業や研究所でも群を抜いてるらしい。東京都の人口より多い。そりゃ抜くわ。
つまり、データの科学性と、塩見さんの共感性が、5.1chサラウンド立体音響でわたしの両耳に流れこんできて、肌が資産になるのだ。ちょっとしたアトラクションじゃん。
タブレットに表示される、お悩みの質問にポチポチと回答していく。
生活が不規則すぎるため、ほぼすべてに当てはまり、目をそむけたくなった。
最近は冷房つけたまま、朝方までPCを使い、外に一歩も出ず、天かすばかり食べている。
さっそく、くじけそうになったわたしに塩見さんが「作家さんだから、どうしても外に出る頻度は下がりますよね」「ええっ、週一で運動していらっしゃるのですか、すごい」「自炊されてるなんて素晴らしい」と、逐一励ましてくれたので、なんとか最後まで回答できた。塩見さんがいなかったら、逃げてた。
次に、カメラで肌を撮影。
大阪人なのでピッとされた瞬間に撃たれたフリをしたり、120円が一点とか言ったりしようとするも、やめた。
なぜなら撮影された肌に「ギャア」と叫び声をあげてしまったからだ。
こわい。なんか毛とか生えてる。油浮いてる。やだ。
タブレットに向けて、顔を動かす撮影もする。
無表情→ア→ウ→ア→ウ→無表情、の順番で顔をキビキビと動かすのだが、途中で笑ってしまい盛大な周回遅れになったので、2回撮影してもらった。
「動かすことでなにがわかるんですか?」
「肌の表面や筋肉の動きで、肌の未来の状態や今後のために高めておくべき力が推測できるんですよ」
これらのデータがすべて、センターに送られ、3分ほどで分析結果がわかるそうだ。
昔は分析結果は郵送で一週間くらいかかって送られてきたらしいので、かがくのちからってすげー!
はたして、28年間他人事として見過ごされてきた、岸田の肌の状態は?
アペックスは岸田をどう助けてくれるのか?
気になる結果は、後編にて!