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家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

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NHK BSプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の原作エッセイ・撮影現場レポートのまとめ。ドラマは“岸本七実”が主人公のトゥル〜アナザ〜スト〜リ… もっと読む
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家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

私が住んでいる東京という大都会に、母と弟が来た。
ひろ実と良太が来たとも言う。

母からのリークによると、新幹線の中で、弟は何度も「奈美ちゃんは?奈美ちゃんは?」と、母に聞いていたそうだ。

なるほど、なるほど。
それはそれは猛烈な歓迎を受けるに違いないと、相応の準備をしていたら。

弟に真顔で「よう」と言われた。
ちょっとちょっと。話が違うじゃないか。

弟心は、秋の空ほど移り変わる。

さて、

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弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

高校から帰ったら、母が大騒ぎしていた。
なんだなんだ、一体どうした。

「良太が万引きしたかも」

良太とは、私の3歳下の弟だ。

生まれつき、ダウン症という病気で、知的障害がある。
大人になった今も、良太の知能レベルは2歳児と同じだ。

ヒトの細胞の染色体が一本多いと、ダウン症になるらしい。
一本得してるはずなのに、不思議ね。

「良太が万引き?あるわけないやろ」

ヒヤリハットを、そういう帽子

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先見の明を持ちすぎる父がくれた、移民ファービーとボンダイブルーiMac

先見の明を持ちすぎる父がくれた、移民ファービーとボンダイブルーiMac

先見の明を持つ人って言うと。
うん。
織田信長だよね。

なんてったって、火縄銃を大量導入してっから。
戦国大名が「無理やがな」って匙投げてんのに、モリモリ導入してっから。
騎馬隊、木っ端微塵にしてっから。

でもね。
先見の明を持ってたのは、信長だけではねえのよ。

そう。

私の父、浩二。

岸田家の信長と言っても、過言ではない。

信長は兵に、火縄銃を与えた。
父は私に、火縄銃に匹敵するブツ

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思い込みの呪いと、4000字の魔法

思い込みの呪いと、4000字の魔法

「奈美と結婚しても、ダウン症の弟くんの面倒を見る自信がない」

高校生の時、付き合っていた彼氏が言った。

ショックだったのは。
明るかった彼の、思いつめたような表情でも。
とつぜん切り出された、将来の話でも。
障害のある弟を、否定されたことでもなかった。

っていうか結婚とか急になにを言い出してんねん、どうしてん。

なにより「弟は私に面倒をかける存在で、私がその面倒を見なければならない」と思わ

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最愛の母に「死んでもいいよ」と言った日

最愛の母に「死んでもいいよ」と言った日

「ママ、死にたいなら死んでもいいよ」

大好きな母に、私が放った言葉です。
高校2年生の時でした。

ひどい娘だと思いますよね。
私もそう思います。
でも、母を救う唯一の言葉でした。
それしか見つからなかった。

話は少しさかのぼりまして。

私が中学2年生の時、父が突然死しました。
働きすぎによる、心筋梗塞でした。

父は建築系ベンチャー企業の経営者で、めちゃくちゃカッコいい存在でした。めちゃく

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櫻井翔さんと密室で30分間、対面したら2kg太った

櫻井翔さんと密室で30分間、対面したら2kg太った

2016年、3月。
私は密室で、櫻井翔さんと対面していました。
30分間も。無言で。

いや、本当だから。こじらせてないから。現実だったから。
……たぶん。

説明いたしますと。

我が社が総力を上げて取り組んでいる「ユニバーサルマナー検定」をね。
受講しにきてくださったんです。

嵐の櫻井翔さんが。

NEWS ZEROの担当者さんから
「櫻井翔さんが、ユニバーサルマナー検定の取材をしたいそうで

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何色かわからん龍の背に乗って(もうあかんわ日記)

何色かわからん龍の背に乗って(もうあかんわ日記)

毎日21時更新(今日遅れてしもたけど)の「もうあかんわ日記」です。もうあかんことばかり書いていくので、笑ってくれるだけで嬉しいです。日記は無料で読めて、キナリ★マガジン購読者の人は、おまけが読めます。書くことになった経緯はこちらで。

昨日はちょっとしんどいことがあったけど、今日はちょっと楽しいことが待っていた。

17日にテレビの出演があるので、一ヶ月ぶりに東京へ行く。大学生になったとき、はじめ

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絶対に、だいじょうぶの巻(ドラマ見学最終日)

絶対に、だいじょうぶの巻(ドラマ見学最終日)

5月14日(日)22時からNHKBSプレミアムで放送『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』撮影現場のレポート、過去の話は↓

「だいじょうぶ」って言葉は、不思議だ。

大好物のウインナーが品切れだったときに弟がボソッとこぼす「だいじょうぶ、だいじょうぶ」は、「しゃあない」っていう意味で。

三者面談でさんざんな通知表を見せながら先生が放った「だいじょうぶでしょう」は、「どこでもええ

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君こそスターだ!の巻(ドラマ見学7日目)

君こそスターだ!の巻(ドラマ見学7日目)

5月14日(日)22時からNHKBSプレミアムで放送『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』撮影現場の見学レポート、前回の話は↓

「今週末、沖縄でロケがあるんですよ」

プロデューサーから聞かされたとき、わたしは小学館の会議室で取材を受けているところだった。

「へえー、沖縄で!」

「みんなのスケジュールがさすがに合わないかと思ってたんですが、やっぱり行こうということに」

「そ

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耕助パパと愛しのボルちゃんの巻(ドラマ見学6日目)

耕助パパと愛しのボルちゃんの巻(ドラマ見学6日目)

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』ドラマ現場の見学レポート、前回の話は↓

とても、かなり、すごく、忘れっぽい。
わたしというやつは。

小学生のときは、忘れ物をしない日のほうがめずらしかったのではないか。絵筆やトイレットペーパーの芯やらをボンボン忘れ、図工の怖くて嫌味なオバチャン先生にいつも怒られ、泣いていた。

「絵筆持ってへんような子は、なにしに学校来たんかしらね。あー、

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大いなる愉快な第一歩の巻(ドラマ見学5日目)

大いなる愉快な第一歩の巻(ドラマ見学5日目)

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』ドラマ現場の見学レポート、前回の話は↓

ダウン症の役者さんの撮影がはじまるとき、プロデューサーが「ライブ感のある現場ですよ」と、意味深なことを言っていた。

その深い深い意味が、やっとわかった。

岸本家が車で出かけるシーンの撮影前。

ここはミニ草太を演じる小倉匡くんの見せ場だ。

あまりの愛くるしさに、心臓をワシッと掴まれていたら、

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家には人生が染み込んでいくの巻(ドラマ見学4日目)

家には人生が染み込んでいくの巻(ドラマ見学4日目)

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』ドラマ現場の見学レポート、前回の話は↓

こりゃ、どえらい作品となるに違いない……!

笑って泣けるジェットコースターのような脚本や、役者さんの演技もさることながら、撮影セットへ足を踏み入れたときに確信した。

なんなんだ、ここは。
わたしがこの日に訪れたのは、“岸本家の自宅”だった。

巨大な倉庫のようなスタジオの中に、一軒家が丸ごと建ってい

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泣きながら進め、七実ちゃんと奈美ちゃんの巻(ドラマ見学3日目)

泣きながら進め、七実ちゃんと奈美ちゃんの巻(ドラマ見学3日目)

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』ドラマ現場の見学レポート、前回の話は↓

早朝、まだ冷たい空気のこもっている地下駐車場で。

ぽつんと離れて立ってるわたしを見つけ、跳ねるように駆けてきてくれた河合優実さんの姿が、ずっと目に焼きついている。

「奈美さんだ!」

彼女の人柄が、岸本家を岸本家たらしめていると、その瞬間に思った。

そういう“結び目”みたいな人って、本当にいる。

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輝く一等星、草太くんと良太くんの巻(ドラマ見学2日目)

輝く一等星、草太くんと良太くんの巻(ドラマ見学2日目)

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』ドラマ現場の見学レポート、前回の話は↓

ダウン症の人が、連続ドラマでメインキャストを演じるなんて、日本で初めてのことだ。もしかしたら世界でも。

世界中から絶賛された映画『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』を観たとき、ザック・ゴッサーゲンみたいな名優が日本にもいたらいいのに、とわたしは強く強く願っていた。

まさかそれが、わたしの原作で叶うな

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