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のぞみN700系11号車には、なぜ13列と12列だけB席がないのか

その謎を確かめるために、探検隊はジャングルの奥地へ向かうこともなく、普通に出張を終えて品川駅から京都駅に戻るのでのぞみに乗った!

新幹線のぞみ号N700系の11号車について

いま、日本でもっとも利用者数が多い新幹線は、博多から東京までを結ぶ、東海道新幹線 のぞみ号らしい。さもありなん。

300系、500系、700系、N700系と改良を重ねるたびにどんどん速くなっていて、この夏ついにN700S系という新型が登場した。どんだけ進化するのか。

んで、いま一番運行本数が多く、かつ、岸田家が利用するのはN700系である。

座席数は、1323席。

大学時代の友人いわく岸和田のだんじりはだいたい40人でかつぐというので、33組ものだんじり衆が一斉に乗り込んでもまだ空席がある。

普通車は1列につき3席+2席、グリーン車は2席+2席の配置だけど、実は、11号車だけが少し変わっている。

11号車の最後尾13列目と12列目だけは、2席+2席なのだ!

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(引用 JR東海

この二列だけアルファベットでいうと「C席」にあたる1席が存在せず、そのぶん通路が広くなっている。それはなぜかというと。

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このように、車いすを横に置くためなのだ!

「いやべつに、車いすを横に置かんでも、荷棚とか最後尾の特大荷物スペースに置いたらええやん」

と思った人もいるかもしれない。実際、そうしている人はいる。でもそれができる人は原則「車いすが通路を通れるくらいコンパクトで、かつ、自分の足で歩ける人」だ。

車いすをないない(関西弁で片づけるの意味)してから、自分で歩いて席に座ったらいい。でもそれができない人もいる。

車いすから降りられない人

または

うちの母のような人だ。

母は、下半身麻痺で、足がまったく感覚がなく、力も入らない。じゃあどうやって乗り移っているかというと。


まず、手すりを上げる。

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ヨイショ!

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ふう。

これこのようになる。わたしが撮影するタイミングを完全に間違えてしまって、なぜか逆再生みたいになってしまったが、だいたいわかってもらえたらと祈る。

ちなみに、車いすを横に置ける席は11号車13B・12Bだが、

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なぜか手すりが上がるのは12Bだけというミステリー。これにより、母がひとりで新幹線を利用できる座席は、1323席 中 1席オンリーということになる。嵐のコンサートの良席よりシビアな倍率。

これ13Bも上がったらいいのにと毎回思うのだけど、なんでなんやろ。むやみにギミック増やすと、「手すりを上げるつもりがリクライニングしてもて、後ろに座ってたヤクザにバックアタックしてしまった」という恐ろしい事故でも発生するんだろうか。わたしなら、やりかねん。

今までは、13Bも12Bも、2日前までに駅に電話かメールして、事前予約が必要だった。車いすの人が優先で予約できる。

それより後になると、誰でも券売機購入できるので、「親戚が亡くなったから、今から急いで新幹線乗って、葬式行かな!」となると非常に厳しい。

真っ先に埋まる人気席なので。

このクラスで一番の美人がいるわけでもないのに、二枚目気どりの秀才やあのいやな悪党番長も胸をはずませ待っている。もっと言うなら、ベビーカー連れや、ギターなどの大切な荷物をとなりに置きたい旅行者、ちょっと広いスペースでゆったり過ごしたいビジネスマンも。

運命の女神さまがぼくにほほえむのを待つよりも速く、この席は埋まる。

気持ちはわかるよ。使いたいもんね。便利だし、快適だもんね。

でも、この席でしか、新幹線に乗れない人もいる。

うちの母は、当日新幹線に乗るときは、1時間、2時間待ちがザラだった。繁忙期は半日待つこともあって、東京駅の大丸で時間を潰しに潰しているうちに、異常に大丸のテナントに詳しくなりお土産大臣と化した。

一応、13Bと12Bが取れない車いすユーザーのための救済策もあって。

それがこれ。

多目的室。

11号車のデッキにある個室で、2席分の座席があり、なんと引っ張るとベッドにもなる。ここを特別に借りることもできる。

ちなみに母とわたしと弟の3人で入るときはどうなるかというと、パイプ椅子が1席投入される。

まさか新幹線でパイプ椅子に座る日がくるとは思わず、弟は微妙に困惑していた。否が応でも学校を思い出す。卒業生、着席!

だけどここはもともと、授乳するお母さんや、体調を悪くした病人のための部屋だ。車いすユーザーが借りると、彼らがずっと使えなくなり、それはそれで不安な人が増えるので、母はあまり使いたがらない。

ほんでこの多目的室、絶妙に狭く、席の配置がギッチギチなので、車いすに乗ったまま移乗できない人も多い。

下手すぎて逆に混乱を招くかもしれない図を書いてみた。(右下が多目的室の構造)

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ということで、母とわたしにとって、新幹線の席争奪戦は熾烈を極めた。

でも、今年5月から!なんと!のぞみでは11号車12列目(手すりが上がる席)は、原則車いすユーザーへの販売のみになったのだ!

とはいえ、上述のとおり、使いたい人はたくさんいるので、13列目は1ヶ月前から誰でも購入できるし、特大荷物スペースつき座席の予約も始まった。

これで、ずいぶん楽になった。

しかも、今日券売機の座席指定画面をふと見たら

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13列目には「車いすご利用のお客さまのための席」と表示されてる!

これがあるのとないのとでは、ぜんぜん違うとわたしは思う。車いすユーザーを尊べ!労れ!優先しろ!と言ってるのではない。これを目にした人が「あっ、ここってそういう人のための席なんだ!」と気づけることが、何より意味がある。

人は、不条理には怒ってしまう。

自分が利用したい席がなぜかいつも埋まっていたら、イライラするのも当然。「クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決」では、悪役・アカマミレが銭湯に行くと「俺は長嶋茂雄が好きだ」と彼の背番号と同じ3番の下駄箱を必ず毎日利用していたが、ある日、3番の下駄箱をアカマミレより早く草津のオッサンが使い、あろうことか鍵を持ち帰るという非道な事案が発生し、怒りで世界を滅ぼそうとするに至った。

これまで11号車13列、12列を好んで使っていた人が、地球を滅ぼすとも限らない。でもこの注意書きがあれば、思いとどまってくれるのではないか、と思う。

その事情を知った上でも「俺には13列目を使わにゃならん理由があるんや」という人は、堂々と使ったらいいと思う。なにも悪いことではない。知っているのと、知らないのとでは、雲泥の差がある。


と思っていたらとんでもねえ新幹線が走っていた

わたしがそんな文章を書いていたところで、品川駅ホームに滑り込んできたのは、なんと新型も新型ののぞみN700S系であった。

ぶったまげた。

運用は今年7月からと聞いていたので。

これはなんか、乗っちゃいけない類のやつかと勘ぐった。夢幻列車とか。魔列車とか。連れには煉獄杏寿郎もいなければ、マッシュもカイエンもいないので、ほぼ確実に死ぬ。

しかし現実だった。

ドキドキしながら、11号車に乗り込む。

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車いすスペースが爆増していた。

2席からの、6席へ。3倍である。確変。

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しかもバックアタックへの懸念は払拭されたのか、肘掛けも上がるようになっていた。これで母は、よほどの繁忙期でない限り、好きなタイミングで新幹線に飛び乗ることができる。

不安をともなう我慢をしなくていい、というのは、生きる豊かさに直結する。母はとても喜んでいた。

ちなみに、韓国のKTX(高速鉄道)でもこういうスペースはあるけど、椅子に移乗できるような工夫、コンセント、シートの上質さは日本が群を抜いていると感じた。

しかも、なんか、通路が虎模様になっていて。

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なんや大阪のおばちゃん仕様かいな〜と思って歩いたら、滑り止めだった。全方位への心づかい……これなら足も杖もおばちゃんのギャグも滑らない。

ビューティフルジャパン……!クールジャパン……!ありがとう、ジャパンレールウェイ……!


ところで駐車場について

新幹線のことに熱が入りすぎて、もうほかになにも書けなくなってしまったところにわたしの無計画性が光っているが、最後にひとつ。

車いすマークのついた駐車場も、ほぼ同じ理由で、特別な仕様になっている。

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こういうマークのついた駐車場を、見かけたことがあると思う。

勘違いしやすいのだけど、最大の特徴は

「出入り口に近い」

のではなく

「幅が350cm以上ある」

ということだ。

場所より、幅の方がなにより重要なのだ!

なぜかというと。

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新幹線と同じ要領で、車いすをピッタリと車の横につけて、移乗するから。(動画で見たい人はお馴染みのこちらを

これを普通の駐車スペースでやろうとすると、ドアが全開にできず、車いすも横づけできず、隣にヤクザの黒塗りベンツが停まってようものならぶつけて傷がつき色んな人生が終わってしまう。

だから、350cm以上の幅がない駐車場に、母は車を止められない。

よく車いす駐車場を「足の不自由な人や、妊婦さんが、お店まであまり歩かなくて済むように」という用途で使っている人がいるので、そういう人のためにも幅が狭い別の駐車場が用意されていたらいいのになと思う。

わたしは、母や弟と過ごしていると、気づくことが多いから、こうやって忘れないようにも書いているけど。この世の中にはもっともっと、わたしの知らない、誰かのための工夫があるはずで。

平気そうに見えるあの人も、ひとりで抱えている何かがあるはずで。

電車の優先席にすまして座ってるあの子も、もしかしたら、外からはわかんない病気で立ってられないのかもしれなくて。

目をこらして、耳をかっぽじって、心を開いて、エルモのような素直さで、探していきたい。

週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。