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母いわく、前世はハワイの原住民

28歳にして、はじめてハワイへ降り立った。

数年前仕事でハワイに行ったと言う(言ってみてーわ)母が「ハワイはいい」「ハワイはいいぞ」「ハワイの空気を吸うだけで元気になる」「私の前世は、ハワイの原住民だったはず」というような供述を繰り返すので、ノイローゼになる前に、2年かけてキッチリお金を貯めて、やってきた。

弟にも「行くか?」と声をかけたら、「ええわ」と言われたので、今回は母娘のふたり旅である。

ちなみに、前世がハワイの原住民であると言いはる母は、成田空港で、50人に1人の確率でランダムセキュリティチェックに選ばれてしまい、別室へと吸い込まれるように消えて行った。

数分後、どことなく叱られた犬のような表情で戻ってきた母が「体にシールみたいなんペタペタ貼られた……」と言った。

なんやねんそれはと調べてみたら、火薬・爆発物検査だった。ハワイの原住民、めちゃめちゃ疑われとるがな。

「警察犬には、麻薬を見つけたら吠えるタイプと、座るタイプがいるんやって……」と、ちょっと見ない間に謎の知識もつけていた。

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そんな母も、ANAの新型ウミガメジェットに乗れると聞いて、この表情。

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めちゃくちゃ左の目ん玉から搭乗する感じになっていた。独特。

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このようにしてCAさんにお手伝いしてもらい、席へヒョイと移るのだ。

我々親子は基本的にかなり適当に毎日を生きているので「ホノルル空港って最近名前変わったやんな〜。タケシ・K・国際空港やっけ?」という会話をしていた。

離陸してアナウンスを聴いてからわかったが、正しくはダニエル・K・イノウエ国際空港である。北野武を称える国際空港ではない。

機内は乾燥するので、ドラッグストアでウキウキしながら「蒸気が出るマスク」を買ったのだが、なんと、自宅から持ってきたアイマスクがよりにもよって「蒸気が出るアイマスク」だった。アホなので完全に忘れていた。

突如として、目からも口からも、蒸気が吹き出る地獄の顔面サウナ女と化してしまった。火山を見学する夢を見た。

さらに我々親子は、基本的に英語も下手なのである。私は完全なる受験英語しかできないので「富士山は日本でもっとも高い山の一つです」みたいな発言しかできない。

Googleの音声入力翻訳アプリで「ワイキキに向かうバスはどれに乗ったらいいですか?」と吹き込むと、英語で「ワイキキのパンダがでんぐりがえり」とデた。

母にいたっては、入国審査がひどかった。

審査官「ア〜、シゴト、ハ?」
母「ウォーク イン カンパニー!(立って入れる会社)」
審査官「エイギョウ?ジム?(営業?ジム?)」
母「ティーチャー!(先生)」

おわかりだろうか。
相手はカタコトの日本語で喋ってくれているのに、緊張している母はカタコトの英語で返しているのである。

歩み寄りに詰め寄っていくタイプの女になっている。
しかも、間違っている。(ウォークではなくワーク)

審査官「ヒャクマンエン イジョウ オカネ  モッテル?」
母「百万円!? I want!(欲しい)」

現金100万円以上を持ち込む場合は税関で申告が必要であるという質問に対して、強欲を見せつけた。岸田家としては平常運転である。

このあと審査官がなぜか消えて、10分くらい待たされたので、「強欲とみなされて入国できへんのちゃうか」と本気で母と心配した。


出国する前に「絶対にこの旅を、珍道中にしてなるものか」という強い意志を持っていたが、先行きは怪しい。


さて。

ハワイの人は、明るく陽気だ。そして、障害のある人、お年寄り、小さな子どもなど、サポートを必要としている人にとても優しい。

母も空港から街中からお店からいろんなところで、助けてもらった。

ただ、ものすごく、アバウトっつーか、なんつーか。

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このように、右手と左手で別々の車いすを引っ張るという宮本武蔵のような荒業も。

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ハワイの空港シャトルバスには、車いすのまま乗れるリフトがついていて、街中のバスにもスロープがついているから、スムーズに乗れて超助かるんだけど。

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バスの運転手さんはだいたい歌ってるか、ハンズフリーで私用電話してるか、めっちゃお菓子食ってるかだった。

「まあ、でも、これくらいの方が気楽で良いんよね。おもしろいし」と母は言った。

丁寧で安全なのも大切だけど、あまり仰々しいとかえって気をつかってしまうので、車いすでよく人に助けてもらう母は、アバウトな感じがお好みのようだった。

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ハワイの道路は段差が少ないので、片手でコーヒー持ってても越えられるかなーと母とおしゃべりしつつ、写真を撮っていたら。

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ヌッとお姉さんがやってきて、押してくれた。すまねえ。

開き戸のエントランスに入ろうとすると、戸を開けて待ってくれる人がいたり。坂道にさしかかると押してくれる人がいたり。

ハワイだと、困った瞬間に誰かが気づいて助けにきてくれて、びっくりした。優しいのもあるけど、よく気づくなー、って思った。

そしたら、ハワイって、歩きスマホをすると罰金らしい。もちろんやってる人もいるけど、日本より少ないから、困ってる人に気づきやすいんかな。わからんけど。

ちなみに、さっき持っていたコーヒーは、スタバでオーダーしたコーヒーである。ハワイのスタバは、注文した人の名前をシールでプリントしてくれるのだが。

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「ヒロミ」っつったら、思いきり「エロミ」になっていた。自分の名前すらも英語で伝えられない我々である。


ホテルへのチェックインまでだいぶ時間があったので、なぜか海でもプールでもなく、動物園で暇をつぶしたりした。

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「ヤ、ヤギ、ペッティング、ヤード!?!?!?!!!!」

ここでも我々の英語力のなさが炸裂である。ホノルルで、ヤギを、ペッティングする。すごい。わけがわからない。英語力のなさゆえに、ペッティングというパワーワードに惹かれてしまう。

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母も娘も、めちゃくちゃヤギをペッティングした。得られたものは特になかった。

そのほか、道端の看板の動きを真似するなどの遊びを思いつき、とにかく時間を潰した。

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完全に遊び方が、戦後なにもない時代を生きた人のそれである。


そして。

満を持して。

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海〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
青い〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
楽しい〜〜〜〜!!!!
私、前世はハワイの原住民だったと思う〜〜〜〜〜!!!!


このときの私たちは、まだ自覚していなかった。

ハワイの物価の高さを。

2年かけてホクホク貯めた岸田マネーが、朝の小鳥のようにバサバサと羽ばたいていくことを。イメージ的にはラピュタの冒頭でラッパ吹くパズーが飛ばす、小鳥に近いことを。


……つづく!

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週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。