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飽きっぽいから、愛っぽい〜記憶と場所を巡る連載〜

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講談社『小説現代』で連載していたエッセイがnoteでも全文読めます。地元の神戸市北区、修行の北海道小樽、一人暮らしの東京……記憶と場所を紐づけてなにかを取り戻していきたい。(イラ…
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#エッセイ

飽きっぽいから、愛っぽい|筆を伸ばす、私を思う @西宮浜

飽きっぽいから、愛っぽい|筆を伸ばす、私を思う @西宮浜

講談社「小説現代」2020年9月号(8月21日発売)から、新連載を始めさせてもらうことになりました。

もともと、生い立ちに関する連載をしていたのですが、わたしが講談社の徳を積みまくる系敏腕編集・山下さんに甘えまくって、好き勝手に書きすぎたところ、当初の連載予定よりも早く現実に時間軸が追いついてしまうという、爆裂的な計画性のなさをふんだんに露呈する事態となってしまい。

「過去」と「場所」にまつわ

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飽きっぽいから、愛っぽい|空白の記憶に、視点を願う@鈴蘭台

飽きっぽいから、愛っぽい|空白の記憶に、視点を願う@鈴蘭台

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代1月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

人生は間違いなくひとつだけど、紙の年表みたいに平面的ではなく、彫刻みたいに立体的だ。

眺める角度や高さによって、見えてくるものがぜんぜん違う。ひとつの人生を、たくさんの視点を行き来しながら、わたしは味わっている。

美術館で、絵画を楽しむようだ

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母と50万円払って、神の奇跡を手に入れようとした話

母と50万円払って、神の奇跡を手に入れようとした話

講談社「小説現代 3月号」に連載しているエッセイ「飽きっぽいから、愛っぽい」をnote向けに一部抜粋と編集をして、キナリ★マガジン読者限定で公開しています。イラストは中村隆さんの描き下ろしです。

いまから、十年以上も前のことだ。

「どんな人でも歩けるようにしてくれる、神様のような先生が北の国にいるらしい」

大動脈解離の後遺症で、下半身麻痺となった母のもとに、とんでもねえ話を手土産にしてきた男

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飽きっぽいから、愛っぽい|無力なパンダは不幸にならない@神戸ハーバーランド

飽きっぽいから、愛っぽい|無力なパンダは不幸にならない@神戸ハーバーランド

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代4月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

「今回の表紙は、岸田さんも喜びますよォ」と編集部の人からもったいぶって伝えられてたんですが、地球が生んだ奇跡こと櫻井翔さんでした。喜びますっていうか恥ずかしい記憶が先に浮かび上がってくるので、直視できませんね。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

スーパー銭湯の休憩所で、わたしは

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飽きっぽいから、愛っぽい|川に弁当を捨てる祖父@久寿川

飽きっぽいから、愛っぽい|川に弁当を捨てる祖父@久寿川

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代5・6月合併号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

「お義父さん、久寿川にお弁当を捨ててたの」
告別式の朝、伯母は涙ながらに語った。

「それも毎日よ」

わたしは、なにも言えなかった。
笑いをこらえるのに必死だったのだ。

飽きっぽいから、愛っぽい|一度でいいから食べてみたい@戸越銀座

飽きっぽいから、愛っぽい|一度でいいから食べてみたい@戸越銀座

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代7月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

一度でいいから、完ぺきなチキンラーメンを食べてみたい。

完ぺきなチキンラーメンとはもちろん、麵の上に美しい半熟卵をポトンと落としたチキンラーメンのことだ。白身は、麵が見えなくなるほど白く、ふっくら固まっていてほしい。

何度やってもうまくできな

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飽きっぽいから、愛っぽい|カニサボテンの家を売る@大阪市中央区谷町

飽きっぽいから、愛っぽい|カニサボテンの家を売る@大阪市中央区谷町

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代8月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

ついさきほどの家族会議で、祖母の家を売りに出すことが決まった。

祖母の家は、大阪の谷町にある。大阪駅や難波駅にほど近いが、そのわりに古い寺院が多く静かなところで、暮らすには人気の町だ。

わたしが物心ついたときから、祖母の口癖は「あんたが嫁に行

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飽きっぽいから、愛っぽい|お褒めいただき誠にスイミング@神戸のスポーツジム

飽きっぽいから、愛っぽい|お褒めいただき誠にスイミング@神戸のスポーツジム

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代8月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

その日、母が用意した夕飯は、久々のごちそうカレーだった。

ごちそうカレーとは、岸田家の各々がごちそうと認定するおかずを、心の向くままに好きなだけトッピングできるカレーのことである。まず一人につき一皿、ふつうのカレーが配膳される。ルウの箱裏面に印

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飽きっぽいから、愛っぽい|剥いてくれるんなら@福島産の桃

飽きっぽいから、愛っぽい|剥いてくれるんなら@福島産の桃

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代10月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

好きな果物はなにかと聞かれると、いつも答えに悩む。

答え方次第では「これはお裾分けをいただけるのかもしれない」と思うと、余計に悩む。わたしの好きな果物ランキングは「剝かれた状態」なのか、「剝かれる前の状態」なのかで、著しく様相が変わるのである

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飽きっぽいから、愛っぽい|書く、出会いなおす@福岡県糸島市

飽きっぽいから、愛っぽい|書く、出会いなおす@福岡県糸島市

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代11月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

実家に帰ると、母は朝食を作ってくれた。

お手製のホットドッグは、ウインナーの下にパリッとしたレタスが敷かれている。一人暮らしのわたしにはない発想だ。レタスは値段が高いのにでかくて使いきれないから買わないし、買っても挟むのが面倒だからそのままバ

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飽きっぽいから、愛っぽい|すすめづらいものを、他人にすすめる@北海道札幌

飽きっぽいから、愛っぽい|すすめづらいものを、他人にすすめる@北海道札幌

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代11月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

ひとりの医師に、一冊の本を届けるために、北海道へ飛んだ。

十月といえど、全国的に夏日が続いていたので、汗っかきのわたしはスーツケースに半袖のブラウスを詰め込み、Tシャツを身にまとってきてしまった。

新千歳空港の地下から電車に乗り、札幌駅で降

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飽きっぽいから、愛っぽい|混浴のバスケットボール@岩手県の老舗温泉旅館

飽きっぽいから、愛っぽい|混浴のバスケットボール@岩手県の老舗温泉旅館

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代1・2月合併号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

温泉の季節がやってきた。

わたしは無類の風呂好きである。

昔の平城京のごとく病魔に襲われまくっている家系である岸田家では、健康一番、カステラ二番。母は「食事と睡眠と風呂だけはしっかりしとき」と耳にタコができるほど言う。わたしが実家で暮

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飽きっぽいから、愛っぽい|葛藤のシングルライダー@東京ディズニーランド

飽きっぽいから、愛っぽい|葛藤のシングルライダー@東京ディズニーランド

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代3月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

ふと、落ちたくなるときがある。安全バーに守られた状態で。

この世にストレス発散の手段は数あれども、わたしはとにかく絶叫マシンに乗りまくっている。無骨なジェットコースターがいい。浮遊感と疾走感をガッツリ感じて、ガッツリ叫びたいのだ。

たとえば高

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飽きっぽいから、愛っぽい|絶対に取れない貯金箱@小豆島の旅館にあるゲームコーナー

飽きっぽいから、愛っぽい|絶対に取れない貯金箱@小豆島の旅館にあるゲームコーナー

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代4月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。

表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。

おこづかいをもらえる日といえば、ゲームセンターへ行くと決まっていた。六歳から十歳くらいの間まで、特に通いつめていたが、子どもだけで行ってはいけないと学校から決められていたので、いつも父方の祖母が連れて行ってくれた。

もう今は名前が変わってしまっ

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